(11)そのあと
それから少しして、夏休みは終わった。部活には入っていないけれど、どうもいろいろと忙しくて暫くは神社に行くことができないでいた。しかし神社に行かずとも時間は刻一刻と進み、とうとう冬休み間近だ。それまでの間にも、神社のことを忘れないためにいろいろと書いていたのだが、まあそれは……。学校では冬休みの宿題などという正直理解に苦しむ紙の束が配られたり、クラスの人たちが「冬休み何する~?」などと楽しそうに話していたり。
母親は、何故か再婚した。どうしてそうなるのかはわからない。私は父親がほしいわけではないのだが……。しかしその父親は絵に描いたようないい父親だった。ただ、お父さんには絶対に勝てないけれど。母親の仕事も少しだけ減って、なんとなく、家にいることも多くなって、母親の手料理も多くなった。しかしその両親は私をすぐにどこかへ連れて行こうとする。私は平穏に暮らしたい……。
と、いろいろあって神社にはいけないでいた。
神社に行くチャンスができたのは初詣、母親が体調を崩して父親はかかりっきり。申し訳ないけど一人で初詣に、といわれた。
私は鞄に、財布と、スマホと、それから、暇な時間に自分で書いていた『らののべる』を詰める。原稿用紙を二つ折りにしても、かなりかさばってしまう。
丘陵の入り口に久しぶりに立つ。夏は緑に覆われていた丘陵も、冬になった今はかなり禿げてしまっている。
道に落ちた枯葉を踏む音はサクサクと小気味がいい。夏と同じなら、そろそろ狐様が来るころだろうか。
と、かさかさ、という明らかに動物のもの、小さな足音がして、銀色のキツネ、狐様がお出ましになった。神様じきじきのお出迎えとは、なんともVIPな感じである。
冬は夏よりも幾分か登り易い。前に来たときよりも早く登ることができた。
赤くて大きな鳥居は目前だ。神社には、ちらほらと人影がある。
鳥居を抜けて、拝殿で千円くらいお賽銭を上げて、鈴を鳴らし、二礼二拍一礼、願い事を思い浮かべる。
――平穏な日々を過ごせて時々この神社にこれますように!
「あ、零奈ちゃん! お久しぶりです!」
後ろから声がした。聞きなれた、かわいらしい声だ。
「らのさん! 久しぶりです!」
らのさんは今日は巫女装束に身を包んでいる。相変わらず胸の主張は激しいし頭に載ったキツネの耳もピクピク動いているけれど、それでこそらのさんだと思う。お風呂に入ったときの衝撃は今でも忘れられない。どうするとああなるんだ……。
「あの、らのさんに見せたいものが……」
私は意を決してそう切り出す。そして、らのさんと私と、それから狐様の二人と一匹でらのさんの家へ行く。
居間のちゃぶ台の上に、私は『らののべる』を書いた原稿用紙を広げた。そして、
「らののべる、っていうのがわかりやすいですかね……書いたんですよ!」
「ッ!? ありがとうございます! 読ませてもらいますね……」
らのさんは私のかいた『らののべる』を、ゆっくりと読んだ。結構な時間をかけて沢山書いた『らののべる』、現代ドラマから異世界ファンタジーまでいろいろと揃えてあるが、単純な分量で言えばラノベ一冊分ほどはある。
らのさんはそれを1時間弱で読み終えた。読み終えて、いろいろと感想を言ってくれた。
それから私はらのさんと、小1時間話した。それから何故か、神保町に出かけることになって、ラドリオという喫茶店で何故かうさぎやすぽん先生と出会って、人生つらいよねっていう話をして――
家に帰ったのは7時を過ぎていた。リビングからお帰り、という声が聞こえてくる。晩御飯はなんだろう。
本山らのと夏の神社 七条ミル @Shichijo_Miru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます