第2話 エルフ

 異世界と異世界の間にある俺たちが執筆活動に勤しむこの部屋は、俺とリューカルさんの部屋を混ぜ合わせたものとなっており、俺の部屋の冷蔵庫やテレビもあれば、リューカルさんの部屋のアーティファクトなる謎の置物だって存在する。

 勿論、俺の部屋の漫画もあるわけで俺は今先月発売された異世界転移物の漫画を読んでいた。対してリューカルさんはボーイミーツガール物のラノベを真剣な表情で熟読していた。ふんすふんすといった鼻息が聞こえそうなほどだ。


「……面白いですか?」

「えぇ、それはもう!この主人公が好きなはずなのにヒロインを応援するサブヒロインのもどかし感が……!」


 どうやらリューカルさんにとっての異世界小説はとてもお気に召したようだ。俺も再び読書に戻ると、漫画ではエルフが主人公の前に現れるシーンへと入った。この漫画の表紙にも出ていたし、ヒロインの1人かなこのエルフは。

 にしても、エルフってのは男女問わず美人だよな。年齢重ねても年老いないパターンもあればイケメン爺さん婆さんなエルフもいる。

 そうだ、リューカルさんの世界のエルフはどういう存在なんだろ。


「リューカルさんの世界にはエルフっているんです?」

「いますよーどれですか?」


 ……ん?どれ?……あぁ!なるほどエルフかダークエルフ、もしくは上位存在のハイエルフのことか?

 とりあえず聞いてみたいのは俺の世界の異世界物では多い森にすむエルフかな。


「えーっとですね、森に棲んでる普通のエルフを」

「普通のエルフって、なーに言ってるんですか。それ、森エルフのことですよね?一番普通じゃないの持ってきてどうするんですか?」


 可愛らしく首をかしげるリューカルさんだが、俺こそ何を言っているのか分からなかった。その口ぶりだとリューカルさんの世界のエルフはたくさんの種類がいるみたいじゃないか。

 そのことを聞いてみると……


「当り前じゃないですか。」

「え、えーっと?ちなみにどんな種族が……」

「火山エルフに海エルフに洞窟エルフ……あ、これはトーヤさんの世界のファンタジーに出てくるダークエルフに近いですね。あと森エルフと、天エルフ。砂エルフ、氷河もいますね。」


 思った以上に多っ!火山に森に海に洞窟に天に砂、氷河の7種類のエルフがいるのかよ……名前的にはそれぞれの頭につく単語の場所に生息しているということでいいのだろう。

 面白そうなので、それぞれのエルフの特徴を聞いてみることにした。


「まず火山エルフですが、基本的に熱血漢……というわけではないですからね?」


 え、違うの?それに相対する氷河エルフも全員クールというわけではないのか。人それぞれエルフそれぞれか。


「肌は赤黒く、火山エルフのことを知らない人が見たら細めのオーガと勘違いする人もいますね。火属性の魔法を得意として火山で掘り起こされた鉱物で武器を作ってそれで狩りをします。」

「でも火山って他の種族と交流するの難しそうですよね。」

「意外とそうでもないですよ?トーヤさんの世界と違ってアクセサリー1つで火山の熱気平気なんて普通ですから。」


 こちらからしたらアクセサリー1つで火山平気とか何それ欲しいってなるレベルなんだよな。何で熱が遮断されるとか考えても無駄なのだろう。こちらの人智など異世界の魔法的なものには遠く及ばない。

 さて、そこからもリューカルさんのエルフ解説が続いた。

 海エルフはサメやクジラを使役していたり、洞窟エルフはアリの巣のように洞窟を掘り進め生活している。天エルフは空に棲んでいるというわけではなく、空気が薄れるほどの高所に棲んでいる。砂エルフは砂漠で遭難した冒険者を手厚く保護して初見には厳しいワーム料理(!?)を振舞ったり……氷河エルフは常にもこもこした服を着ているらしい。エルフ特有のひょろっとした体型には寒さは応えるらしい。いや、そういう種族なら寒さが大丈夫なように進化しないのか……?


 とまぁ、森エルフを除く全てのエルフを説明し終えたところで、絶え間なく口を動かしていたリューカルさんは、俺が用意した冷たい麦茶で喉を潤す。

 ほぅ、と一息ついたところで続きを話さんとリューカルさんの視線が俺に向かれ、俺もつられて背筋を伸ばした。さぁ、リューカルさんが一番普通じゃないと言わしめる森エルフとは……!?


「まず、大前提として各エルフは共通語を使って会話します。これは、言語能力を有する魔物ですら利用する言葉なんですが……森エルフは使いません。」

「えぇ……?」

「何故か、森エルフは独自の言語を使って会話するんですよ。ですので、もし森エルフと交流するのであれば、通訳が必要となります。」


 魔物ですら使う言語を使わないのか、森エルフ……なんだか嫌な予感がしてきたな。


「森エルフは他エルフと違ってとても野性的です。森を駆け巡り、獲物を焼いて喰らい、大物が獲れればウッホホウッホと踊りあかします。」


 どこの部族だよ、そのエルフ。だんだんと俺のエルフ像が砕かれていくんだが?一番天エルフが想像していたエルフに近い気がしてきたぞ?


「そして森エルフの一番厄介なところは強いものが正義、欲しいものは必ず手に入れるといったところで、仮に彼らの森に冒険者が入り込み、その冒険者が森エルフの好みだったのであれば……音もなく攫い、集落に連れて帰り、力づくで屈服させ己の物とします。」

「野蛮人っ!」

「もれなく全員が美人ですからね、喜んでものにされる人もいるとのことです……」


 思わず漏れた大声にリューカルさんは困ったように笑う。どうやら被害者は結構いるようだ。……森エルフ恐るべき。

 他エルフも森エルフのことは野蛮人ならぬ野蛮エルフと蔑んでおり、一緒にされたくないらしい。

 完璧にエルフ像が崩れ、頭を抱える俺に、リューカルさんは優しく肩を叩いてくれた。


「大丈夫ですよ、トーヤさん……トーヤさんの心の中の異世界のエルフは、きれいなエルフですから。」

「そう、ですね。」


 ……何だこの締。

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