第5話 ギャルゲ始めました。

 翌朝、俺はいつもより遅く目が覚め、キッチンに向かう。

 現在の時刻はちょうど九時にさしかかったところだ。

 俺は喉が渇いたので、冷蔵庫から飲み物を取り出そうとした時、メモ用紙が扉に付けられていることに気が付いた。

 メモ用紙には「友達と遊び行くので、夕方まで帰りません。お金を置いておくので、お昼は自分で何とかして下さい」と書かれていた。

 とりあえず、冷蔵庫から飲み物を取り出した俺はコップを取って、リビングに行った。

 テーブルにはメモ用紙に書かれていたように、千円が置かれていた。

「昼は牛丼でも食べに行くか」

 食欲はないので、昼食まで何も食べないことにした。

 そんな時、スマホの通知音が鳴り、画面を見ると美羽から家に来るようにとLINEがきていた。

 

【美羽】「今すぐ家に来て」


【奏斗】「了解」


 俺は訳を聞くだけ無駄だと思い、了解と送った。

 そして、すぐに支度をして、家を出た。遅れると、何を言われるか分からないからな。

 

 美羽の家に着き、インターホンを押すと、美羽が家から出てきた。

「入って」

「お、おう」

 相変わらず、美羽の家に入るのは緊張するな…… 

 そして、俺はそのまま美羽の部屋に連れて行かれた。

「なあ、美羽。俺を呼んだ用事って何?」

「暇だったから、ゲームに付き合って欲しかったのよ」

「はあ?」

「何よ、何か文句ある?」

「べ、別にないけど……何で俺なんだ?春奈でも良かっただろ」

「何で、春奈を家に招待しなくちゃいけないのよ」

「そ、そうか」

 そういえば、この二人はあまり仲が良くなかったな……

「じゃあ、早速、始めるわよ」

「お、おう」

 美羽がゲーム機の電源を入れる。

「何のゲームするんだ?」

「ギャルゲ」

「え?」

 何かの聞き間違いだろうか……今、ギャルゲって聞こえたような……

「ギャルゲよ!奏斗、知らないの?」

「し、知っているけど、どうしてギャルゲなんだよ?」

「そ、それは……ギャルゲをプレイすれば、人との話し方とかが分かるかなって思って……」

「そ、そうか……」

 美羽の頑張りは称賛に値するが、果たして、それは参考になるのか?漫画やラノベでは二次元と三次元は違うというオチが定番だが……

 そんな疑問が残る中、俺たちはギャルゲをプレイすることにした。

 ちなみにタイトルは「俺と彼女の青春ラブコメ」だ。

 ゲームを起動し、はじめからを押す。すると、名前設定の画面になった。

「名前、どうするんだ?」

「せもぽぬめとか?」

「うん、それはやめておこう」

「じゃあ、吉田奏斗で」

「何でだよ!」

「あ、ごめん。もう入力した」

「そうか……」

 まあ、別に悪い気はしなしいいか。

 そんな訳で、ゲームスタートだ!



 四月六日。


 俺の名前は吉田奏斗、高校二年生だ。


 今日から親の仕事の都合でここ青山市に一人暮らしをすることになった。


 明日が始業式で、今日は荷物を整理することで手一杯だ。


 ちなみに、俺が明日から通う学校は私立青山学園というところだ。


【奏斗】「よし、ある程度片付いたし、昼飯でも食べに行くか」


 俺は財布とスマホを持って、家を出た。


【奏斗】「昼飯どうしようかな?とりあえず、スマホで周辺の美味しい店でも探すか」


 調べると、思っていたより多く周辺の美味しい店が出てきた。


【奏斗】「イタリアンにラーメン屋……おっ!このレストラン、かなり評判いいな。ハンバーグが人気の店みたいだな。よし、ここにするか!」


 悩んだ末、俺は近くのレストランに行くことにした。


 店内に入ると、まだ十一時ごろにも関わらず、店内は客で満たされていた。


 一見、座れなさそうに見えたが、たまたま人席空いていたみたいで、俺は禁煙席を指定し案内された。


【店員】「ご注文がお決まり次第、そちらの呼び鈴を押してください」

 

 笑顔が素敵な女性店員だな。歳は俺と同じくらいだろうか。


【奏斗】「分かりました」


「奏斗、このキャラがメインヒロインじゃない?」

「そうなのか?」

「スタート画面の真ん中にいていたじゃない」

「そういえば、そうだったな」

「でしょ。とりあえず、この子から攻略していくわよ」

「おう」


 俺は注文が決まり、呼び鈴を鳴らすと、再びさっき女性店員が来た。


【店員】「ご注文は何にされますか?」


【奏斗】「チーズインハンバーグとご飯大で」


【店員】「かしこまりました」


 しばらくして、料理が運ばれてきた。


【店員】「お待たせしました。ハンバーグの方は熱いのでお気を付けて下さい」


 人手が少ないのか、再びさっきの女性店員が来た。


【奏斗】「ありがとうございます」


【店員】「ソースの方をおかけしましょうか?」


【奏斗】「じゃあ、お願いします」


【店員】「かしこまりました」


 店員はソースの入った容器を持ち、ハンバーグにかけようとする。


【店員】「あっ」


 店員は手を滑らせて、ソースの入った容器をテーブルに落とした。そして、ソースが俺の服に少し付着した。


【店員】「申し訳ございません!」


 店員が申し訳なさそうに頭を深く下げる。


【奏斗】「別に気にしていませんから、頭を上げて下さい」


【店員】「でも……」


【奏斗】「大丈夫ですよ」


【店員】「そう、そうですか……すぐに代わりのものを用意しますね」


【奏斗】「お願いします」


 そして、店員は急いだ様子で戻って行った。

 別に、この服に愛着があった訳でもないし、いいんだけどな……


【奏斗】「あの店員、店長に怒られてなかったらいいけど……」



「ねえ、奏斗。ギャルゲの主人公ってみんな、あんたみたいにお人好しなの?」

 と、美羽が少し不機嫌そうに言った。

「そうなのかな?」

「まあ、いいわ。で、ここからどうやって二人の仲は縮まるのよ?」

「俺もよく分からん。ただ、このヒロインは主人公のクラスメイトになるだろう」

「どうして分かるのよ?」

「こういうのってだいたいそうなるだろ」

「そうなんだ。奏斗、ギャルゲやったことあるの?」

「いや、ないけど、アニメとかこういうの定番だし」

「そっか」 

 


 しばらくして、店員が店長らしき人と戻って来た。


【店長】「娘がご迷惑をかけました!」


【店員】「すいませんでした!」


【奏斗】「気にしないで下さい。別に、この服に愛着がある訳でもないので。あと、お代も払います」


【店長】「そ、そうですか。お客様がそう言うなら……」


【奏斗】「はい。本当に気にしないで下さい」


【店長】「分かりました。じゃあ、せめてドリンクをサービスさせて下さい」


【奏斗】「では、お言葉に甘えさせてもらいます」


【店長】「分かりました。あずさ、頼んだぞ」

 

 そう言って、店長は厨房へ戻って行った。


【あずさ】「はい、ドリンクは何になさいますか?」


【奏斗】「じゃあ、コーラで」


【あずさ】「かしこまりました。では、少々お待ちください」


 それからすぐに店員がコーラを持って、戻って来た。


【あずさ】「お持たせしました」


【奏斗】「ありがとうございます」


【あずさ】「さっきは本当にすいませんでした」


【奏斗】「本当に気にしないで下さい」


 この店員、かなり気にしているようだな。


 何か、上手いことフォローできればいいんだが、言葉が思いつかない……


 俺は昼食を食べ終え、レストランを出た。


【奏斗】「よし、最後の仕上げといくか~」


 俺は帰ってから部屋の整理を終え、この日は終わった。


 四月七日。


 俺は六時三十分に起き、学校の支度をする。


 登校初日から遅刻をする訳にはいかないからな。


 俺は朝食を食べ終え、家を出た。


【奏斗】「少し早いかな」


 張り切り過ぎて、結構、早く家を出てしまったな。


 とりあえず、コンビニにでも行って時間を潰すか。


 コンビニに行くと、青山学園の女子生徒らしき子が困った様子で、コンビニの前をうろうろしていた。


 さすがに、見過ごすのは罪悪感を残るため、声をかけてみることにした。


【奏斗】「あの……何かお困りですか?」


【女子生徒】「ひゃあっ!」


 と、驚いたのか、彼女は可愛い声を出した。



「奏斗、この子もヒロインじゃない?公式サイトには後輩キャラってあるわ。あと、名前は西村未来よ」

 美羽がスマホを触りながら言った。

「そうか。まあ、先にメインヒロインを攻略するから、この子は後回しだな」

「そうね。そういえば、選択肢っていつ出るの?」

「さあ?俺もさっぱり分からん」

「そっか。とりあえず、進みましょう」

「おう」


【奏斗】「大丈夫?」


【女子生徒】「だ、大丈夫ではないです……じ、実は道に迷ってしまって……」


【奏斗】「そうなんだ。君って、青山学園の生徒だよね?」


【女子生徒】「そうですけど……もしかして、あなたもですか?」


【奏斗】「はい。良かったら、一緒に行きますか?」


【女子生徒】「本当ですか⁉お願いします!」


 そんな訳で、俺と彼女は一緒に学校に行くことになった。


【奏斗】「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は吉田奏斗、引っ越しの関係で、今日から青山学園に通うことになっています。あと、学年は二年生です。よろしくお願いします」


【女子生徒】「そうなんですか!私は西村未来です。私も引っ越しの関係で今日から青山学園に通うことになって、一年生です!奏斗さんは先輩だったんですね。タメ語でいいので、これからもよろしくお願いします!あと、私のことは下の名前で呼んで頂けると嬉しいです……」


【奏斗】「了解、こちらこそよろしく。俺のことは好きな呼び方でいいから」


【未来】「分かりました、奏斗先輩!」


 先輩か~今までそういう風に呼ばれたことないから、新鮮な感じがしていいな~


【未来】「奏斗先輩?」


【奏斗】「いや、何でもないよ。それより、もうすぐ学校に着くよ」


【未来】「本当ですか!楽しみだな~」


【奏斗】「確か、一年生って今日、入学式だよね?」


【未来】「はい!初対面の人ばかりで緊張しますが、すごく楽しみです!」


【奏斗】「そっか。友達、たくさんできたらいいな」


【未来】「はい!奏斗先輩も頑張ってください!」


【奏斗】「おう。じゃあ、俺は自分の教室に行くよ」


【未来】「あ、あの……奏斗先輩!」


【奏斗】「どうした?」


【未来】「か、奏斗先輩の連絡先を教えて頂いてもよろしいでしょうか!」


 未来が顔を真っ赤にして、急に畏まって言った。


 もちろん、断る理由もないので教えるつもりだ。


【奏斗】「もちろん、いいよ」


【未来】「ありがとうございます!」



「そういえば、今回の相談部の依頼者って一年生だっけ?」

「おう。ちょうど、ヒロインの未来と同じで女子だぞ」

「……っ⁉」

「ど、どうした?」

「何でもないわよ!」

「そんな風には見えないんだけど……」

 美羽が俺を目の敵のように睨む。

「良かったわね、可愛い後輩と仲良くなれて!」

「急にどうしたんだよ?」

「……」

 美羽は怒っているのか、口を聞いてくれなかった……



 その後、俺と未来は別れ、校門近くに掲示されたクラス表を見に行った。


 辺りは歓喜に包まれ、誰も俺の存在を気にはしていないだろう……


 一人を除いて——


【?】「あ、君は!昨日の!」


【奏斗】「え?」


 俺は声がした方を向くと——


【あずさ】「私だよ、覚えている?」


 それは新手の詐欺などではなく、そこにいたのは昨日の店員だった。確か、名前はあずさだっけ?

 

【奏斗】「覚えているよ。昨日の少しドジな店員さんでしょ?」


 俺は少しからかってみることにした。


【あずさ】「そ、それはもう忘れてよ!そ、それに、気にしていないって言ってじゃない!」


【奏斗】「ごめん、少しからかってみた」


【あずさ】「もう~やめてよね」


【奏斗】「ごめんごめん」


【女子生徒】「あずさ、その人は?転校生?」


【あずさ】「うん。昨日、店に来てくれた人で、色々あって知り合いになった」


【女子生徒】「そっか。まあ、あずさのことだし、何かやらかしたんでしょ?」


【あずさ】「そ、それは……」


【女子生徒】「やっぱり、何かやらかしたのね」

 

 どうやら、友達にはお見通しのようだ。察するに、周りからもドジキャラで通っているようだ。


【あずさ】「そういえば、自己紹介がまだだったね。私は中森あずさ、よろしくね」


【女子生徒】「私はあずさの友達の伊藤真奈。よろしくね。ちなみに、私とあずさは二組だから」


【奏斗】「俺は吉田奏斗。昨日、ここに引っ越しして来たばかりで、この町のことも学校のことも全然分からないから、教えてくれると嬉しい。こちらこそよろしく。あと、俺のことは奏斗でいいよ」


【あずさ】「分かった。じゃあ、私のこともあずさで」


【真奈】「もちろん、私も真奈でいいよ」


 早速だが、友達が三人もできたな。これから先は、何とかやっていけそうだ。


【あずさ】「私と真奈で良ければ、この後にでも案内するよ」


【奏斗】「本当か!ありがとう!」


【あずさ】「まあ、昨日のお詫びも込めて」


【奏斗】「了解」


【真奈】「それより、奏斗くんは何組なの?」


【奏斗】「そういえば、まだ見てなかったな。え~と……あった!」


 俺の名前はあずさと真奈と同じ二組に書かれていた。


【あずさ】「同じクラスだね!」


【真奈】「これも何かの縁ね」


【奏斗】「二人と同じクラスは心強いな」


 こうして、俺の新たな高校生活は幸先のいいスタートをきったのであった。



「奏斗、また新たにヒロインが出てきたわね。これってハーレムってやつだっけ?」

「まあ、そうだな……」

 これ、よくよく考えると、俺の今現在の状況と似ている気がするんだが……

 仲のいい同級生二人に後輩一人。まあ、三人共、俺に気があるってのは唯一、違うところではあるが。(※奏斗はかなり鈍感です)

「それより、本当に奏斗の言った通りになったわね」

「まあな」

「これまでの話も結構面白いし、案外、ギャルゲもいいわね」

「それは良かったな。とりあえず、コミュ力を付けれるように頑張れよ」

「わ、分かっているわよ!」

 俺には本来の趣旨を忘れて、楽しんでいるようにしか見えないんだが……

 それに今更だが、ギャルゲって男子目線だし、女子の美羽には役に立つのか?男子の俺でささえ、役立つのか怪しいと言うのに……



 入学式が終わり、放課後。俺は特にすることもなく、教室に残っていた。


【奏斗】「どうしようかな」


 選択肢

・あずさと真奈と校内を回る

・未来と校内を回る



「奏斗、選択肢が出たわよ!」

 と、美羽が楽しそうにはしゃぐ。

「そうだな。この場合はあずさと真奈と校内を回るだな」

「そうね」

 俺たちは選択肢のあずさと真奈と校内を回るを選んだ。



【奏斗】「よし、あずさと真奈にでも校内を案内してもらうか」


 俺は二人の元に行った。


 本来、この時間帯は新入生の部活勧誘だが、あずさと真奈は部活に入部していないため、俺と教室に残っている。


【奏斗】「二人に頼みがあるんだけど、いいかな?」


【あずさ】「どうしたの?」


【真奈】「私たちが手伝えることならやるわよ」


【奏斗】「校内を案内してもらいたいんだけど、いいかな?」


【真奈】「お安い御用よ」


【あずさ】「私たちに任せてね!」


【真奈】「あずさ、ドジって面倒なこと起こさないでよね」


【あずさ】「だ、大丈夫だよ!」


【奏斗】「まあ、二人に任せるよ」


 若干、不安は残るが、俺は二人に学校を案内してもらうことにした。


【あずさ】「じゃあ、まずは職員室から案内するね」


 俺はあずさと真奈に連れられて職員室に行った。


【あずさ】「職員室はよく使うから覚えていてね。入室する時は、失礼しますと言って入って、自分の学年とクラスを言うこと!」


【奏斗】「了解」


【真奈】「うちの学校、挨拶とか厳しいから、気を付けてね」


【奏斗】「肝に銘じておくよ」


【真奈】「じゃあ、次は食堂を案内するね」


 俺たちは次に食堂へ行った。


【あずさ】「ここが食堂だよ。うち学校の学食は美味しいって評判だから期待しているといいよ!」


【奏斗】「そっか。俺は一人暮らしだから学食にはお世話になりそうだ」


【真奈】「奏斗くん、一人暮らしなの⁉」


【奏斗】「うん。親が仕事の関係で海外に住んでいて、俺は姉が住んでいるこの町に引っ越ししてきた」


【真奈】「奏斗くん、結構大変なんだね」


【あずさ】「お姉さんとは一緒に暮らさないの?」


【奏斗】「多分ないと思う。姉ちゃん、一人を満喫したいって思っていると思うし」・


【あずさ】「そっか。奏斗くんのお姉さんか~会ってみたいな~」


【真奈】「分かる~奏斗くん、結構イケメンだし、お姉さんも美人なんだろうな~」


 二人が期待を膨らませる。


 そんなに期待せれてもな……


【奏斗】「まあ、機会があれば紹介するよ」


【あずさ】「楽しみにしておくよ!」


【真奈】「約束だよ!」


 何故、ここまで楽しみなのかはよく分からんが、機会があれば紹介をするか。


 その後も二人に校内を案内してもらい、俺たちは解散した。



 ゲーム開始から約一時間。

 俺と美羽は昼食を食べることさえ忘れ、ギャルゲに熱中していた。

「やっとヒロインとのデートイベントまで来たわね」

「そうだな。ここまで来るのに結構かかったな」

「そうよね。そろそろ告白してもおかしくないと思うんだけどな~」

 と、美羽が待ち遠しそうに言った。

 もちろん、俺も美羽と同じ気持ちだ。



 四月十六日。今日はあずさとのデートの日だ!


 正直、昨日は楽しみというより緊張し過ぎて、全然寝れなかった……


 俺は朝食を軽く済ませ、家を出た。


【奏斗】「今日こそ、あずさに自分の気持ちを伝える!」

 俺はそう自分に言い聞かせて、デートに臨むのであった。


 駅に着くと、少し来るのが早かったため、あずさはまだ来ていなかった。


 ちなみに、今日のデート先はショッピングモールだ。そして、俺が意を決して選んだ戦いの場だ!

  

 しばらく待っていると、あずさが急いだ様子で走って来た。


【あずさ】「ごめん!待たせちゃって!」


【奏斗】「俺が来るのが早過ぎただけだし、気にしなくてもいいよ」


【あずさ】「で、でも……」


【奏斗】「ちゃんと、待ち合わせ時間までに来ているから問題なし」


【あずさ】「奏斗くんがそう言うなら……」


 あずさはいまいち納得がいっていないようだ。


 俺たちはバスに乗り、ショッピングモールへと向かった。


 ショッピングモールまでは特別にバスが出ており、駅から十分程で着く。


【あずさ】「本当、奏斗くんから買い物の誘いを受けるなんて思っていなかったよ」


【奏斗】「ま、まあな」

 

 心なしか、あずさが嬉しそうに見えた。もしかして、俺にも春が来るのか⁉


 そんな期待を胸に俺は小さくガッツポーズした。 


 しばらくして、バスがショッピングモール着き、俺たちは降りた。


【あずさ】「まずはどこに行く?」


【奏斗】「服を買いたいから、付き合ってもらってもいいかな?」


【あずさ】「了解です!」


 

「あ~面倒くさい!」

 美羽がいきなり立ち上がった。

「ど、どうした?」

「話が長過ぎるのよ!早く付き合いなさいよ!」

 どうやら、なかなか付き合わない二人にキレているようだ。

 あと少しくらい待てばいいものの……

「まあまあ。気楽にいこうぜ?」

「もう我慢できない!」

 美羽は設定を開き、未読文スキップをオンにした。

「お、おい——」

 俺はまさかとは思ったが、美羽は躊躇なくスキップをし始めた……

 あ~終わった~

 その時、俺の中で今まで積み重ねてきたものが一斉に崩れていく音がした。



【あずさ】「今日は楽しかったね~」


 あずさが満足気に言った。もちろん、奏斗も同じ気持ちだ。


【奏斗】「そうだな。また機会があれば、誘うよ」

 

【あずさ】「楽しみにしているね」


【奏斗】「おう」


【奏斗】【あずさ】「……」


 会話が途切れ、二人の間に静寂という名の二文字が漂う。


【奏斗】「あずさって好きな人とかいるのか?」


 しまった、質問を先走ってしまった……


 俺のバカ!


 そんな自分をひたすら心の中で責める。


【あずさ】「好きな人?う~ん、内緒かな」


【奏斗】「そ、そっか……」


 これは俺にも可能性があるのでは⁉


 よくやった、俺!


 さっきとは一転して、先走った自分をひたすら褒める。


【あずさ】「奏斗くんは?」


【奏斗】「俺は一応、いるよ……」


【あずさ】「本当⁉誰、誰?」

 

 やっぱり、ここは素直に言った方がいいのか?


 俺は有名なサッカー選手みたいに、リトル奏斗がいる訳でもないし……


【奏斗】「そ、それは……君だよ、あずさ」


【あずさ】「えっ……」


【奏斗】「僕はあずさに初めて会った時から、ずっと好きだった。所謂、一目惚れってやつだ。まあ、この気持ちに気が付いたのは最近のことだけどな」


 俺は自分の気持ちをすべて言ったんだ!


 例え、結果がどうあれ悔いはない……


【あずさ】「か、奏斗くん……」

 

 あずさが急に涙を流し始めた。


【奏斗】「あ、あずさ?」


【あずさ】「あ、あれ、私どうしたんだろ?ちゃんと、返事返さなくちゃいけないのに、どうしてだろう涙が止まらないな……」


 な、なんだこの状況!え、何で泣いている?一体、どうすれば……


【奏斗】「今、答えられないなら、別に後日でもいいよ。何か、困らせたみたいでごめんな……」


【あずさ】「ま、待って!今、ここでちゃんと返事するから……」


 あずさが涙を手で拭い、何かを決心したような様子で言った。


【奏斗】「お、おう」


【あずさ】「か、奏斗くん!」


【奏斗】「は、はい!」


【あずさ】「わ、私もあなたのことが好きです」

 

 そう言って、あずさが俺に抱き着いてきた。


【奏斗】「……は、はい」


 ど、どうしよ……オッケーもらった後のこと、何も考えてなかった!

 

 気持ちを伝えることでいっぱいだったし、ど、どうしたらいいんだ?やっぱり、こういう時って……キ、キスとかするのか?


【あずさ】「奏斗くん、どうかした?」


【奏斗】「いや、気持ちを伝えることでいっぱいで、オッケーもらった後のこと、何も考えてなくて……正直、戸惑っている」


【あずさ】「そ、そっか。じゃ、じゃあ、こういうのはどうかな?」


【奏斗】「……っ!?」


 その瞬間、俺は唇に柔らかい感触感じた――


【奏斗】「あ、あずさ……」


 俺は今までに感じたことがない程、身体が熱かった。


 キ、キスとはそういうものなんだろう……


【あずさ】「どうかな?私のファーストキスは……」


【奏斗】「さ、最高だった。あと、俺もファーストキスだった……」


 俺たちはお互い、顔を赤くして俯いた。



「いや~結構、告白のシーン良かったよな――」

「う、うん……うぁぁぁぁん‼」

 いきなり、何の予兆もなく美羽が号泣し始めた。

「は、はあ?」

 お、おい、そんなに泣くものか?

 美羽がここで涙もろいとは、思ってもいなかったな。

「な、何で、あんたは泣かないのよぉ~」

「いや、良かったとは思うけど、号泣までは……」

 てか、美羽のやつ、絶対に本来の目的を忘れていよな……

 まあ、俺は初めから何も役に立たないとは思っているが。

「あ、あんたっては薄情なやつねぇ~」

「いい加減に泣き止めよ……」

「む、無理よぉぉぉぉ~」

 ダメだこれ……


 

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