第12話「深まる謎、明かされる真実」
残念ながら、
収穫は少なく、敵の進軍は続く。
また一つ町が消えたと知ったのは、成太郎が整備班と合流したあとだった。
『ふーん、そっか。まあ、お疲れちゃん! 最低でも私達防衛省、自衛隊が善処を尽くしたという
通話の相手は
彼女はいつものおちゃらけた口調だが、その声には節々に強い意思が感じられる。彼女の、D計画
一見して人当たりのいい女性だが、笑顔の裏にはなにかが隠れている。
だが、それを
「とりあえず、送れるだけのデータは送った……ふぁぁ、ふう。時差があるから普段より余計に眠い」
『ほいほい、届いてますよっと。ふーん……周囲の小型戦車、ってか通常の戦車はこれ、ラーテの魔力が生み出した
今回の戦闘で、ブルームの魔女達は相当数の車両を撃破した。
通常の戦車は全て、撃破後ほどなくして残骸が消滅した。
それは後続のバックアップ班も確認し、貴重なデータが得られた。
『通常のティーガーや
「……話に聞いたことがある。Entwicklungstypen、いわゆる開発型番のEを冠した、部品の共通化、規格化に主眼を置いたシリーズだな」
『
「他に学ぶことがなかっただけだ、あの研究所では」
人造人間として魔力を
徹底して管理され、人間扱いされない日々を成太郎は忘れない。
その中で、優しく接して情緒と尊厳を教えてくれた女性のことも。
「周囲の戦車程度なら、今の俺達でも対処が可能だ。だが」
『ラーテが高速移動したって? ちょっと待って、ドイツ側に残ってる資料でも、1,000
「灯達が交戦していた地点から、後方の俺のトレーラーまで、直線距離で約1.5km……
回線の向こうで灘姫は黙ってしまった。
だが、成太郎の述べたことは事実だ。
実際には『灯達がラーテをロストした』その直後に『成太郎の背後にラーテが現れた』というものである。その事象同士を結び付けると、ラーテは数秒で4km前後移動したことになる。
ただ、その移動手段が通常とは異なるものだったと考えるのは打倒だ。
魔力で駆動するD計画は、物理法則すら捻じ曲げる力を持っている。
『……ワープ、的な?』
「ワアプ? なんだそれは」
『あ、知らない? ほら、SF小説とかによく出てくるじゃないの』
「SF小説……ああ、
『そらそうね、ふふ……で、ワープってのは瞬間移動のこと。空間同士を歪めて、点から点へと跳躍するように移動するの。距離や時間を無視するのね』
「ふむ」
先程、灘姫からも事後報告という形で語られた話を思い出す。
先日のD計画第一号……高高度迎撃戦闘機、
その震電だが、
ちらりと成太郎は、整備中の
戦闘で汚れ、オイルと
「つまり、ラーテは高速移動する強固で強力な巨大戦車ということか」
『わはは、割とチートね、チート』
「チイト? それも空想科学読本の用語か」
『んーん、どっちかってーとライトノベルかな?』
「なんだそれは……軽い小説? 軽薄なのは好かん」
ともあれ、インチキという意味の言葉だと教えられて、なるほどと成太郎は頷く。
瞬間移動、これはとんだイカサマ、ペテンである。
追い詰めようのない敵だとしても、成太郎達は追うしかない。
『あと、吉報? あ、いや、これは凶報かなあ? んとさ、ドイツ軍が最終防衛ラインの構築を完了したわ。んで、戦力を再編して打って出るって……どする?』
「どうするもこうするもない、無駄なことだ。止めてくれ」
『止めたわよ、でも聞き分けると思う?』
「……通常兵器では、D障壁を破ることはできん。一方的に蹂躙されるぞ」
『ドイツ軍にもメンツがあるからねえ。困った困った、と。まあ、もう少し引き止めてみるわ。そっちも少し休んで、追撃を続けて。ドイツ軍が足止めしてくれれば、ラーテの背後を急襲できるかも。もっとも、ワープして逃げられたら意味ないんだけど』
その後、二、三のことを確認して成太郎は通信を終えた。
残念だが、状況は
幸い、四騎の
だが、魔力を持つ人間だけが、D計画が持つ無敵の防御……D障壁を無効化できる。そして、そんな者達を守って戦うには、
やれやれとスマートフォンを耳から離す成太郎。
「ふう……ん? お、おや? これは……待て、俺はそんなところは触っていない。むむ……どうしたことだ、ぐぬぬ!」
どうもタッチパネルというものには、慣れない。
通話の終了を操作したつもりが、しらないアプリケーションが起動してしまう。そもそも成太郎にはまだ、アプリとか通信量の話がチンプンカンプンだった。灘姫からは、電話もできる電算機だと思えと言われているが、正直信じられない。
そうこうしていると、背後に気配が立つ。
突然ブーン! と震え出したスマートフォンを持て余しつつ、成太郎は振り返った。
「お前達か……テントを用意させた、飯を食って休むといい。と、と、こいつ……黙ってくれんのか、ええいもう」
わたわたとしながらも、少女達に休息を取るよう成太郎は
だが、一同の先頭に立つ灯が、そっと彼の手からスマートフォンを取り上げた。彼女が指を滑らせると、ようやく静かになる。それを返却しつつ、灯は真剣な表情だ。
受け取る成太郎もまた、話を聞こうと身を正す。
「えっと、整備の方は大丈夫みたい。今夜遅くに大きいヘリコプターが来るから、それで次の地点まで運ぶって。……それまで、休んでていいのかな」
「ああ。兵士にとっては休息するのも任務のうちだ。……あ、ああ、お前達は正規兵ではないな、うん。いや! そういう意味ではなくて、うむ、ただの女学生なのだから」
「ふふ、ありがと。正直ちょっと疲れた……こないだの、空中に放り出されるのよりはよかったけど。ね、霧沙? エルも、すおみも」
うんうんと霧沙が腕組み頷き、
エルだけが「えーっ、最高に燃えましたよ!? 熱かったですよ!?」と、一生懸命語り出した。そんな彼女をハイハイとなだめつつ、灯の表情が
「ねえ、成太郎……大事なお仕事なのはわかってるけど、ちょっと……その、私達だけじゃ少し頼りないっていうかさ。成太郎、その……戦時中は兵隊、だったんだよね?」
「正確には、軍の備品みたいなものだ。階級もないし、給料も年金もない」
「そ、そっか……ごめん」
灯はなにか言いたげだが、生来の優しく面倒見がいい性格で言い出せないらしい。少し同情されてるのだと知ったが、成太郎は嫌な気はしなかった。平成という今の世の中では、こうして他者を気遣える子供達が育つのだ。そこには、竹槍の訓練もないし、
そんなことを考えていると、すおみが一歩踏み出す。
「あの、成太郎さん……
当然、必要となれば成太郎もそのつもりだった。
だが、その時は慎重に決断しなければならない。慎重に慎重を重ねて、用心深く前後のことも考えなければならないのだ。それが、部隊を指揮する者の責任である。
成太郎が言葉を選ぶ中、口を開いたのは霧沙だった。
そして、いつか訪れる筈だった瞬間が、今だと知る。
「ごめん、すおみ……勘弁してやんなよ。魔力のある人間として造られたらさ、結構大変なんだ。魔力を使う度に、命を削ってるようなもんだから。結構しんどいんだぞ? 成太郎も……
意外そうな顔を皆が見せる。
成太郎も否定する言葉がなく、黙って顔を手で
そう、成太郎のような人造人間は、魔力の消耗は命の危機を
先天的に魔力を持って生まれた、灯やエル、すおみとは違う。
神が与えたとさえ思える奇跡を、人の手で再現するのは難しいのだ。しかし、悪魔と手を結んででも人はそれを欲した……かつては戦争のため、そして今は戦争を回避するため。
誰もが無言になる中、辛うじて成太郎は皆に休息を取るよう言うしかできなかった。
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