第4話 後輩少女の相談に乗ることになりました。

 翌日の放課後。俺たち相談部は山本先生に呼ばれ、職員室にいた。

 まったく、月曜日という特にだれる日に呼ばれるなんて……どうせ、また、面倒くさいことを押し付けられるんだろうな……

「先生、今日は何のようですか?」

「吉田、そう嫌そうな顔をするな。今回は、お前たち相談部にとってはいい話だぞ」

「それ、本当なんですか?」

「おい、椎崎。お前まで、私を疑うのか?」

「はい」

「はいって、言い切るなよ。あと、西川も面倒くさそうな顔をするな。まったく、お前たち相談部は、本当にやる気のない連中だな」

「それ、先生に一番言われたくないです」

「「うんうん」」

 二人も頷いて、共感する。

 それと珍しく、美羽と春奈の意見が一致した。

「そ、それは置いといて、話を戻すぞ」

 先生は痛いところを指摘されたのか、即座に話を変える。

「今朝、お悩み相談ボックスを見たら、相談依頼が一件来ていた」

「本当ですか⁉」

「良かったわね、奏斗」

「てか、依頼する人とかいているんだ」

 相変わらずのやる気のなさを見せる二人だが、今は置いておこう。

「という訳で、お前たちの初仕事だ」

 そう言って、悩み相談ボックスに入っていた紙を俺に渡した。

「ありがとうございます」

 本当にそう思っているのかと、疑う程の気持ちの入っていないエールをされ、俺たちは職員室を出た。


 その後、俺たちは部室に行き、依頼内容を確認することにした。

「それじゃあ、記念すべき第一回目のお悩み相談会議を始めるぞ!」

「奏斗、それ毎回言うの?」

「……」

 早速、美羽から指摘を受けた俺だが、気にせず話を進める。

「今回の依頼主は一年生の子からだ。どうやら、友達ができなくて困っているようだ。どこかで聞いたような話だな」

「「……っ⁉」」

 美羽と春奈があからさまに反応した。

「美羽と春奈はこの件についてどう思う?」

「ど、どうして私たちに振るのよ!」

「そ、そうよ!」

「だって、二人とも該当者でしょ?」

「「……うっ」」

 図星のため、二人は何も言い返すことができない。

「私、今回の依頼はパスで!」

 春奈がいきなり立ち上がって言った。

「私も!」

 と、春奈に続いて、美羽も言った。

「……え?」

「珍しく、意見が一致したわね、美羽」

「そうね、春奈」

 二人が意気投合しているのは嬉しいんだが、この際は素直には喜べない……

 そんな訳で、今回の依頼は俺が一人で担当することになった。初めての依頼なのに、何か気が引き締まらないな……

 ちなみに、二人は帰りました……

 余計なこと言わない方が良かったかな……

 そして、一人になった俺は引き続き依頼内容を確認する。

 依頼主は一年三組の中島希という女の子からの依頼だ。

 さっき言ったように、友達が上手くできないようだ。去年の俺と重なる部分があるし、何とか上手くいけそうかな。

 さすがに、三回目となれば、少しだが自信はある。

 依頼文によると、明日の放課後、駅前のカフェで話し合いたいと書かれている。

 そういう訳で、明日の放課後は駅前のカフェに行くか。


 翌日の放課後、俺は駅前のカフェにいた。

 一応、美羽と春奈を誘ったが、あっさりと断られた。

 そして、俺は今、依頼主の中島希さんを待っている。学校が同じなのだから、一緒に来れば良かったのかもしれないが、細かいことは置いておこう。

 それにしても、最近、寄り道や外出することが随分と多くなった気がするな。やっぱり、美羽と春奈と出会ったことが大きな原因の一つだろう。

 そんなことを考えていると、うちの高校の制服を着た女子生徒に話しかけられた。

「あの、相談部の方ですか?」

「は、はい!」

 俺は思わず、椅子から立ち上がる。

 すると、彼女は少しびっくりした様子で笑った。

「面白い方なんですね。私は、一年三組の中島希です。今日はよろしくお願いします」

「俺は二年三組の吉田奏斗。こちらこそよろしく」

 彼女の様子からすると、友達付き合いに困りそうな感じはしないんだがな……見た感じ、人見知りが一切ないみたいだし、明るくてはきはきしているように見える。何か、他に理由があるんだろうか?

 それに、美羽と春奈に劣らない美少女だし。

「中島さんは友達付き合いが上手くいかなくて、相談を依頼してくれたんだよね?」

「はい。あの、吉田先輩、私のことは希で大丈夫です」

「そ、そっか。じゃあ、俺のことも奏斗でいいよ」

「分かりました、奏斗先輩」

「……っ⁉」

 俺は希が発した「先輩」という言葉についつい恥ずかしくなった。

 何せ、美少女の後輩から先輩って呼ばれるなんて、夢にも見なかったことだし。

「どうしました、奏斗先輩?」

 と、希が俺の顔を覗き込む。

「な、何でもないよ!さあ、話を進めようか!」

「はい!」

 そして、俺は希から学校生活のことから友達ができない原因を聞いた。

「なるほど、希は一年生のはじめ辺りは病気で入院していたから、友達付き合いが上手くしかないのか」

「はい。少し話をする間柄の人しかしなくて……」

「そうなんだ。じゃあ、まずはその人たちと友達になることから始めたらどうかな?」

「はい、頑張ってみます」

 結構、上手くいっているんじゃないか?

 自分の中で、自信が確信に変わりつつある。

 そこで、俺は自分の引きこもり時代のことを話すことにした。

「希——」

「確か、奏斗先輩って一年生の頃、引きこもりだったんですよね?」

「……え?の、希、どうして知っているの?」

「噂で聞いたんですよ。友達付き合いが上手くいかなくて」

「そ、そうなんだ」

「はい。もしかして、気に障りました?」

「そ、そんなことないよ!ただ、ちょっと驚いただけ。それに、ちょうど話そうと思っていたしね」

「そうですか」

 希はホッとした顔で言った。

「うん。じゃあ、だいたいの話は知っているんだよね?」

「だいたいというか……全部、知っていますよ」

「マ、マジで⁉」

「はい」

 俺の情報、リークし過ぎだろ……

「まあ、俺が言いたいことは、きっかけさえあれば人は変われるってことだよ」

 何か、自分で言っておいて、かっこいいな……自分の言ったことに酔いしれる俺。

「なるほど。奏斗先輩が言うと説得力がありますね」

「まあな」

 俺は少し誇らしげに言った。

 まあ、誇りに持つようなことではないんだがな。


「とりあえず、まずは話せる人から友達を作っていこう」

「はい!」

「いい返事だね。困ったことがあったら、いつでも相談してくれたらいいから」

「ありがとうございます!」

「俺の仕事は悩みが解決するまでだから」

 なんて、俺は自分に似合わない言葉を並べてそれっぽく言った。

「そう言ってもらえると、心強いです!」

「そうか?」

「はい!では、一週間後にまたここのカフェでいいですか?」

「了解」

 そんな感じで、今日の悩み相談は無事に終了した。


 それから、一週間後。

 俺は放課後に前回の相談場所である、駅前のカフェにいた。

 一応、今日も美羽と春奈を誘ったが、あっさりと断られた。

 ちなみに、あれから一週間、俺は希とは一度も会っていない。そのため、希の現状は一切分からない。やっぱり、俺が変に手助けするより、希自身で頑張った方がいいと思い、あの日以降は会わないようにしていた。

「すいません、遅れました」

 という申し訳なさそうな声とともに希が来た。

「気にしなくてもいいよ。俺もちょうど今、来たところだし」

「そうですか。なら良かったです」

 と、希がホッとした顔で言った。

 まあ、本当は十分前には来ていたんだけどな。

 希のことだ、俺を待たせていたなんて知ったら、かなり気にするからこれくらい気を遣わなくてはな。

「それじゃあ、今日も始めようか」

「はい!」

「この一週間はどうだった?」

「ちゃんと、奏斗先輩のアドバイス通りにやりました。それに、アドバイスのおかげで、かなり前進できたと思います」

「そっか。それは希の頑張りだね」

「そ、そんなことないですよ!これも全部、奏斗先輩のおかげです!」

「僕はアドバイスをしただけで、そこから頑張ったのは希だよ」

「奏斗先輩……やっぱり、あの頃とは変わっていないんですね」

「希?何か言った?」

「い、いえ、何でもありませんよ!」

「そっか。でもまあ、これで希にも友達ができたんだね」

「は、はい」

 希は少し不安そうに言った。

「どうかした?」

「なんて言うか、本当に友達になれたんでしょうか?確かに、前よりは話すようになったんですけど……」

 希が自信なさげに言った。

「希、今度、その子たちを遊びに誘ったらどうかな?」

「わ、私がですか⁉」

「うん。きっと、相手の子も希と遊んでみたいって思っているよ」

「そ、そうですか?」

「希はもっと、自分に自信を持つべきだよ!可愛いし、明るくて、優しいんだから、きっと大丈夫だよ!」

「か、可愛い……」

 希が顔を真っ赤にして、俯く。

「この俺が保証するから、きっと大丈夫だよ!」

「か、奏斗先輩……わ、私、頑張ります!」

「うん、その調子だ」

 どうやら、少し自信がついたみたいだ。

「あ、あの、奏斗先輩……お、折り入って頼みがあるんですが、いいですか?」

「俺にできることなら、何でも手伝うよ」

「ほ、本当ですか⁉」

「うん、いいよ」

「ありがとうございます!」

 と、希が嬉しそうに言った。

「それで、頼みとは?」

「あ、あの、私とデートしてくれませんか!」

「……デ、デート?」

「は、はい。じ、実は……私、友達と遊びに行ったりしたことなくて……」

「そ、そうなのか……」 

「は、はい。私、子供の頃から体が弱くて、入院していることが多かったので、そういう機会がなくて……」

「そうか。じゃあ、そういうことなら、俺が付き合うよ」

「ほ、本当ですか⁉」

「うん」

 そんな顔されたら、断れる訳ないよな……

 希が嬉しそうな顔をして、どこに行こうかとスマホで調べ始めた。

「あ、あの、希さん?」

「奏斗先輩、どうかしましたか?」

「行き先を決めるのもいいけど、まずは日程から決めないか?」

「そ、そうですね!ごめんなさい、私ったら、一人ではしゃいでしまって……」

 と、申し訳なさそうに言った。

「気にしなくていいよ。だから、顔を上げてくれ」

「はい!それで、いつにしますか?」

「う~ん、今週の土曜日とかどうかな?」

「土曜日ですか?ちょっと待って下さいね」

 そう言って、カバンからメモ帳を取り出した。

 見た目通り、女子力が高いな。

「予定はないので、大丈夫です!」

「そ、そうか」

 何か、希の張り切りようが凄いな……

「じゃあ、行き先はどうしますか?」

「そうだな……希の行きたいところでいいよ。これは、希の練習みたいなものだからな」

「そうですか、分かりました。そ、それで、奏斗先輩……」

「どうした?」

「あ、あの……連絡先を教えていただけませんか!」

 と、急に畏まって言った。

「お、おう」

「本当にいいんですか⁉」

「うん。お互い、連絡先を知っていた方が色々と楽だと思うし」

「そ、そうですよね!」

 希が嬉しそうに言った。

 俺は希の笑顔には勝てないな……何でも言うことを聞いてしまいそうだ。


「奏斗先輩、ありがとうございます!」

 LINE交換を終え、希は満面の笑みを浮かべる。

「こちらこそありがとう」

 やっぱり、そんな顔されたら何があろうと、断れないよな……

 改めて、希の笑顔の強さを感じた俺であった。


    ※※※


 土曜日の朝、俺は前と同様、駅にいた。

 今日は人生で三回目のデートの日、つまり、希とのデートの日だ。

 あれから、何回か連絡を取り合って、春奈と行ったショッピングモールに行くことになった。 

 今日は希の練習でもあるが、俺がしっかりとリードしなくてはな。

 さっき、LINEで「もうすぐ着きます!」って連絡がきたので、もうそろそろ来るだろう。

 ちなみに、今日の待ち合わせ時間は八時三十分だ。 

 俺は美羽とデートした日以降、遅刻には十分に気を付けるようになったと思う。


 しばらくして、希が急いだ様子で走って来た。

「すいません、お待たせしてしまって!」

「俺も今来たばかりだし、大丈夫だよ」

 なんて、ベタなセリフを言って希の気を和らげる。

「なら、良かったです」

 と、安心した様子で言った。

 希は気にし過ぎるところがあるから、しっかりとフォローをしなくてはいけないな。

「じゃあ、行こうか」

「はい!」

 そして、俺と希は電車に乗った。

「あ、あの、奏斗先輩……今日の私の恰好はどうですか?」

「とても似合っていて、可愛いと思うよ」

「そ、そうですか……あ、ありがとうございます……」

 希が顔を真っ赤にして、俯く。

 それにしても。女の子の容貌を褒めるのはなかなか慣れないな……

 褒めている自分が恥ずかしくなってくる……

「か、奏斗先輩もその服装、すごくお似合いですよ」

「ありがとう」

「いえいえ」

 希が照れながら言った。

 希は美羽と違って素直でコミュニケーションをしやすいな。

 まあ、春奈もたまに暴走したりするから、厄介なものだ……


 そして、目的地のショッピングモールに着き、早速、店を回ることにした。

 前に一度、来たことがあるため、だいたいの店の位置などは覚えている。今日は、しっかりと希をエスコートしなくては。

「奏斗先輩、初めはどこの店に行きますか?」

「希の行きたい店でいいよ。どこか行きたい店とかある?」

「わ、私ですか⁉」

 希がどこか焦った様子で言った。

 もしかして、希も……

「もし、違ったら謝るけど、希って初めて服を買いに来た?」

「はい、恥ずかしながら……」 

「そっか。じゃあ、俺とそんなに変わらないな」

「え、どういうことですか?」

「実は俺も自分で服を買いに来るのは今回で二回目なんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。だから、お互い、支え合って頑張ろう!」

「はい!」

 なんて、言ったものの、今月は結構お金がきついんだよな……

 最近、前に比べて外出することが多くなり、インドアだった俺からしたら喜ばしいことなのかもしれないが、それと同時に出費も多くなった。世の中のリア充どもはこんなにも出費が多いのかと、痛感させられたものだ……

 まあ、姉ちゃんにデートをすると言えば、特別手当が出ない訳ではないんだが、今月はもう二回もらっているから、さすがに三回目は言いにくい。

「じゃあ、初めは希を服を見て回ろうか」

「わ、分かりました!不束者ではありますが、よろしくお願いします」

 希が緊張した様子で言った。

「お、おう」

 そんな訳で、俺たちは早速、店を見回り始めた。


 初めに訪れた店は、最近、若者の間で人気の店らしく、マップにおすすめの店と表示されていた。

 もちろん、俺はそんなことを初めて知ったし、希は名前を聞いたことがあるだけなので、お互いに困惑するばかりだ……

 そのため、俺たちは店の中でしばらく突っ立っている状態が続いた。

「あの、お客様?」

 さすがに、店員も俺たちが気になったようで、声をかけてくれた。

「じ、実は、お互いにオシャレには鈍感なもので、どうすればいいのかと……」

「そうなんですか。せっかく、お二人ともスタイルがいいのに、もったいないですよ」

「「は、はあ……」」

 希はまだしも、俺はお世辞なのではと思う俺。

「よろしければ、私がお手伝いしましょうか?」

「い、いや——」

「本当ですか⁉是非お願いします!」

「の、希……」

「かしこまりました」

 こういうのって、店員の口車に乗らされて、上手いこと買わされるんじゃ……

「奏斗先輩、ありがたいですね!」

「そ、そうだな」

 まあ、希がいいならいいか。希が服を買う訳だし、俺が口出しすることでもないだろう。

「では、早速」

「はい。よろしくお願いします」

 そうして、希と店員は店の中へと消えていった。

 無事だといいんだが……


 しばらくして、店員だけが俺の元に戻って来た。

「どうかしましたか?」

「彼女さんの試着のお着替えが終わったので、彼氏さんに見てもらおうと思いまして」

「そうですか、分かりました」

 面倒くさかったので、彼氏彼女のことは何も言わず、俺は店員について行った。

 試着室に行くと、上下をコーディネートされた希が待っていた。

「あ、あの奏斗先輩……どうですか……?」

「え、えっと……すごく似合っていて、可愛いと思うよ」

「ほ、本当ですか⁉あ、ありがとうございます……」

 希が顔を赤くして、嬉しそうに言った。

 しかし、店員は他に言うことはないのかと言わんばかりにこちらを見ているが、気付いていないふりをしておこう。

 結果、希は店員に勧められるままにその服を買い、俺たちは店を出た。

「何か悪かったな。お互い、支え合おうとか言っておいて、何も力になれなくて……」

「き、気にしないで下さい!私だって、せっかくの奏斗先輩の厚意を無駄にするようなことをしてしまってすいません……」

「そのことは気にしてないから大丈夫だよ。俺も、あの店員に助けられたとこあるし」

「奏斗先輩がそう言うなら……」

「まあ、お互い様ってことで」

「は、はい!」

 希が少し嬉しそうな様子で言った。

「じゃあ、次の店行こうか」

「奏斗先輩、待ってください。私はもういいので、次は奏斗先輩の服を買いに行きましょう」

「え、希はもう買わなくてもいいの?」

「はい。来週、友達と遊ぶ時のためにお金を残しておきたいので」

「そっか。じゃあ、付き添いよろしく」

「はい!それで、先輩!」

「どうした?」

「ぶ、無事に、友達を遊びに誘うことができました!」

「おめでとう、希!」

「ありがとうございます!か、奏斗先輩にはちゃんと口で伝えたくて……」

「そっか。俺も陰ながら応援しておくよ」

「はい!」

 希が満面の笑みを浮かべて言った。

 それは、俺はこの笑顔のためだけに生きていると錯覚する程だった……

「それじゃあ、奏斗先輩行きましょう!」

「おう」

 希、随分とノリ気だな。せっかくだし、俺は希で服を選んでもらうかな。

 そして、俺たちは近くにある店に入った。

 ちなみに、俺たちが入った店はさっきの店と同様、若者の間で人気の店らしい。

「う~ん、どれがいいかな?」

「奏斗先輩、店員さんを呼んできましょうか?」

「いや、大丈夫だよ。せっかくだし、希に選んでもらおうかな?」

「え、私なんかでいいんですか⁉」

「うん。俺は希が選んだ服を試着して、気に入ったら買うことにするよ」

「わ、分かりました!私、奏斗先輩が気に入る服、選んでみせますね!」

「おう!」

 これじゃあ、普段、姉ちゃんに買ってきてもらうのとほとんど変わらない気がするが、まあいいだろう……

 やっぱり、全部が全部、希に任せるのも悪いので俺も希と一緒に服を選ぶことにした。


 選ぶこと十分、ついに二人の意見が一致した服が見つかった。

 俺は早速、試着室に向かい着替えた。

 ちなみに、俺は希とは違い、服だけを買う予定だ。初めに言ったように、予算が少ないからだ。

 着替え終え、俺は試着室を出た。

「ど、どうかな?」

「と、とても似合っていてかっこいいです!」

「そ、そっか。何か照れくさいな……」

「奏斗先輩、その服、どうします?」

「買うことにするよ」

「ほ、本当ですか⁉奏斗先輩のお力になれて良かったです!」

 少し大袈裟な気もするが、希は嬉しそうに言った。

 まあ、例え、俺が気に入らなかったとしても、俺は希の選んでくれた服なら買うだろうな……そう、自分に嘘をついてでも。俺って悪い先輩なのかも知れないな……

 俺は選んだ服をレジに持っていき、買った。そして、店を出た。

 ちなみに、値段は三千円で許容範囲だ。

「次、どうします?」

「俺も服はもういいかな。それより、そろそろ昼食にしないか?もうお腹ペコペコだ……」

「そうですね。私も少しお腹が空いてきました」

「そっか。希は何か食べたいものとかある?」

「私ですか?じゃあ、私はラーメンが食べたいです!」

「了解。じゃあ、昼食はラーメンで決まりだな」

「はい!それでですね、奏斗先輩!実はこのショッピングモールに美味しいラーメン屋さんがあるんです!」

「そ、そうなのか?」

「はい!」

 希が目を輝かして熱く語り始めた。

「希ってラーメンが好きなのか?」

「はい!大好きです!」

「そ、そうか」

 希の「大好きです!」って言葉に少しドキッとしたが、まさか、希がここまでラーメン好きだったとは想像もできなかったな……

「では、行きましょう!」

 希は事前に調べていたらしく、俺は希の案内を下、ラーメン屋に向かう。


 ラーメン屋に着くと、人気店らしく長蛇の列ができていた。

 ショッピングモール内の店でこんなにも並ぶものなんだな。

「希、どうする?」

「もちろん、並びます!」

 希が目を輝かせて言った。

「そ、そうか」

 もう希は誰にも止められないらしい……

 俺もラーメンは好きだが、希みたいにガチ勢ではない。だが、ここの店のラーメンは美味しいとは色んな人から聞く。何しろ、本店の店は早くから並ばないと食べることができないとか……


 そして、並ぶこと十五分。ついに席に座ることができた。

「長かったですね、奏斗先輩!」

「そ、そうだな」

 俺の空腹度はもう極限まで達している……

 俺はメニューを開くなり、ラーメンを決める。

 しかし、どれも美味しそうで、なかなか決めることができない……

 考えること三分、俺も希もラーメンを決め終えて店員を呼ぶ。

 俺は特製塩ラーメンに卵をトッピングし、餃子を一人前注文した。そして、希は特製味噌ラーメンに卵と海苔をトッピングし、注文した。

 ちなみに、さすがにラーメン屋だけあって、カップル限定のキャンペーンなどはやっていなかった。

 注文したラーメンが運ばれ、希が目を輝かしてラーメンを見つめる。

「おー!こ、これが……」

「俺も初めてだけど、希もここのラーメンを食べるのは初めて?」

「はい!私は入院していた時期が長くて、食事制限も長かったので、ラーメンは好きですがあまり食べる機会がなくて……」

「そっか……」

「でも、おかしいですよね。女の子なのにラーメンが好きだなんて……全然、女の子っぽくないですし……」

「そんなことないよ!希は十分、女の子っぽいよ!」

「そ、そうですか……?」

「おう!まあ、俺で良ければ、いつでもラーメン食べに行くの付き合うぞ」

「ほ、本当ですか⁉じゃ、じゃあ、またお願いします……」

 と、希が嬉しそうに言った。

 やっぱり、一緒にラーメンを食べる人ができて嬉しいんだな。(※奏斗はかなり鈍感です)


 俺たちはラーメンを食べ終え、店を出た。

 まだ並んでいる人がいるため、そんなに長居する訳にはいなかない。

「奏斗先輩、次はどこに行きますか?」

「うーん、目的は果たした訳だし、希はどこか行きたい場所はある?」

「私は特に……」

「そっか。じゃあ、ちょっと俺に付き合ってくれる?」

「はい。いいですけど……どこに行くんですか?」

「ちょっと、服以外で買いたいものがあってね」

「そうなんですか……」

 俺は事前に調べておいたアクセサリー店に希を連れて向かった。

 希には言っていないが、アクセサリーは希にプレゼントするためだ。

 べ、別に告白するためとかではなく、希にお守り代わりにプレゼントするためで、もちろん、来週のためだ。

 さすがに、お節介過ぎるかも知れないが、俺にとっては初めて俺を慕ってくれる後輩だ。これくらいの世話は焼きたいのだ。

「希、どのアクセサリーがいいと思う?」

 俺は店に着くなり、希にどれがいいか聞いた。

「う~ん、私ならこのペンダントですかね。デザインが私好みですから」

「そっか。候補の一つにするか」

「奏斗先輩、誰かにプレゼントするんですか?も、もしかして、彼女さんとか……」

「女の子にプレゼントするけど、彼女ではないよ。第一、僕に彼女はいないからね」

「そ、そうですか……」

 と、希はどこかホッとした様子で言った。

「それじゃあ、誰にプレゼントするんですか?」

「それは内緒」

「そんな~教えてくれたっていいじゃないですか~」

 と、希が可愛らしく言ってきた。

「ダメなものはダメだよ。じゃあ、俺はこのペンダント買ってくるから、店の外で待っていてくれ」

「分かりました」

 俺はペンダントを買って、希の元に戻った。

「俺の用事は終わったし、そろそろ帰る?」

「そうですね。今日はありがとうございました!」

「こちらこそありがとう。楽しかったよ」

 そして、俺たちは帰ることにした。

 

 駅に着き、俺は希を家まで送って行くことにした。

 ちなみに、まだペンダントは渡せていない。

「奏斗先輩、わざわざありがとうございます」

「気にしなくていいよ。俺が好きでやっていることだし」

「そうですか。やっぱり、か~くんは昔と変わらず、優しいんだね……」

「の、希?」

「奏斗先輩、家に着いたので、私はここで。今日は本当にありがとうございました!」

「ちょ、ちょっと、希——」

 希は逃げるように走って行った。

「昔と変わらずか……」

 俺はよく覚えていないけど、昔、俺と希は知り合っていたのか……?

「あ、ペンダント……」

 結局、プレゼントするつもりのペンダントは渡せずに、その日のデートは終わった……


 俺は希を家まで送り、家に帰った。

「ただいま」

「おかえり、今日は早いのね。予定時間だと、七時くらいのはずだったけど……もしかして、女の子に振られた?」

「そ、そんな訳あるか!ただ、お互いの目的は果たしたから帰って来ただけ」

「そうなんだ。晩ご飯も一緒に食べて、夜景の一つでも一緒に見てきたら良かったのに」

「それもありかも知れないけど、相手の子は来週も友達と遊びに行くから、お金をそんなに使う訳にはいかないの。昨日の夜に、説明しただろ、今日のデ、デートのこと……」

「そういえば、そうだったね。それにしても、最近のか~くんは随分と色っぽくなったわね~三人の女の子とデートをするなんて。それで、本命は誰なの?」

 と、姉ちゃんはニヤニヤしながら聞いてきた。

「べ、別にそんじゃないよ……」

「またまた~確か、一回目が西川春奈さんで二回目は椎崎美羽さん。三回目は?」

「それって、言わなくちゃダメなの?」

「もちろん!お姉ちゃん権限でね!」

「お姉ちゃん権限、強いな……」

「いいから、誰なの?」

「今日はデ、デートしたのは中島希。一年生だよ。何か、昔から入院生活が長かったらしい」

 やっぱり、デートって自分の口から言うのは、どこか気恥ずかしいところがある。

「中島希か……」

「姉ちゃん、知っているの?」

「確か、か~くんが入院していた頃、同じ病室に中島希って子がいていたと思うんだよね」

「……え?姉ちゃん、俺と同じ病室だった中島希って、俺のことか~くんって呼んでいた?」

「そうだけど、どうして?」

「希が帰り際に、俺のことをか~くんって呼んだんだ。それに、昔と変わらずとかも言っていた。俺はよく覚えてはいないんだけど、俺と希は昔、知り合っていたのかって思って……」

「そっか。じゃあ、か~くんが今日はデートした中島希は、昔、か~くんと同じ病室だった中島希と同一人物と考えるべき……いや、同一人物だよ」

「そ、そうなるよな……」

「それにしても、希ちゃんのこと覚えていないとか、か~くんもなかなか酷いな~希ちゃん、か~くんと仲良かったし、向こうも自分のことを覚えていてくれていると思っているんじゃないの?」

「そ、それは……姉ちゃんは、俺と希のことを鮮明に覚えているの?」

「もちろん!私も、希ちゃんとは結構、仲良かったしね」

「そっか。じゃ、じゃあ、俺に希とのことを教えてくれよ!」

「それはダメ。ちゃんと自分で思い出さないと意味がないでしょ」

 姉ちゃんが俺の口元を人差し指で押さえた。

「そんなこと言われても……」

「私は晩ご飯の支度をするけど、何か食べたいものある?」

「姉ちゃんに任せるよ」

「了解」

 俺は自分の部屋に戻り、少し希とのことを考えてみることにした。

 もしかしたら、何か思い出せるかも知れない……

 まずは、整理するところから始めよう。

 俺が交通事故にあったのは中学二年生で、入院していた期間は二週間だ。そして、希とは病室が同じだったという訳か。

 う~ん、さすがに同じ病室だったら、覚えていると思うんだけどな……まあ、姉ちゃんの記憶違いも十分にあり得る訳なんだが……

「何も思い出せねぇ~何か、思い出すきっかけさえあればなぁ~」

 と、一人呟いていると、姉ちゃんが俺を呼びに来た。

「か~くん、ご飯できたよ~」

 と、ドア越しに声が聞こえ、俺はダイニングへと向かう。

 テーブルにはご飯と野菜炒めとみそ汁が並べられていた。

「今日は手抜き料理だけど、我慢してね」

「気にしてないから、大丈夫だよ」

「そっか。か~くんは優しいな~」 

 そう言って、俺の頭を撫でる。

「やめろって、子供じゃないんだし」

「ごめんごめん、嫌だった?」

 姉ちゃんが少し寂しそうな顔で言った。

「べ、別に、嫌じゃない……」

「あ、か~くん照れている~」

 姉ちゃんは「このこの~」と言いながら、俺の頬をつつく。

 心のどこかで、これを嬉しがっている自分が恥ずかしい……


「「いただきます」」

 そして、俺と姉ちゃんはじゃれ合いながら?も食べ始めた。

「か~くん、部屋で希ちゃんのこと考えていたの?」

「まあな。何か思い出せるかなって思って……」

「そっか。じゃあ、お姉ちゃんがそんなか~くんにヒントを教えてあげよう!」

「ヒント?」

「一つ目は、か~くんと希ちゃんはか~くんとのんちゃんって呼び合ったわ。二つ目は、さっき私も思い出したばかりなんだけど、か~くんは希ちゃんとは同じ病室ではなかったわ」

「え?それってどうい意味?」

「希ちゃんはか~くんと同じ病室ではなく、一人部屋だったのよ。ある日、か~くんが間違えて、希ちゃんの病室に入ったのよ」

「じゃあ、それがきっかけで俺と希は知り合ったのか……」

 何か、漫画やラノベでありそうでなさそうな話だな。

「私からのヒントはここまで!あとは、か~くん次第だよ」

「お、おう……」

 やっぱり、姉ちゃんの記憶違いか……それにしても、そんな独特な出会い方であれば、覚えていてもおかしくはないんだけどな……

 

 俺は晩ご飯を食べ終え、俺は自分の部屋に戻った。

「あとは、俺次第か……」

 とりあえず、ペンダントは月曜日に渡すとして、それまでに希とのことをおもいださなくては……

 姉ちゃんからヒントをもらったものの、浮かんでくるものが一つもない……

 まあ、今日は疲れたし、寝るか~明日は日曜日だし、明日にでも考えればいいか。


    ※※※


 その晩、俺は都合よく夢を見た。

 内容は、みなさんの察し通り、俺と希の過去についてだ。

 そんな訳で、夢について話すとしよう。(※夢というより回想です)


 遡ること、中学二年生の夏休み。

 俺は交通事故で入院の真っ只中だった。医師からは二週間くらい入院するように言われ、退屈な日々を過ごしていた。

 入院三日目の朝、用意された決して美味しいとは言えない朝食を済ませ、一人トイレに向かった。

 交通事故にあったとはいえ、意識不明までとはならず、足の骨折程度で済んだ。

 トイレを終え、俺は部屋に戻る途中、間違えて違う病室に入ってしまった。その病室は一人部屋で、間違う訳などないのだが、神様のいたずらとでも言うべきなのだろうか……

 その病室には俺と同じくらいの歳の女の子がベッドで寝ていた。

「あなたは誰?」

「お、俺は吉田奏斗。君の名前は?」

「中島希」

「そっか。よろしく」

「よろしくね」

 希は満面の笑みを浮かべて言った。

「お父さんかお母さんは?」

「パパは仕事で、ママは下のコンビニで買い物をしているわ」

「そうなんだ」

「うん。奏斗くんはどうして私の部屋に?」

「ごめん、自分の部屋と間違えてしまって……」

「そっか。もし良かったら、私と友達になってくれないかな?私、入院生活が長いから、友達が少なくて……」

 希が寂しそうな顔で言った。

「俺で良かったら」

「本当⁉」

 希が寂しそうな顔とは一変して、嬉しそうな顔をした。

 そんな時、ドアをノックする音がした。

「どうぞ」 

「か~くん、何をしているのかな?」

 ドアが開いて、姉ちゃんが入って来た。

「姉ちゃん⁉」

「奏斗くん?」

「か~くん、この子は?」

「さっき友達になった中島希ちゃん」

「そうなの?これからか~くんと仲良くしてあげてね」

「はい!」

「せっかく友達になったんだし、お互い、愛称で呼び合ってみたら?」

「「愛称?」」

「うん。か~くんはそのままで、希ちゃんはのんちゃんでどうかな?」

「のんちゃん……」

 希は気に入った様子だ。

 この雰囲気だと、俺ものんちゃんって呼ばなくていけないな……

「か、か~くんって呼んでもいい?」

「いいよ、のんちゃん」

「ありがとう、か~くん!」

 希が満面の笑みを浮かべて言った。

 そして、俺の意識が段々と覚めていく……


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