第3話 ドラゴン

「はぁーっ!ほんっとに美味しいですね!」


 俺が作った親子丼を目を輝かせながら掻き込むリューカルさん。美味しそうに食べるその姿に俺も少し嬉しくなるな。レシピ通りに作ったありふれた親子丼ではあるのだが。

 リューカルさんの住む異世界にも美味しい料理はあるが、俺の世界の料理は複雑でそれが美味しいらしい。まぁ、色々調味料あるしな。


「それは良かった。」


 リューカルさんの感想に返答する俺は、しきりに動くあるものに目を奪われていた。

 それは目の前の女性の背後でぶんぶんと動き、時にはビターンビターンと床を叩き何かを表現している。それは――尻尾だ。リューカルさんの。

 鱗を纏ったそれは、見た限り犬のように彼女の感情を表しているのだろう。

 ……そういえばリューカルさんって龍……じゃなかった。竜なんだよな、竜人じゃなくて。


 食べ終わって、満腹とばかりにお茶をすすりながらお腹をさするリューカルさんに俺は意を決して聞いてみた。


「リューカルさんって……ドラゴンだよね?竜人じゃ、ないよね?」

「うん?どうしたんですか、いきなり。」

「いや、最初に会った時、竜と言われたけど……ずっとその姿だし。」

「やだなぁ、トーヤさんったら。ドラゴンの姿じゃペンが持てないじゃないですか。」


 ごもっとも。

 異世界で売れっ子作家として活動するリューカルさんからしたらペンが持てる姿というのは重要だよな。俺が知ってるドラゴンのどの姿だとしても小さいペンなんて持てないわな。龍でも持てないだろう。


「ペンを持てるってこともありますけど、この姿だと少量でもご飯満足できますからね。ドラゴンの節約術です。」

「人化は節約術!?」


 ドラゴン節約するのか……何というかリューカルさんと会うまではドラゴンって尊大なイメージがあったから意外だな。彼女が特別な可能性もあるけど。


「あー、そういえば、トーヤさんに竜の姿を見せたことなかったですね。」

「尻尾や角が本物だとは分かるんだけど……こっちのファンタジー物には竜人もいるからそっちの意味で言ったんだと思ったんだよ。」

「いますよ、竜人。ですが、根本が違いますね。」

「根本?」

「簡単な話ですよ。竜人はドラゴンの性質を少し持っただけの人間。ドラゴンはドラゴンの力そのまんまを持つ生物です。人化の姿が近いからと言って能力は圧倒的ですから比べてはいけません。」


 ドラゴンの性質、ねぇ。人化したドラゴンと似ているってことは角や尻尾があるのはほぼ確定ということでいいだろう。あとはブレスが吐けるとかかな?

 

「ですがま、私もひけらかす訳ではないとはいえ竜は竜。見せてあげましょー!」


 そう言うと、リューカルさんは意気揚々と立ち上がると机から離れた。

 え、待って。話の流れからして、竜の姿に変身しようとしてない!?いや、この場合戻ろうとしているのが正しい……じゃねぇ!


「待って待ってリューカルさん!ここで変身したら!」

「だーいじょうぶですって!見ててくださいねー?」


 俺の制止も効果はなく、リューカルさんの体は光に包まれ、その光源の中からゴゴゴと響くような音が聞こえてくる。もしかしなくても変身の真っ最中なのだろう。何か夢がない変身音だなぁ……

 次第に光が収まりその中の者の姿が明らかになり始め、俺は唾を呑んだ。


「ほーらどうですか!立派なドラゴンですよー?」


 その存在はリューカルさんの声を発した。青く輝く鱗に床をしっかりと踏みつける4本の足。頭に生えた角は先ほどまでそこにいた彼女と同一のものだ。

 間違いない、俺の目の前にいるドラゴンはリューカルさんだ。

 だが――


「ちっちぇえ!?」

「えええええええええええええ!?」


 そう、小さいのだ。俺が想像していたのはもっとこう……一山位とは言わずとも家一軒分の大きさかと思っていたドラゴン形態のリューカルさんは、ぶっちゃけ軽自動車1台分位の大きさだった。

 んでもって小っちゃいと言われたリューカルさんは不服とばかりに尻尾を地面に何度も叩きつけた。


「小っちゃいって何ですか!私、初めて言われましたよ!?」

「え、でかいの?それで?」

「でかいじゃないですか!トーヤさんよりも!」

「いやまぁ、人間よりはだけど……」

「私、この姿で会う人会う人に『こんなでかいドラゴンは初めてだ!』って言われるほど伝説級の大きさなのに!?」

「ドラゴンの平均身長どんだけだよ!?」



 その後、リューカルさんに俺の持ってる漫画で適当なドラゴンを見せてあげると……


「いや、何ですかこの化け物。」


 とドラゴンの自分を棚に上げていたことを俺は忘れないだろう。

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