act.1-3

西暦2098年4月20日 11時39分

ISS管制室


≪こちら護衛艦ルフート、ISS聞こえますか?≫

「こちらISS。聞こえます」

≪ブラボー・アーカイムの近くを通り過ぎ、こちらに向かって来る物体がある。どこかの所属機体か?確認求む≫

「ISS了解。暫くお待ちください」

通信手のクリス・エマが、すぐさま地球軌道上の艦艇一覧を調べる。

しかしその様な艦艇は確認出来ない。

「こちらISS。艦艇は確認出来ません。小天体やデブリの可能性は無いですか?」

≪了解した。今までレーダーに反応がなかった為……不明だ。危険な場合は撃ち落とす。オーバー≫

通信が終わる。


 その十数秒後である。

ピーという警報音が監視モニターのスピーカーから響き渡る。

クリスはすぐに気付く。

「!? 報告!28の16、上空600km地点にて護衛艦ルフート、シグナルロスト!」

「何!? 周辺に急行出来る船は居るか!?」

管制長が怒鳴る。

部屋全体に緊張が走り、全員が確認作業に入る。

「輸送船リリアンマイン号が居ま……」

その瞬間、再び警報音が流れる。

「リリアンマイン号からSOS信号! あッ…………リリアンマイン、シグナルロスト……」

「何が起きているんだ! すぐにレスキュー部隊を出せ」

「了解です!」

別の通信手が答える。

「リリアンマイン所属機からもSOS信号受信!」

また別の通信手が報告する。

管制長、アダム・ディータがクリスの元へ飛んでくる。

「ルフートから何か通信は来ていたか?」

「はい、ロストする直前に。都市艦ブラボー・アーカイムの付近を通り過ぎ、こちらに向かってくる物体があるが、所属確認出来るか? というものでした」

クリスは冷静に答える。

「”ソレ”と接触した可能性もあるな……。その時の都市艦の座標からルフート接触までを考えると……秒速0.2、時速700km程か。ルフートが不審がるのも分かるが、何故撃ち落とせなかったんだ……ステルス機か?」

「そもそも、それがルフートに直進していたのであれば、発見ももっと早く出来ていたはずです。何故接触の直前に確認をしたのでしょう」

「ううむ……。ここで議論していても無駄だな。先の通信記録を提出しておいてくれ」

「分かりました」

管制長が離れ、クリスは席に座る。



西暦2098年4月21日 12時20分

国際宇宙都市艦 アルファ・アーカイム

同艦内アルファシティ アメリカ大使館


クリス・エマへの事情聴取

先日の事故を仮に「420事件」と呼ぶ。


「……質問は以上だ。他に追加事項はあるかな?」

「ありません。提出した通信記録が全てです」

「分かった。追って連絡があるまでアーカイム市内で待機していてくれ」

「分かりました、失礼します」

「ご苦労」

席を立ち、部屋を後にする。


 2階フロアから1階フロアへ正面階段で降りる。

1階フロア端の待合所のソファーに4人の男達が座っている。

そこへもう一人男がやって来る。

やって来た男に気付き、皆がソファーから立ち上がる。

「お待たせしました。FBIのコールスです。資料の準備で少し……」

そこまでは聞こえた。

怖いもの見たさか、本能的にか、彼らの言動が気になる。

正面入口を挟んで反対側にあるソファーに腰掛け、書類を整理するフリをする。

「先日のパイロットは身体・意識共に正常との事なので、予定通り面会します。接触した"物体"との記憶もはっきりしているそうです。本人にも連絡済です」

待っていた内の一人が告げる。

「分かりました。アルファシティ病院でしたね? ――」

彼らは話しながら建物から出ていく。

そして気付く、昨日の事故の輸送船、その所属機のパイロットの事だと。

昨日の事故は明らかに異常だ。

事故を引き起こした"物体"は明らかに隕石等ではない。今朝のニュースではそう報道されていたが。

その事件の一部を知っているだけに、隠されている事実が知りたい。

私はその欲求を抑えられない。

(たしかアルファシティ病院と言っていた……)

ひとまず大使館を出て、メインストリートまで歩く。

時計を見ればもう12時30分、軽く食事を摂っておこう。

丁度、通りの反対側にカフェが見えたので入る事にする。

信号を待ち、街を行く人々を見る。

ここアルファシティはこの艦の中心部であり、各国大使館やビジネス街が集中している。

周りを見ても、恐らくそれらに勤めている人達で溢れている。丁度昼休みの時間帯だろう。

道を渡りカフェへ入る。やはり人は多いが、カウンター席が空いていた。

「いらっしゃいませ、メニューです」

「どうも」

小柄な女性店員からメニューを受け取り、暫く考える。

「すいません、バーガーセットで、ドリンクはアイスティーを」

「かしこまりました」

メニューを返し、腕時計に内蔵されたホログラムモニターを起動し、地図を開く。

アルファシティ病院の位置を調べる為だ。

(ここから徒歩でも10分程度か……。あの男たちはきっとタクシーを使ったんだろうな)

そんな事を思いつつ、モニターを閉じる。

パイロットは一体何と接触して、何が起きたのか、頭の中はその事で一杯になる。

「おまたせしました、バーガーセットです」

ハンバーガーを胃に流し込み、病院へ向かう。



西暦2098年4月21日 13時20分

国際宇宙都市艦 アルファ・アーカイム

同艦内都市 アルファシティ病院


 病院へ入り、受付へ向かう。

その時、エレベーターから大使館で見た5人の男達が降りてくる。今から帰るらしく、丁度いいタイミングだった。

受付の女性へ声を掛ける。

「すいません、ISS所属のクリス・エマと申します。先日の"420事件"に遭われたパイロットと面会したいのですが」

身分証を提示する。ISSの制服でもある為、身分は十分に証明出来ているだろう。

「クリス……エマ様ですね。面会の予約はされていませんよね?」

「ええ」

「申し訳ありませんが、アメリカ政府より面会者の制限をされていまして、許可のない方は……」

「知っています。が、我々国連としても事実確認が必要である為、独自に捜査を行っております。……そうですね、パイロット本人から許可を貰えれば面会出来ますよね?確認して下さる?」

「ええ……」

受付の若い子は、面倒な事に巻き込まれた、という露骨な表情を浮かべ内線電話を取ろうとする。

私は笑顔で、どうぞと促すジェスチャーをする。

「……はい、お願いします。……エマ様、面会の許可が出ました。503号室です……」

「ありがとう」

作り笑顔を振りまき、その場を後にする。

正直今のは賭けだった。

ISSの身分を明かすのも、そのパイロットから面会の許可が下りる事も。

もし通報されたら間違いなく追われる身になる。だがあの受付の女の子はしないだろう。

そう自分に言い聞かせ、エレベーターで5階を目指す。


 503号室、その入り口に立つ。

(ラビ・デルタ……この男か)

ノックを3回。中からどうぞと聞こえる。

「失礼します」

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