第11話「戦端は開かれた」
周囲を満たすは白い闇。
だが、突然の
「この霧……自然現象の天候ではないな」
視界が奪われてゆく中、アウトバーンを一路ベルリンへ……原初の森を
だが、立ち込める霧の中でやむを得ず成太郎はトレーラーを停車させる。
日本から空輸してきた
停車させれば、荷台でケイジに固定された
『あれ? 止まりましたね? これは……出撃ですね、出番ですねっ!』
『ちょっとエル、あんまし張り切らないで。えっと、みんないい?』
『ボクはオッケー、かな?
『
我らが
士気だけは高いと思えば、成太郎も心なしか気が楽だ。
インカムを装着して、成太郎は四人の少女達に語りかける。少し気が重い……これから成太郎は、十代の普通の女子高生を戦場へと送り出すのだから。
「各員、搭乗完了しているな? 拘束具解除と同時に、索敵および強行偵察を開始する」
元気な返事の四重奏が響く。
この霧は明らかに、魔力によって生み出された天然のジャミングだ。だとすれば必定、更に霧が濃密な場所、霧の発生源に敵がいる可能性が高い。
状況は不利だが、成太郎達に迷っている時間はない。
既にこの地点は、ベルリンまで100kmを切っている。
「ブルーム1、
『は、はいっ! ……その、タックネーム? だっけ? 絶対に必要? なんか調子が』
「俺もあまり
『了解』
「視界が悪い中での戦闘になる。他の三騎に目を配ってくれ。俺の方でもモニターしているから、情報は逐次共有する」
続いてブルーム2の
だが、灘姫が
「エル、先頭に立て。お前の機体が一番防御力が高い」
『了解ですっ!』
「すおみは索敵に集中、四号騎は狙撃戦特化調整のため、一番レーダーのレンジが広い」
『
「霧沙は先行、突出を許可する。ただし、本隊から離れ過ぎないことだ。脚を使って
『おいーっす』
なんとも緊張感がない話だが、ガクン! とトレーラーが揺れる。
荷台に横並びの、まるでベッドのようなケイジが順々にデッキアップされた。固定具のボルトが外され、四騎の
各々に武器を手に取り、高架の下へとジャンプ。
その背を窓越しに見送りながら、成太郎も緊張に身を固くした。
慣れない手付きで、助手席側の指揮スペースへと移動する。
「よし、作戦開始……速やかに目標を発見、足止め。
元気よく返事が返ってきた。
深い霧の中へと、
重々しい足取りの、その金属的な足音さえ吸い込まれてゆくようだ。
霧はその向こう側へと、成太郎の仲間を取り込んで塗り潰してゆく。
『なっ、なに? 攻撃? どこさ!』
『霧沙、落ち着いて。大丈夫、当たらない……と、思う。それより、すおみ!』
『砲撃音を探知、この先ですわ。数は30から40……その中に、とびきり大きな反応がありますの』
『それ、ラーテさんですね! よーしっ、やっちゃいましょう!』
たちまち周囲に火柱が上がる。
だが、その照準はあまり正確ではないらしい。
着弾は成太郎の乗るトレーラーを
どうやらD計画第二号、ラーテとその
二度三度と砲撃が続いたが、停車したトレーラーを大きく外している。
そして、その砲弾が飛んでくる先へと、若き魔女達は進軍を開始した。
「ここから5km先に、また小さな町がある。現在、住民は避難中だが……ここをやらせる訳にはいかない。この森を奴の墓場にしてやれ」
『簡単に言ってくれるよ、もう……よしっ、全員私についてきて! エルを先頭に突っ込むよ! すおみは援護射撃よろしく!』
灯の声はまだまだ緊張に硬いが、最初の模擬戦から数えて三度目の出撃である。少しは慣れてくれたのか、以前ほどギクシャクとした雰囲気は感じられない。
生来、
突然、ロボット部隊の小隊長をやれと言われて、やろうと頑張れてしまう。
親の都合もあるのだろうが、灯が引き受けてくれたことは成太郎にはありがたかった。
モニターで確認すると、
搭載された成太郎のハバキリを介した、魔力探知型のレーダーだけが単調な電子音を響かせていた。相手は見えないが、迷わず仲間達は進んでゆく。
『そいえばさ、ボク達……初めての模擬戦も戦車が相手じゃなかった?』
『あの時は大変だったよね。私も慣れてなかったし……エルは勝手に突っ込んじゃうし』
『エヘヘ、そんなあ。わたし、照れます!』
『……
呑気な会話が、徐々にノイズで
霧の発生源に近付いて、通信も影響を受け始めたのだ。
だが、不鮮明な声が朗報を告げてくる。
『いたっ! あれじゃない? ほら』
『大きいなあ……ちょっとした山みたい』
『霧のせいで、シルエットしか……距離感が掴めませんわね』
『よーしっ! 攻撃開始でーすっ!』
戦端は開かれた。
あっという間にこちら側の発砲音が無数に響き渡る。
成太郎としては、ハリネズミのように武装満載で送り出してやりたいのが親心だ。だが、
「安定度だけなら灯だが、瞬間的な爆発力はエル……あのトラブルが発生しない限り、霧沙の力も信頼できる。すおみは一番
自分でも口にしてみて、思わず成太郎は口元を手で覆う。
己を安心させるための独り言だったが、現状でベストな布陣だとは思う。思うが、時間も人材も限られた中でのベストは、実現しうる最高の状態とは言い難い。
もっと組織のバックアップがあれば……
だが、いつだって戦争は現場の兵士に対処療法を求めてくる。
十全とした準備を整えての戦いなど、ありえないのだ。
『霧沙、取り巻きの小さい戦車を片付けて! すおみも! エル、私が背中をカバーするから、ラーテに突撃!』
『了解っ、
『消えた……!? えっ、ちょっと待って、小さいのはまだいるけどさ』
『まずは小型の戦車を片付けましょう。……わたくしの方でも、反応をロストしましたの』
突然の声に、成太郎も慌ててレーダーを確認する。
感度を上げてみても、以前同様に敵の姿は映らない。そこには、進軍速度の鈍った四騎の
だが、D計画第二号こと陸上戦艦ラーテは……消えてしまったらしい。
無駄とわかっていても、成太郎は双眼鏡をひっ
「馬鹿な……あれだけの巨体が消えただと!?」
D計画によって生まれ変わった兵器達は、既に物理法則や常識に囚われない。魔力を
双眼鏡で霧の向こうへ目を細めた、その時だった。
突然、成太郎の背後で重砲が
「なにっ! う、後ろだと!?」
その時、トレーラーの向こうに成太郎は見た。
アウトバーンの高架に匹敵する高さに、巨大な黒い影が浮かび上がっていた。
その砲塔が旋回して、ゆっくりと
並んだ連装砲が突きつけられた先を、成太郎は振り返る。
向こうではまだ、仲間達が……四人の少女が戦っていた。
「クソッ、なにかの悪い冗談だ! どうやってここまで……そんなにスピードがでる
だが、事実は直視しなければならない。
そして、現実から目を逸らして楽観論を重ねた結果、旧日本帝国軍は敗北した。全ては、正しい情報を得ること、それを認めることをしなかったのが原因である。
今、目の前に陸上戦艦ラーテがいる。
その巨大な主砲から、轟音と共に砲弾が発射された。
爆風と黒煙に襲われ、成太郎は吹き飛ばされそうになる。
急いでハバキリへと駆け上がろうとした、その時にはもう……その巨体は、まるで雲か
D計画を相手に、常識的な先入観は禁物なのだと成太郎は思い知ったのだった。
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