応援コメント

すべてのエピソードへの応援コメント

  • 06_一枚四人乗りへの応援コメント

    長らくお待たせ致しました。
    この度は『自作品への意見や提案がほしい方へ』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。

    公開されている内容は一通り拝読致しました。
    作品自体がプロトタイプということなので細部への言及は控えますが、大まかにはハードSF作品としての形を保っていたかと思います。文章レベルも高水準なもので、海外小説の翻訳のような硬さはあれども、読むほどに味わい深くなる文体でした。物語の内容としては、やはり『攻殻機動隊』に引っ張られていたように感じた一方で、独自性を模索しているようにも受け取れました。『MGIF』と『リフレクター』の要素は擦られたネタではありますが、『HAPPINESS』には光るものがあると思いました。これを掘り下げていけば、本作のオリジナリティにつながるかもしれません。

    これらのことを踏まえて、次は気になった点に触れていきます。
    近況ノートにいただいたコメントへの返信にもなります。まず、プロローグに関しては出来が良かったと思います。反対に、本作はプロローグがピークだった感が否めません。続く話が書きかけということもありますが、熱量は次第に減少の一途を辿っています。

    続いて、文体のくどさや固有名詞の存在について。これらはハードSF作品という観点で見れば、許容範囲だと思います。当然、一般の読者は拒絶反応を示すでしょうが、この分野で万人受けを狙うのは土台、無理な話でしょう。ただ、作者様は世界観や事象をアップで描写しすぎている傾向にあります。そのために自己陶酔的な作品の色が強くなり、読者を置いていくことにつながっている印象です。なので、もう少しルーズな視点で、作品の全体像を伝えることを意識されれば、敷居の高さを軽減できるのではないかと考えます。たとえば人々がインターネットに飛び込む動機や社会情勢、格差、反社会的勢力の思惑、AIの真意など。そうした外堀をある程度まで固めたうえで、細部の構造に触れた方が順序的に読者は内容を理解しやすくなるはずです。

    そして、肝心のオリジナリティを形作る要素について。こちらは冒頭で述べた通り、可能性を感じさせるものと既視感のあるものが混在していました。とはいえ、SF的要素に既視感があるのは当然だと思います。サイバーパンクの基礎は、すでに小説『ニューロマンサー』や映画『ブレードランナー』などで完成してしまっているわけですし、後続の名作たちも少なからず影響を受けています。SFに疎い人たちの目には、どれも似たり寄ったりな作品に映っても不思議ではないです。それでも、これらの作品群には明確な違いがあります。それは、根底にあるテーマやメッセージ性でしょう。同じ材料を用いて作品を作ったとしても、この部分にだけは個性が出るものです。なので、オリジナリティを出すには固有名詞やその設定で魅せることの他に、確たる物語を構築することも重要だと思います。

    「人智を越えたAIの様相」を描くことが目的であれば、それに付随する問題提起を序盤に持ってきた方が良いでしょう。作中での「行き場を失った水」から、もう一押しほしい所ですね。たとえばデータ化された自我の真正性や、AIの限界など。とりわけサイバーパンクは基盤が出来上がっているジャンルなので、あとは物語の味付けでしか独自性を出せないと個人的には考えています。小説の場合、斬新な哲学や価値観が求められるでしょう。そうした意味では『serial experiments lain』が好例です。ご存知かもしれませんが、この作品は既存の要素を踏襲しながらも、独特な物語を通してインターネットと自我の在り方を描いています。作者様の意図するインターネットやAI像とは異なるかもしれませんが、「既存の設定でのオリジナリティの出し方」を学ぶうえでは大いに役立つ資料かと思われます。この作品の考察や解説は動画サイトにかなりの数があるので、もしもご興味がありましたら調べてみてください。くどいようですが、オリジナリティには物語単品での面白さも不可欠です。

    以上になります。
    作者様の創作活動の一助となれば幸いです。

    作者からの返信

    この度は丁寧な読み込みと真摯で熱意ある批評をありがとうございました。
    何か足りないものが掴めればと思っていましたが、私は単に場面を描こうとしただけで、物語を描くための/描くだけのものが足りていないと気付くことができました。必要な「積み重ね」についても認識不足と、少し勘違いをしていました。

    まずプロローグがピークとのご指摘はおっしゃる通りで、1話から既に次の見せ場までの繋ぎとして書いている感覚が抜けませんでした。登場人物の解像度の低さ、(イトマはある程度定まっているが肝心の井沢/枝梨は曖昧・詰め込み過ぎ、二人とも過去や芯は微妙)、設定は取り繕いと後回しでスカスカ。まさに「外堀をある程度まで固めたうえで」ができていません。「世界観や事象をアップで描写しすぎている」は、そこであれば少しは書けるから、に他なりません。文体は調節できそうですが、どこから読み手に見せていくかは反省し次に活かします。

    次に、核心たるオリジナリティの部分について。『ニューロマンサー』も『ブレードランナー』(原作の電気羊も)も読んだ/観たことがあるのに、『攻殻機動隊』はこれらと一切重複しない独自の世界を一から十まで作り上げている、ともすれば後発の作品群もほぼそうであると思い込んでしまっていました。そんなことはないですし、重要なのはそこではない、と。「根底にあるテーマやメッセージ性」を忘れて見えなくなっていました。近況ノートでご依頼時に「本作品で描きたかったのは~」と書いた文言は今読み返すと表層的です。ここが定まっていれば1話2話で描くこともまた違っていたはずで、気の抜けたものにはならなかったのだと思います。「それに付随する問題提起を序盤に持ってきた方が良い」とのアドバイスは改稿時に是非取り入れます。柱がしっかりしていれば枝葉は作りやすくなり自然と付いてくると念頭に置いて。固有名詞も設定も今は孤立して浮いていて、全体像は樹になっていませんね……。その意味では何故他の作品に熱が移ったのか納得できました。
    『serial experiments lain』はタイトルは何度も聴いているのに未視聴でした。アニメ版であれば視聴できそうなので時間を見つけて触れ、独自性・物語のきっかけを得たいと思います。

    末尾となってしまいましたが、依頼時の文面が企画の規定文字数を必然的に超えてしまうような形となっており申し訳ございませんでした。私だけ多く時間・労力を割いていただき、私の後に待っている書き手様方を待たせてしまいました。
    今回いただいた内容を踏まえて、本作はいつか書き直したいです。足りない点が明確になり、このまま少し手を加えた程度では大したものにならないと自覚できました。改稿の際はご指摘全てに自信をもって応えたと言える水準を目指します。
    確たる物語、物語単品での面白さ、できるならば独自性。どれも簡単には得られないものですが、特に“物語”そのものは作品が大衆受けを狙うものであっても自己表現であっても不可欠です。と、分かっていたはずでした。今一度、本作だけではなく力を入れている作品も見つめ直そうと思います。