第6話 a-te

「ねえ、君は何者なのか教えてくれる? 」


「名前はアーテ。神様の子供だよ」


「神のね」



 シュンは有神論者ではなく、宗教というものに興味はあったが、それは宗教というものを盲目に愛し信じ続ける、信者に対してであり宗教そのものには全くと言っていいほどに興味はなかったし。神という存在はいないとすら思っている。神が存在するならば、もっとましな住みやすい世界にしてくれとそういう文句が出てくるだけだった。



「本当よ? まあ信じられないでしょうけど。」


「そうだね。まず神の事すら信じられないからね。」


「まあ、それが普通か」


「それで? 神の子たるアーテ様はなぜこんな荒地で寝ていらしたんでしょう」



アーテは心からの敬語でない言葉が面白かったらしい、くすくすと女の子らしく楽しそうに笑った。シュンは初めて、女の子らしい部分が見れたなあと漠然と思う。見た目は可愛らしいのにもったいない、けれど女らしい女ほど旅において邪魔なものはないなという文句も出てきた。



「それはね君みたいな旅人を、まっていたからだよ」


「僕? 」


「そう。下手な国には降りれない。そんな事旅人である君ならすぐわかることだろう? それに私は沢山の国を。人と出会いたいんだ」



 国によっては常人には理解しがたい風習や、価値観、宗教が存在することもあった。変な国に下りれば、彼女が本当に神の子だとしたら崇められるかそれともいけにえにされるかのどちらかだろう。それはきっとアーテには煩わしい問題に違いない。そうであれば、日々旅をしている人間に付いていくという決断は確かに間違いではないだろう。



「ねえ、無粋なことを聞いても? 」


「なあに? 」


「僕が、君を神の子供だと信じられる何かを見せてと言ったら何ができる? 」


「そうねえ、その何もない荒野に湖でも作ろうかしら。」



 そう言うと、アーテは目を閉じた、次の瞬間には湖がそこにできていた。音も何も立てずに、そこへただ元から存在していたように湖が存在していた。



「え、嘘」


「本当だよ。あそこに行くのは遠回りだし、そうだなあ。そこのオーディオを使えるようにしようか」



 オーディオにアーテが手を当てると、光が付き壊れた洗濯機のような不快な音が立った後に、アコースティックギターのような音が静かに始まり、甘いようなテノールの男の声で歌われる、どこの国の言葉かは、シュンは分からなかったが、愛の歌のようなものだった。まるでオーディオはうんともすんとも言わなかった。科学技術が進歩したクニへ行っても誰も直せなかったし、新しいものにしなさいと促され諦めていたものだったのに。



「どうやった」


「見てた通り。分かりやすく言えば、神の力とでも言えばいいかしら。これがこの世に生まれた時へ時間を巻き戻しただけ。それで私の好きな歌を流しているの」


「へえ、そうか。まあ、直って良かったけど。これって聞いたことがないけど、どこのクニの歌なの」


「いや、もうクニはないかもね。ないなあ、少なくともシュンが生まれた時にはいないかも。うん、確か世界がこんな風になる前だから、そうね、ずうっと前かしら」


「そう。けどまあ、目にした力くらいは信じるよ。」



もうこちらの言葉に関心はないのか、アーテは窓の外を向いて、ご機嫌よくハミングしていた。一つの音の外れもないことから、相当気に入って聞いていたのだろうか。この曲には彼女にとってどんなドラマがあったのだろうか、気が向いたら聞いてみようかと思った。

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