act.1-2

西暦2098年4月20日 12時00分

アーマースーツ コックピット内


 コックピット内のモニターに、爆発を繰り返しながら轟々と火を上げ沈みゆく母艦、リリアンマイン号が映し出される。

「あ……あぁ……」

口が開いたまま、声にもならないかすれ声を一人あげていた。

静かにモニターに目を向け、機体の状態を確認する。

(アーマーの右腕は機能していない。残酸素量はこのままで持って30分。姿勢制御スラスターは生きている……)

≪リーダー! 無事ですか!?≫

突如無線が入る。

「大丈夫だ16R。生存者の確認は出来ているか?」

≪無事でよかったです。15部隊は全機船外に居たため無事だそうです。16部隊は4号機(新人の乗っていた164号)がシグナルロスト……。マイン号から脱出艇の発艦は認めていません……≫

「……了解した。こちらのSOS信号はキャッチされたか?」

≪ISS(国際宇宙ステーション)がキャッチし、レスキュー部隊が20分で到着予定です≫

「了解」

無線を交わしながら、正面モニターに16Rの姿が見える。


コードに付く”R”とは、レディオマン(通信手)用のアーマースーツを指す。

清掃作業用ではなく、母艦・護衛艦との通信、周囲環境の偵察・観察用の装備を搭載している。


≪リーダー、機体は無事で……その白いものはなんです?≫

16Rに機体をキャッチして貰う。

「こいつは、俺たちの船を襲った張本人の首だ。164を俺の目の前でやりやがった、な。でかい鳥のような姿をしていた」

格納庫で見た白い鳥を思い出し、背中に冷たい感覚が走る。

赤く光っていた”目”は光を失い、黒いただの窪みとなっていた。

≪そうだったんですか……。敵の兵器……それとも生物でしょうか……。これは大事になりそうですね≫

「あぁ。すぐにモニターの映像と一緒に提出しよう。……全作業員を集合させろ、機体が無事な者で、艦の生存者を探す。」

≪了解≫



 結局、護衛艦ルフート乗船員203名、リリアンマイン号乗船員110人の生存者は発見出来ず、遺体回収できた者も50人あまりであった。

その惨劇は、すぐさまニュースとなり世界中を駆けた。

デブリ清掃作業中の隕石との衝突事故として。

しかし、隕石との衝突とは考えられにくく、嘘情報はすぐにばれてしまい、アメリカに対する国・組織の仕業か、はたまた地球外生物の襲来かと騒ぎ立てられた。



西暦2098年4月21日 13時00分

国際宇宙都市艦 アルファ・アーカイム

同艦内都市 アルファシティ病院503号室


 ドアがノックされ、声が聞こえる。

「デルタさん、面会の方がいらっしゃっています」

「どうぞ」

昨日の事件に関する報告書を書くのを止め、隣の机へ軽く投げる。

お役所は今でも紙に書かせる、面倒臭い。


 部屋に5人のスーツの男が入ってくる。

「ラビ・デルタさん。FBIのジョナサン・コールスです。昨日はご愁傷様でした。大変御辛かったでしょう」

「お心遣い、感謝します。で、情報漏洩を防ぐために僕を消しにきたのですか?」

冗談気味に聞く。

「ハハハ、とんでもない! ドラマの観すぎです。昨日デルタさんが命がけでその”鳥”から奪い取ったパーツを、アメリカの主要研究機関が総力で解析している所であります。海兵隊在籍時だったら勲章ものでしょうな」

「ハハ……。で、要件は何なのですか? 報告書ならまだ10%も書いていませんが……」

「はい、本題をお伝えしますと、解析に入る前からほぼ確定的に分かっていたのですが、あの”鳥”は生物ではなく人工物です。明らかに人によって造られたものでした」

ジョナサンが胸ポケットから数枚の写真を取り出す。

今時データで無く紙媒体の写真とは。

「これは……」

「ヤツの頭を”解剖”し、中から出てきたパーツの一部です。何の意味かは分かりませんが、型番のような文字が印字されていました」

たしかに、パイプのようなパーツに文字が書かれている。

「では、人が造ったという事は確定的なのですね」

「はい。解析完了前にも大統領が数日のうちに表明を出す方向です。明らかなアメリカへ対する敵対行為だと」

「そうですか……。で、本題は?」

「あまりそちらには興味は無いのですね、では。唯一対象と接触したあなたを、重要な証人として今後我々の解析チームに参加して頂きたい。もちろん特例の証人保護プログラムによって常にあなたをお守りします」

「はぁ……」

「参加頂けませんか? どちらにせよ……」

ジョナサンが次の物騒なワードを口に出す前に話し出す。

「いえ、参加しても良いのですが、僕はただのロボット乗りで、専門的立場からの意見など、積極的な参加は期待できないと分かっているのでは? 何なら海兵に復帰させて貰って、アイツがまた出てきたらぶっ倒させて貰えたほうが本望だ! オレだって一人の部下を目の前で殺されて……」

俺は頭に血が上り、言葉がこぼれていた。

「まぁまぁ、落ち着いて下さい」

「俺だって何も分からないんですよ! ……あの20分間の映像。俺がモニター越しに見ていたあの光景がすべてなんですよ……」

次は言葉に詰まり涙が落ちてくる。情けない。

「申し訳ない。解析チームに入るというのは、あくまでも証人保護を受けるための文句であります。あなたの期待通り、再び接触する事態になった時の為、対策チームへ入って貰いたい」

「…………」

顔を俯ける。

「ご協力、頂けないですか?」

「……そうですか、分かりました」

「ご協力ありがとうございます。私の後ろの4人はCIAやDIAで、今回の事件について動いているエージェント達です。我々も一丸となって動く所存です。一緒にアメリカの為に戦いましょう」

「了解です」

「後日また連絡があると思います、ゆっくり休養を取っておいてください」

ジョナサン、その他4人と握手を交わし5人は部屋を後にする。


「アメリカの為に、か……」



西暦2098年4月23日 12時00分


 大統領の動きは早かった。

全世界へ向け、国家非常事態宣言を発動。

ラビが未知の敵と接触した際の映像を全て公開した。

未知の敵に対し、徹底抗戦を主張し、また使用された”新兵器”について解析が行われている事も明言した。

また、国連のスペースデブリ業者というグレーゾーンを盾にせず、米軍による宇宙空間での武力保持を明言した。


 これに反発する国家も当然多い。


 人類は、20分の未知との遭遇をした。

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