第7話 シャワーの話


「シュン、臭いよ。まるで熟成されすぎた犬みたいだ」


「たとえが難しいよ。それに、犬って」


「もちろん。部屋の中に住んでいるお犬様は想像するなよ。」


「ハイ」



シュンは犬の様に、自分の服をかぎ服の中に鼻を突っ込んだ。かすかに汗臭い匂いがした。つまり、自分でさえ匂うというのは、他人からすれば相当に折っていることに他ならない。シュンはまあ、妥当かなと、以前に水浴びができたのが何日前かを思い出しながら思う。



「ねえ、アーテ神様ならシャワールームとか、バスタブとかできないのかい。」



唸りながら、アーテは蹲る。



「できる、できるけどお。それはわたしにとってルール違反。絶対ダメなこと」


「何がダメなの」


「何もないところから、ゼロから文明物を創造して人間に渡すこと。これをして私は人間がまともに育っていったためしがない。」


「ああ、そうなんだ」



入れたらラッキーだったなあとシュンは少し落ち込んだ。けれど元々ずっと旅してきた身だ、今更風呂に入れないくらいで弱音が出てくることはない。けれどどうやらアーテには違うようだ。



「そんなことはいいの。ええ、関係ないことだわ。文明の事なんてどうでもよくなるくらいにあなたはいま、臭いの。とっても。」


「そ、そんなにかい?」


「ええ、もう耐えられない。これ以上車に一緒にのってたら気が狂いそうになるわ。そうね、シュン今脱ぎなさい。全部。今すぐに」


「ええ。今から脱ぐ? なんで。」



シュンは不機嫌そうに口をすぼめて抗議した。脱ぐだなんてそんな事、女の子の前でできないと。それはシュンにとって臭いことよりは重要なことだった。



「つべこべ言わないで。今すぐ脱ぎなさい」


「い、嫌だ」


「神の前で服脱ぐ程度で、はずがしがってんじゃあ、ないわよ―――――っ!」



そういうとアーテは、シュンの上着からすべてを身ぐるみはがして持っていこうとする、盗賊のような速さと手さばきであっという間に脱がしていった。せめてもの、温情で下着だけは吐くことを許された。下着だけは死守しようと守り切った後に、女の人に襲われるのは、とっても恐ろしいことなのだとシュンは学んだ。何をされるかよく分からない恐怖、昔に会ったことのある旅人はそのシチュエーションが好みだと言っていたのを思い出した。自分は、勘弁してほしいと、それだけを願う。



「ああ、全部汚いわ。どうして人間ってこんなに汚れてもけろっとできるのかしら。不思議ね。不潔よ。不潔。今からシャワーを作るから今すぐそれで綺麗にして。もちろん私が納得するまでよ」


そう言うとアーテは人差し指をくるんと回した。そうするとシュンの真上に小さな雲が少しずつ集まって雨を降らせる。どうやらアーテの機嫌の悪さも表現しているのだろう。たまに腹に響くような音と、肌をピリリと刺激する雷が落ちてきた。少し離れたところで、小さな雨雲たちと、シュンの服を洗っていたらしいアーテは無言で訴えかける。「惚けてないでいますぐ体を綺麗にしろ」と。




「分かったよ。今すぐ綺麗にするよ」



当り前だと言わんばかりに。雲から三発ほど雷がまた落ちてきた、

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