第6話 部員が元ひきこもり四人になりました。
翌日の放課後、俺は中庭にいた。
なぜなら、土曜日に希に渡しそびれたペンダントを渡すためだ。そのため、昨夜に放課後に中庭に来るようにと、希に連絡をいれておいた。
「そろそろかな」
「すいません、奏斗先輩」
「……っ⁉」
相変わらず、先輩という言葉に動揺を隠せない俺。
「今日は何の御用ですか?」
「大した事ではないんだけど、これを希に渡そうと思って。はい」
「何ですか、これ?」
希が紙袋をきれいに開ける。
「な、何ていうか、それは僕からのプレゼントで、お守りみたいなものだよ」
「う、嬉しいです!でも、これって……」
「まあ、僕からの先輩としての最後のお節介かな?」
「そうですか。一生、大事にしますね!」
そう言って、満面の笑みを見せた。
そんな笑顔を見せられたら、また何かしてあげたくなるのは男の性だろうか?この時、俺はまた彼女の役に立ちたいと思ったのだ。
「あと、もう一つ、希に用があるんだ」
「何ですか?」
「それは希に謝らなくてはいけないことなんだ。俺、希とのこと思い出したんだ……」
「ほ、本当ですか?」
「うん。まあ、ほとんど姉ちゃんのおかげなところはあるんだけどな。とりあえず、希、今まで忘れててごめんな」
「か、奏斗先輩……もう全くですよ!私はかーくんが覚えているって思っていて、楽しみにしていたのに全然覚えていないし!それに、部活なんて作って、他の可愛い女の子と仲良くして!私、とても悲しかったんだから!」
「の、希さん?」
「それにかーくんは――」
「も、もういいから!俺が悪かった!この通り反省しています!」
そう言って、俺は深く土下座した。
「本当に……反省してる?」
「はい!」
「分かった、許す。だから、顔を上げて」
「はい」
そして、俺は立ち上がる。
「じゃあ、改めて謝罪を」
「分かりました!」
さすがに、許してくれたんだから、改めて謝罪することなくね?とは言えず、素直に指示に従う。
「希!本当に――」
「ち、違う……」
「え?な、何が?」
「よ、よ、呼び方……」
「って!それは昔の呼び方で――」
「い、いいから!」
「はい!の、のんちゃん……今まで忘れていて申し訳ございませんでした!」
「ゆ、許す」
「ありがとうございます!」
「そ、それと、かーくんとのんちゃんって呼び合うのは二人きりの時だけでいいから」
「お、おう」
「うん。かーくん、私からも言いたいことがある」
「な、なんだ?」
「私も、悩み相談部に入部する!」
「え?い、今なんて……」
「だから!私もかーくんと同じ悩み相談部に入部する!」
「マ、マジで?」
「うん。私が入部するのが、そんなに嫌なの?」
希が不安そうに言う。
「嫌って訳じゃないんだけど……ま、まあ、とりあえず、部室に案内するよ」
あ~これはもうややこしくなることが目に見えてるな……
そして、俺は希を連れて部室に行った。
「奏斗遅い!」
「……」
「すまん、すまん」
相変わらず、美羽はスマホを触り、春奈は読書か。
「それより、奏斗くん。そこにいる女の子は誰?」
「うんうん」
「紹介するよ――」
「初めまして、中島希です。今日から悩み相談部に入部することになりました!」
「「え?」」
「そ、そういうことだから、仲良くしてやってくれ」
「奏斗、これは一体どういうこと?」
「そうよ、その子とはどういう関係なの?」
「え、えっと……」
やばいな、この空気……今すぐここから逃げ出したい……
「では、私から説明しますね」
「なるほどね。つまり、希は依頼をしてくれた生徒で、実は奏斗とは昔に会っていて、奏斗は今日まですっかり忘れていたって訳ね。そして、入院暮らしが長かった元引きこもり?少女なのね」
「昔に奏斗くんと会っていたってのは先を越されているみたいで、気に入らないけど、今日まで忘れられていたってのには同情するわ。奏斗くん、筋金入りの朴念仁なのね」
「私も同感だわ。希、こっちにいらっしゃい」
「はい、先輩!」
「な、何か上手いこと希が溶け込んだのはいいけど、俺をそんな可哀そうな目で見つめるな!」
三人が俺を可哀そうな目で見つめる。
素直には喜べないが、三人とも意気投合してるな……
「それで、希ちゃん。部活届は提出したの?」
「まだです。この後、山本先生に提出しに行こうと思っています」
「そっか。これで、元引きこもりが四人か~」
「そうね。私たちみたいな部活なんて、そうそうないんじゃない?」
「多分、全国どこ探してもないだろうな」
「そうですね。じゃあ、私、職員室に行って来ますね」
そう言って、部室を後にした。
「それにしても、何でかな~奏斗くんの周りに女の子が集まるのは」
「本当よね。春奈以外にライバルができるなんて……」
「ライバル?何だそれ?」
「「はあ~」」
二人が俺に呆れたように溜息をついた。(※奏斗はかなり鈍感です)
「奏斗はこんな感じだし、時間が掛かりそうね」
「そうよね……」
「え?」
俺には何のことかさっぱり分からん……
しばらくして、希が部室に戻ってきた。
「ただいま戻りました!これで、今日から私もみなさんと同じ悩み相談部です!これからよろしくお願いします!」
「おう」
「よろしくね、希」
「まあ、奏斗くんのことでお互い、悩むことが多いと思うけど、よろしくね」
「はい!私、二人には負けませんから!」
「私も負けないわよ、希。覚悟しておきなさい!」
「私もよ、希ちゃん!」
三人の間に火花が散る。
何か、勝負事でもしているのか?(※奏斗はかなり鈍感です)
「それより、希ちゃんの歓迎会とかしない?」
「俺も賛成だな」
「そうね。春奈にしてはいいアイディアね」
「あんたに言われたくないわよ!」
「おいおい、喧嘩はやめろよ」
「「別に喧嘩じゃないから!」」
「そ、そうか」
仲が悪そうに見えて、息ぴったりだな。
「私のために歓迎会なんてありがとうございます!」
「別に気にしなくてもいいぞ」
「そうよ。私たち同じ部員なんだし、それにライバルなんだから」
「春奈先輩……」
「そういう訳だから、希は何も気にせずに私たちに歓迎されなさい!」
「はい!ありがとうございます!」
さっきから、ライバルって単語がちょくちょく出てくるが、未だに理解ができんな……
「じゃあ、早速だけど、今からファミレスにでも行きますかぁ~!」
春奈が高々と手を上に挙げて言った。
「え?今から?」
「さんせ~い!」
「行きましょう!」
俺以外の二人は賛成のようだ。
「さ、三人ともオッケーなの?」
「「「うん」」」
「そ、そっか……じゃあ、行くか」
もちろん、姉ちゃんへの連絡は必須だ。
俺は姉ちゃんへの連絡を済ませ、学校を出た。
「私、学校帰りに誰かとファミレスとかに行くの夢だったんですよね~」
「そうなんだ。希は入院生活が長かったからな」
「ま、まあ、私は経験があるけど……」
「わ、私もあるわ……」
うわ~嘘くさいわ~
「そうなんですか!羨ましいです!」
「希、それ嘘だから」
「「……っ⁉」」
「そうなの?」
「おう。だって、二人の様子からして明らか強がっているし、それに二人は友達ほとんどいないし」
「なるほど~」
「の、希、納得しなくていいから!」
「そうよ!それに、奏斗くんも余計なこと言わなくていいから!」
「ごめんごめん」
「それより、そういう奏斗は経験あるの?」
「俺は光輝と何回か行ったことがある」
「奏斗のくせに生意気ね……」
「奏斗くんも私たちの仲間だと思っていたのに~」
「悪いな。俺には親友がいるもんでな」
そういえば、その親友の光輝とは全然遊んでないな~まあ、あいつは部活があるし、そんなに頻繁に遊んでいた訳でもないがな。
俺たちはファミレスに着き、店内に入った。
時間帯が良かったのか、客はそれほど入ってはおらず、すぐに席に案内された。
「ちょっと希!何で普通に奏斗の横に座っているのよ!」
「こういうのは早い者勝ちじゃないですか?」
「違うわよ!もちろん、じゃんけんよ!」
「おい、お前ら――」
「奏斗は黙ってて!」「奏斗くんは黙ってて!」「奏斗先輩は黙っていて!」
「は、はい……」
こいつら、何で席を取り合っているんだ?(※奏斗はかなり鈍感です)
結果、春奈が勝利した。
「さあ、今日はパーっとやりましょう!」
と、美羽が仕事終わりのサラリーマンのようなことを言った。
「おー!」
「「おー」」
そして、俺たちもそれに便乗するが、心なしか、美羽と希が少しテンションが低い気がする。
その後、俺たちは料理をてきとうに注文した。
「じゃあ、私、ドリンク入れてきますね。先輩たちは何がいいですか?」
「希ちゃん、私も行くわよ」
「ありがとうございます。奏斗先輩と美羽先輩は何がいいですか?」
「俺はコーラで」
「あ、私も」
「分かりました」
そう言って、春奈と希がドリンクを入れに行った。
「それにしても、俺たち、周りの環境が随分と変わったよな~」
「そうね。これも全部、あんたのおかげね。ありがとう」
美羽が不意にそんなことを言うので、俺は驚きを隠せなかった。
「ど、どうしたんだよ、急に。お、お前らしくないぞ、熱でもあるのか?」
「な、ないわよ!わ、私だって礼の一つくらいちゃんと言えるわよ」
「そ、そうか。でも、お前からそういうこと言われるのは、素直に嬉しいよ……」
「……っ⁉は、はあ?べ、別に奏斗に喜んでもらうために言ってないし!」
「やっぱり、そっちの方が美羽らしいよ」
「な、何よそれ!」
「そのままの意味だよ」
「二人とも何話しているんですか?」
ドリンクを持って、春奈と希が戻ってきた。
「俺たちは出会う前に比べて随分変わったなって話をしていたんだ」
「そうなんですか。私もそれ分かります!」
「希ちゃんも⁉私もそれ分かるな~」
「ですよね!これも全部、奏斗先輩のおかげですね」
「俺は別に大したことはやっていないよ。でも、美羽にもさっき言われたんだけど、そういうことを言ってもらえるのは素直に嬉しいよ。まあ、俺自身、三人のおかげで変われたとこもあるし」
「あ~もうそういう話はやめにして、早く歓迎会始めましょう」
「美羽先輩、もしかして照れてるんですか~?」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
「照れてる~」
「は、春奈まで何言っているのよ!」
何か微笑ましいな。
「奏斗も何笑っているのよ!」
「俺か?何か微笑ましいなと思って。そんなことより、そろそろ始めないか?」
「だから言ったじゃない!」
「ですね!」
「さんせ~い」
「それではかんぱ~い!」
と、春奈が取り仕切り、音頭をとる。
「「「かんぱ~い!」」」
「私、こういうのやってみたかったんですよね~」
「私も同学年くらいの子とやるのは初めてね。奏斗くんと美羽は?」
「俺は数回ある」
「私も」
「奏斗くんはまだしも、美羽あるの⁉」
「あ、あるわよ!」
「それはエアー友達とがじゃなくて?」
「な訳ないでしょ!私を何だと思っているのよ!」
「ごめんごめん、さすがにそれはないか~」
春奈が笑いながら謝る。
正直、俺も美羽がエアー友達とか作っていてもおかしくはないと思っていたが、さすがにそれはなかったか。
「それより、もうすぐ夏休みだけど、みんなは予定とか決めているの?」
「私は家族旅行は毎年あるわ」
「私は特に予定はありませんね」
「俺もだ」
「そっか。私も特に予定はないわ」
「でも、どうしたんだ?急に夏休みの予定なんて聞いて」
「いや~せっかくだし、みんなで思い出作りにどこか行くのもありかなって思って」
「それいいですね~」
希にとって新鮮なことが多いのか、さっきからとても楽しそうに見える。
俺と初めて出会った時のように。
「俺も賛成だな」
「私もよ」
「それで、大まかなプランは決めているのか?」
「う~ん、一泊二日で海とかどうかな?」
「泊まるのか⁉」
「私は賛成ですよ~」
「私も」
「い、いや……それはちょっときついかな……」
「どうしてよ、奏斗」
「だ、だって、男子、俺一人だし……それに、男子一人と女子三人だと親が心配するだろ?俺一人だと、頼りないし……」
とは言ったものの、三人にはしっくりきていないようだ。
「私の親は奏斗のこと気に入っていて、心配とかしていないと思うけど、私が心配なのよね~」
俺、美羽からはそんなに信頼されていないのか……
「私は親も私も奏斗くんのこと信頼しているわよ」
「私は親にさえ言えば、大丈夫だと思います」
「そ、そっか。でも、俺が……」
恥ずかしくて、口には出せないが、俺一人と女子三人で一泊二日の旅行なんて、そんなアニメなんかで見る状況、俺には耐えきれん!正直、嬉しいとは思っているけど……なんていうかとにかく無理だ!
「じゃあ、私の別荘でやる?お金とかも心配ないし、近くにプライベートビーチもあるわよ」
いや、俺の悩みは解決していないんだが……
「「別荘⁉」」
春奈と希が驚きのあまり、思わず声を出す。
もちろん、俺は美羽の家はお金持ちだと知っているので、これくらいのこと想定済みだ。
「美羽先輩の家ってお金持ちなんですか⁉」
「まあ、それなりにね」
「美羽は悪気がないんだろうけど、何か腹立つ……」
「奏斗先輩は、美羽先輩の家に行ったことがあるんですよね?どれくらい大きいんですか?」
「俺ら庶民からしたら、かなり大きいよ。俺も初めて行った時は驚いたよ。まず、西洋風の家で、まず、門があるんだからな」
「すごいですねとしか言いようがないです」
「私も一度、そんな家で暮らしてみたいな~」
二人は驚きを隠せないようだ。
「私の家のことはいいから、早く旅行について話すわよ」
「了解」
「「は~い」」
「日程は夏休みに入ってから決めるとして、何かやりこととかある?」
「バーベキューがしたいです!」
「私、花火!」
春奈と希が子供のようにはしゃぐ。
「奏斗先輩と美羽先輩はやりたいことないんですか?」
「二人に全部言われた」
「私も」
「奏斗くん、美羽、もっと考えてよ!」
そんなこと言われてもな……こういうの初めてだし……
「う~ん、じゃあ、肝試しとか?」
「いいわね~奏斗くん」
「ですね!私も一度やってみたかったんですよね~」
明らか、春奈と希は俺と美羽と圧倒的な温度差があるな……
「美羽先輩も何か案を出してくださいよ!」
希が早く早くと急かす。
「ビーチバレーとかどう?」
「美羽にしていいこと言うじゃない~」
「海と言えば、ビーチバレーですよね!」
「引きこもってて今までできなかったこと、今年の夏こそはみんなでやるわよ~!」
「おー!」
「「おー」」
俺と美羽も結構楽しみにはしているが、この二人のテンションにはさすがについていけない……
「とりあえず、パパに段取りを伝えておくから、詳しいことはまた後日言うわね」
「了解」
「「は~い!」」
そんな訳で、今日はお開きとなった。
その夜、美羽からLINEがきた。
【美羽】「お姉ちゃんが紗耶香さんを誘って、私たちの旅行に参加するかもしれない……」
【奏斗】「はあ?あの人たち、受験生だよな?」
【美羽】「そうね。でも、お姉ちゃんが私たちは志望校には余裕で受かると思うから、一日や二日くらい息抜きをしても問題ないって……」
【奏斗】「な、なるほど……そういえば、うちの学校の元会長と元副会長は成績が校内でトップ2だったな」
ちなみに、一位は入学してからずっと姉ちゃんだ。恐るべき、姉ちゃん……
【美羽】「まあ、私の方で説得して何とかするわ」
【奏斗】「美羽は姉ちゃんたちが来るのが嫌なのか?」
【美羽】「う、うん……逆に奏斗は嫌じゃないの?」
【奏斗】「俺はどっちでもいいな」
実を言うと、来て欲しいとか思ってたりする。姉ちゃんがいた方が俺も安心できるし……
【美羽】「そっか。奏斗が言うならそれでいいけど……とりあえず、おやすみ」
【奏斗】「おう。おやすみ」
そんな感じで、今日は寝ることにした。
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