俺の知らないファンタジーを彼女は知ってる

第1話 オーク

 俺の名前は、瀬下内冬弥。いたって普通の会社員で趣味はネット小説を書くことだ。書いている作品は主にファンタジー小説。さらに言えば異世界物を書いている。

 カタカタとパソコンに向かって連載中の小説の次の話を書いている俺はふと、向かい側で原稿用紙に自分の物語を書いている彼女に話しかけた。


「ねぇ、リューカルさん。」

「はい、なんでしょう?トーヤさん。」


 リューカルさんは、走らせていたペンを止め、原稿用紙から顔を上げ、俺に視線を向けた。トカゲや蛇を連想させるその目は、彼女が人間ではないことを証明しているが、そんなことは最早どうでもいいことだ。俺はリューカルさんに質問を投げかけた。


「オークってやっぱり女性を性的な意味で襲うの?」


 ……我ながら女性に聞く話ではないよな。だが、気になってしまったのだからしょうがない。

 ファンタジー世界には割とお約束なオーク。豚、もしくは猪の顔を持ち人のように二足歩行をする魔物。有名な話だと、豊満な体を持った金髪女騎士を襲い、女騎士が「くっ、殺せ!」と言っているのに対し、性的に美味しくいただく――というものだ。

 普通、こんな話をすれば、女性は嫌悪感を出すだろうが、彼女はそういう話題を忌避するような女性ではない。今だって俺の質問を何でもないように受け止め、ペンを口に当て少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。


「そうですね、襲います。」

「それはメスのオークがいないから?」


 オークはオスしか生まれて来ず、それ故繁栄のためには多種族の女を捕らえ、孕ませるというのが定石だ。俺の昔書いた小説に出たオークもそういう種族だ。


「いいえ?私の世界では、メスのオークはいますよ。オーク同士で結ばれるのが普通です。」

「え?それなら人間の女を襲わないんじゃ……?」

「人間にもケモナーいるじゃないですか。」


 そういう問題なんですかねぇ……?いや、俺もケモ耳とかドラゴン娘とか好きですよ?ぶっちゃけ、リューカルさんも滅茶苦茶かわいいし……おっといけない。

 ともかく。確かに人間にも色んな趣味嗜好を持った者がいる。それこそ、殆ど動物じゃねーかってものにも欲情する人も少なからずいる。擬人化じゃないポケ○ンのエロ大歓迎も多数派じゃないにしろ間違いなくいる。


「えっと……それで人を襲っちゃうと。」

「まーでも、私の世界のオークは地域によっては亜人の一種ですからね。もちろん魔物として扱われるところもありますが……強姦した場合は勿論罰が下ります。」


 そりゃ勿論罰はあるよな。だけど、亜人として扱われるなら、魔物みたいに問答無用に討伐というわけにもいかなさそうだが、一体どんな罰が……?


「そのオークのつがいまたは家族に局部ちょんぱされるんですよー」

「ちょんぱ?」

「そんでもって番とその家族は、被害者女性の所に行って局部と蓄えてた金銀財宝持ち込んで謝るんですよ。えーっと、こっちでは土下座って言うんですよね?"オーク謝罪の儀"って。」


 こっちの世界の土下座=オークが性犯罪行った時に親類が行う謝罪のポーズなのか……なんだかなぁ……

 リューカルさん曰く、最近では金銀財宝と目当てに人間の女の方から雄オークに迫り自分は襲われたんだと嘘を吹聴するんだとか。異世界でも女恐ろしいなオイ。

 

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