第11話「破壊神、先輩風を吹かせる」
と、言うわけで、有望そうな新人を見つけて連れてきた俺達は
「誰が! 相手の意見も聞かずに! 無理やり連れてこいって言った!!」
マイにこっぴどく叱られていた。
「い、いや、待ってくれマイ! こいつはアタシが見込んだ……」
「見込んだ相手なら拉致していいわけがあるか!!」
ド正論だった。
「というか! お姉とエルヴィーラだけだと絶対暴走するからマサヤにも行ってもらったのに! なんで一緒になって拉致してくるの!」
「いや、つい……」
「ついで許されたら衛兵は要らない!」
言い訳の余地がなかった。
「あ、あの……ま、マイ、さんですか? それぐらいで……」
「あなたも! なんで流されるままに連れて来られちゃうの! もっと警戒心を持って!」
「あ、はい……」
そしてなぜか俺達と一緒に正座させられる被害者の女性。名前も聞かずに連れてきてしまったので未だになんと呼べばいいのかわからない。
プリプリと怒るマイ。ディアは恐る恐る手をあげて発言許可を求めた。
「あ、あの……それで……採用可否の方は……」
「まだそんなこと言ってるの!? 逆にこれでなんで採用になると思ってんの!」
マイに一刀両断され、ガーンとショックを受けた表情を浮かべるディアとエルヴィーラと連れてこられた女性。
「なんで無理やり連れてこられたあなたまでショック受けてるの!?」
マイのツッコミが鮮やかだった。
ひゃ、と女性は身を竦めて、恐る恐る答える。
「あ、いえ、その……無理やりは無理やりでしたけど……お困りのようでしたし、何かお役に立てればなあと思っていたので……」
「いや、それは…………まあ、そりゃ、手伝って貰えれば助かるけど……でも、そっちだって都合とかあるでしょ?」
「あ、いえ、私無職なので」
「……でも、私達旅の劇団だし、お家の事情とか」
「帰るところもありませんし」
「…………ちなみに、手持ちのお金はどれぐらいある?」
「ええっと、銅貨が5枚……」
一日暮らせるかどうかといったところだった。
「じゃあ逆になんでそんなのほほんとしてるのよ……もっと切羽詰まりなさい!」
「え、あ、はい……すいません……」
しゅん、と肩を落とす女性。それを見て、マイは大きくため息をついた。
「じゃあ、ちょっとこっち来て。質問と、あと本当に読み書き計算できるのか試させてもらうから」
「え、え、いいんですか!?」
パッと、明るい笑顔を浮かべる女性。マイは片手で彼女を押し留めた。
「うちだって慈善事業じゃないんだから、ダメそうだったら容赦なく追い出すからね!」
「あ、は、はい! 頑張ります!」
ぐっと、拳を握る女性。
彼女の姿を見て、エルヴィーラがディアにこっそり耳打ちをした。
「のう、ディア。貴様が連れてきた奴をマイが本当に不採用にしたことはあるのか?」
「いや、ないぜ。アタシの見る目は確かだからな!」
「……ほほう、ほほう、なるほどのう」
ドヤ顔で胸をはるディアと、何やらニマニマとマイを見るエルヴィーラ。
マイは二人をキッと睨んだ。
「もし仮に採用決まったら、二人は今日の夕食抜きだから」
「な!?」
「なぜじゃ!?」
「突然人が増えたら、準備してた食材が足りなくなるからよ」
そう言えば、俺達が来たときもディアが飯抜きになっていた。定番の罰なのかもしれない。
「じゃ、じゃが! なぜ余とディアだけなのじゃ!」
「そうだそうだ! 一番罪が重いのはお目付け役なのにアタシらを止められなかったマサヤじゃないのか!?」
「飛び火させるな! あとどの口でそれを言う!」
巻き込まれないように途中から気配を消していたのだが、ボンクラ共が裏切ったせいで俺まで飯抜きにされそうだった。
マイは俺のことをジロっと睨んだ。
「い、いや、あの、待ってくれ、マイ」
「…………」
マイは律儀に待ってくれた。俺は必死に言い訳を考えた。
「…………」
「…………」
やっぱり言い訳の余地がなかった。
「マサヤとエルヴィーラは半分。お姉は夕飯抜きね」
ため息混じりに判決を下すマイ。エルヴィーラは小さくガッツポーズをした。
「うむ! それで手を打とう!」
「あ! エルヴィーラ! おまえ! う、裏切り者ー!!」
「フハハハ! 持つべきものは同じ釜の飯を分け合う相方よ!」
「それこういうときに使う言葉じゃねえからな」
俺を含めたボンクラ達のやり取りを横目で見ながら、マイは女性にたずねた。
「そういえば、あなた名前は何ていうの?」
女性は、言いにくそうに目をそらしてから、恐る恐る口を開いた。
「その……実は……それも覚えてなくて……確か……リン……とか……そんな感じだったような……」
「ま、深くは追求しないけど。よろしくね、リン」
マイはリンに片手を差し出した。リンは、恐る恐るその手を握り返した。
俺は、これは採用になるなと思「なんか言った?」「何も言ってません」
―――――
「言っとくけど、私が甘いんじゃないからね! 少しどころじゃなくリンは読み書きも計算も帳簿付けもできるし! 魔法もちょっと使えるみたいだし! 行くところも無いみたいだから旅についてきても問題ないみたいだし! 単に必要な人材だったから採用を決めただけだから、勘違いしないでよね!」
ということで、リンの加入はあっさりと決まった。
夕飯の時間、皆でシチューの鍋を囲みつつ、リンの紹介は行われた。
ヤコフとアリマは嬉しそうにリンを歓迎し、イーナも特に反論はないようだった。もちろん、勧誘してきた俺達にも不満はない。
「さ、最近は新人がどんどん増えて嬉しいなあ。仕事もたくさんあるし、順風満帆だ」
「何かあったら遠慮なく私達に聞いてね」
「あ、は、はい! ありがとうございます! ご指導ご鞭撻のほどよろしくおねがいします!」
ヤコフとアリマに言われて、リンは恐縮しているのかペコペコとせわしなく頭を下げている。そんなリンの様子を、ヤコフたちは微笑ましそうに見守っている。
「うむ! わからないことがあれば余にも聞くが良いぞ! 余はこの劇団では貴様より先輩じゃからな!」
そしてシチューのスプーンを加えつつ先輩風を吹かせるエルヴィーラ。
マイがエルヴィーラの加えたスプーンをぺしっと叩いた。
「行儀が悪い!」
「あうっ」
威厳のなくなる先輩に、更に追い打ちがかかる。
「エルヴィーラも色々覚えては来たけど……未だ出ハケを間違えそうになるのよねぇ。見ててドキドキする」
と、アリマ。
「ま、まあ、うん。エルヴィーラ、ネタは面白いし頑張ってると思うよ。そ、その……こないだ大道具作るの手伝ってもらった時はハラハラする手つきだったけど……」
と、ヤコフ。
「というかエルヴィーラはまず常識を覚えなさい。お姉みたいな大人になるよ」
と、マイ。
「な、なんじゃと……!?」
「アタシにも飛び火してないか!?」
そしてショックを受けるボンクラ二人。
二人の様子をみて、リンがくすっと笑った。
「お、緊張がほぐれてきたみたいだな」
俺が声をかけると、リンが慌てたように手を振った。
「あ、い、いや、すいません! そ、その、つい……」
「いや、いいよいいよ。これから同じ釜の飯を食う仲間になるんだ。肩の力抜いてかないとやってけねえさ」
ちなみに、マイに言われたとおり今日の俺の飯はエルヴィーラと二人で半分づつ分け合うことになっている。
同じ釜の飯を分け合う相方は、俺の分までシチューを食う勢いでガツガツ食べている。
「欠食児童か」
「育ち盛りじゃから……」
破壊神がこれ以上育つのか! とツッコミたいが他に人もいるので止めておく。俺は代わりに大きくため息をついた。
「まあ、こんなんでも反面教師にはなると思うから」
くすっと笑うリン。緊張もほぐれて来たようなので、俺は気になっていたことを聞くことにした。
「なあ、リン。無理やり連れてきておいてなんだけど本当に良かったのか?」
「あ、それはもう。ギルドでも話したとおり行くところもありませんでしたし……それに……」
ふっと、リンは遠い目をしてディアを見た。
「その、ディアさんのお話を聞いていると、なんだかすごく懐かしい気持ちになって……この人が居る所だったら、大丈夫かな、と……」
そう言うリンの目は、優しさとどこか寂しさをたたえていた。
ちなみにディアは首から『私は知らない人を拉致しました』の看板を下げて正座させられている。
「あとその、エルヴィーラさんも」
「余か? 余がどうかしたかの?」
モグモグ、とシチューを食べながら首をかしげる欠食児童。今シチューの皿には人参だけがゴロゴロと残されている。子供か。
「その……なんでしょう……あ、あの、ちょっと失礼かもしれませんけど。エルヴィーラさんを見てると、放っておけない気持ちにさせられて……」
じっと、エルヴィーラを見るリン。エルヴィーラは人参が残ったシチュー皿を俺に押し付けた。
「い、いや、これはあれじゃぞ。その、やはりコンビというのは持ちつ持たれつというか助けあいとかそういうのが大事じゃからの?」
「俺も肉食いたかったんだけど」
「美味しかったぞ」
「俺も! 肉! 食いたかったんだけど!」
俺とエルヴィーラのやり取りを見て、マイは微笑んでいた。
夕食も食べ終わり、食休みをしていると、マイがパン、と手を叩いた。
「んじゃ。リンの紹介もしてご飯も食べ終わったところで! 次の仕事の話をしたいと思います!」
食後でだらけていた団員たちの表情が、仕事と聞いてキュッとしまった。これでもプロなのである。
皆の表情が真剣になったのを見て、マイは満足げにうなずいた。
「次の仕事は予定通り、街道を西に行ったサントの街で行うことになるんだけど……なんと! その公演を視察したいと貴族様から打診が入りました! もしもお眼鏡にかなったら、王都のお屋敷で公演を依頼したいとのことです!」
おおっ、と団員たちから歓声が上がる。貴族、金と領地のあるエリート様……ぐらいの認識しかないが、大きく間違っているわけではないだろう。
これは大きなチャンスである。バックに金持ちがついていれば公演場所の確保や宣伝面で融通が効くようになるのは、前世から変わらぬ真理である。もしもお眼鏡に叶えば大躍進だ。
「というわけで、各自! 次は一層気合を入れてね!」
団員たちから歓声があがった。ヤコフとイーナは早速なにやら打ち合わせを始めており、アリマは機嫌良さそうに酒杯を煽っている。リンはまだピンと来ていないのかキョロキョロ辺りを見回し、ディアは。
「ほほう……王都でアタシが英雄譚を披露できるのか……楽しみだ!」
と舌なめずりをしていた。
ポンポン、と肩を叩かれた。叩いたのはエルヴィーラだった。
「マサヤ! 余らも張り切ってネタを作らねばな! 今度はどうする? 何か案はあるのか?」
鼻息荒く俺に詰め寄るエルヴィーラ。その様子を見て、俺はかねてより考えていた提案をすることにした。
「よし、とっておきの案が一つある」
「とっておきとな! どんなのじゃ! どんなのじゃ!」
「ああ、エルヴィーラ。次のネタは、お前がメインで考えてみろ」
「ほほう! 余がメインでネタを考えるとな!? ……ん? 余が、メインで、ネタを、考える?」
エルヴィーラは、ぎこちなく首をかしげた。俺は力強くうなずいた。
「え、えええええー!!」
エルヴィーラの悲鳴が、夜闇に大きくこだました。
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