第14話「古城の都に新たな戦いが刻まれる」
ヘリコプターから
そして、眼下の森は
この中に敵が……
だが、
「……ふむ、見えてきたか。とりあえず、到着したら四人に少し……そうだな、ベッドで眠れるくらいのことはしてやりたいが」
成太郎が半目で見詰める先に、中世の
ドイツでは今も、こうして古い要塞がそのまま街になっているのだ。三十年戦争の時代、そして
名は、ネルトリンゲン。
北上する陸上戦艦ラーテが、次に狙うであろう
「さて……ん? なんだ……馬鹿な、もう戦闘が始まっているだと!?」
成太郎は一瞬で眠気を忘れた。
霧に
『敵性部隊、前進を再開! 指示を
『こちらの損耗率は40%を超えた! 火力が違い過ぎる! 戦車を回してくれ!』
『戦車大隊も事実上全滅、今は稼働率が五割を切ってる! そちらで対応されたし!』
『クソッ! パンツァーファウスト持って各小隊長は集合! 肉薄して敵戦車を止める!』
どうやら歩兵部隊が奮戦中のようだ。
ネルトリンゲンを超えて北上すれば、ドイツ軍の最終防衛ラインがある。
合流するならそちらだが、目の前の危機を見捨ててもおけない。それに、ここで友軍を支援することは、全体の作戦にとってもプラスになる
なにより、成太郎に戦闘は見過ごせない。
出自を同じとする
「
皆、それぞれ自分の
ワイヤーでぶら下がる
無線機越しに、眠そうな声が四つ。
出発してから五時間しか経っていなかったが、敵は待ってくれない。
なにより、一秒でも救援が遅れれば、その間に犠牲は増え続ける。
『ふぁあ、ふぅ……よく寝たです。スマホでガンダスター見てたら、いつの間にか
『朝から元気だね、エル……この揺れと音で、よく眠れる』
『灯の言う通りだよ、まったく。ヘッドホンで音楽聴いてても、振動がずっと……』
『
バックミラーの中で、四騎の
その姿を見て、ふと成太郎は自分の相棒のことが気にかかった。
「ハバキリも持ってくるべきだったな……だが、ヘリの数が足りんからしょうがない。……フッ、手元にないと意外と落ち着かないものだ」
いつでも戦闘に参加できるよう、
生まれてこの方、ハバキリとこんなに離れた経験は、ない。
研究所ではいつも一緒だったし、あれは成太郎にしか動かせないのだ。
だが、今はそんなことを考えてもしかたがない。
ヘリコプターのパイロットへとリリースポイントを伝えて、成太郎はハンドルを握り直す。元は陸上自衛隊の
助手席へとノートパソコンを遠ざけ、成太郎は改めてインカムに小さく叫んだ。
「五分後、敵の鼻先に降下する。ドイツ軍歩兵部隊を支援しつつ、ネルトリンゲンの街へ逃げ込め。歩兵の撤退が完遂されるまで、
『はーいっ! ……なんかわたし達、空から落っこちてばっかりですね!』
『この高度なら、メインスタスターの推力で降下が可能かな?』
『ねね、眠気覚ましに音楽かけていい? すおみ、そっちに繋げるからさ』
毎度ながら、緊張感はない。
程なくして、ヘリコプターは機体を翻して高度を落とした。この霧の中へと
そして、うっすらと地面が見える高さで、ワイヤーが切り離された。
10m近い高さから、成太郎を乗せた指揮車が投下される。
不快な無重力が一瞬だけ襲って、
「各騎、着陸後に応戦。俺のフォローはいい! 各個に敵戦車を撃破だ」
とは言ったものの、特別にチューニングした足回りでも落下は心配だ。
そんな指揮車へと、空中で
直後、激震。
背と両足のスラスターから白炎を
足首や膝の関節部を支えるサスペンションが、人間の筋肉のように躍動する。
そのまま灯がおろしてくれたので、霧の中で成太郎はアクセルを踏み込んだ。
不整地の悪路を、エンジンの
「ドイツ軍歩兵部隊に
白い闇の中の、攻防。
全てを圧殺するように、敵の戦車が襲い来る。
正しく、鋼鉄の津波とでも言うべき物量だ。やはり、大戦中に計画されたもので、実際は配備されなかったタイプの戦車である。
旋回する砲塔の全てが、成太郎とその仲間達へと向けられた。
だが、こちらも同じD計画の産物……人造人間零号が率いる現代の魔女達である。四騎の
砲声と銃声に満ちた空気が、冷たい霧を沸騰させる。
成太郎は右に左にと指揮車を横滑りさせながら、肉眼で目視して指示を出し続けた。
「霧沙、突出して遊撃、要撃してくれ。脚を使った戦闘なら、お前が一番頼りになる」
『りょーかいっ!』
「あと、この音楽だが」
『やっぱまずい?』
先程から、霧沙を中心に音楽が鳴り響いている。
アップテンポなエイトビートは、エレキギターが絶叫するハードロックだ。成太郎には
ネイティブな英語の発音は、それ自体が言葉である以上に胸に突き刺さった。
「あとで俺にダビングしてくれ」
『いいけど? ってか、ダビングて……
「あいぽっと? すまん、もう難しい機械はこりごりなんだ。カセットテープに頼む」
『ほいほい。んじゃま……やっちゃいますか! いくよっ、
土砂が無数に舞い散る中、指揮車を飛び越え霧沙の二号機が走り出す。
鈍重な重装甲の見た目を裏切る、その軽快な足取りが右に左にと砲弾を避けて進んだ。
魔力で駆動する
ムラクモ二号機は、両手に握った
鳴り響くロックナンバーに合わせて、踊るように敵を討つ。
「灯は霧沙をフォロー、すおみは援護射撃。エルは――」
『はいっ! 指揮官さん、わたしは!』
「撤退する友軍の歩兵を守ってくれ。すまんが、少し身体を張ってもらう」
『ラジャーなのです!』
敵の進軍が
そして、陸上戦艦ラーテの姿はまだ、霧の中で確認できない。
敵意と殺意を秘めたラーテの魔力が、絶え間なく試作戦車の
単純にエル達が、
それ以前に、こんな状況下でも彼女達の
『っと、ゴメン灯! 一台そっちに抜けた!』
『平気、こっちでやっとく! 霧沙は前だけ見て!』
『背中はわたくし達にお任せですわ』
成太郎も矢継ぎ早に指示を飛ばす。
ジグザグに走る指揮車は、まるでミキサーのような乗り心地だ。あらゆる路面を想定して鍛え上げられた足回りは、唯一快適さという概念がすっぽり抜け落ちている。
何度も逃げるドイツ兵達と
だが、不意に目の前に影が浮かび上がる。
霧のヴェールを突き破り、一台の戦車が突進してきた。
E-75の型番を割り振られた、名前のない
慌ててハンドルを切る成太郎の真横を、
慌ててスピンターンで、成太郎は
頼もしい絶叫が響いたのは、その瞬間だった。
『兵隊さん達はやらせませんっ! うわああああっ! 必殺ぅ、ハイパァ、プラズマッ、キィィィィィック!』
思わず成太郎は絶句した。
その姿は正しく、悪鬼を踏み締め
『かーらーのっ、必殺の一撃なのです! ダスタァァァ、ビィィィィィムッ! のような、感じでっ!』
回転するシリンダーが
なんとか友軍が撤退したことを確認して、ノイズ混じりの無線に成太郎も叫ぶ。
そのまま
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