第3話「新しい朝」
もともとが東北のド
息せき切って通学路を走れば、ドレスかと
「転校初日が肝心ですっ! ここから始まるわたしの物語……ううーっ、興奮ですねっ!」
そぞろに歩く、同じガチ女の女子達をぐんぐん追い抜く。
すぐに通りの向こうに、高い高い
白く塗られてピカピカの壁は、その上に広がる空から
スニーカーをズシャシャと歌わせ、エルは壁沿いに校門へと走る。
だが、彼女は見知った背中を見つけて急ブレーキで立ち止まった。
「とととっ、とぉ! おはようございますっ! えと、
エルの声に、三人の少女が振り返る。
胸元のリボンが赤いのが、三年生の
つい先日会ったばかりで、数奇な運命で結ばれたエルの仲間達。
正義の味方をやれと言われた、
「おはよ、エル。なんか、全員集合って感じだね」
年長者の灯が、
それで霧沙も、イヤホンを外して音楽を止める。
眼鏡の奥で
「おはようございましたっ! 皆さん一緒ですか? これから学校ですか?」
「そうに決まってるでしょ。ボク達みんな、この変な学校に放り込まれちゃったんだから」
なんだか面白くなさそうな顔で、霧沙が僅かに
すかさずエルは、グイと身を乗り出して彼女に顔を突き出した。
「変ですか? 創始者二人の名を取ってガブリエルとチャーチル、通称ガチ女です!」
「か、顔が近いって。なあ、おい……エル」
「今日からみんな、ガチ女の仲間ですね! それ以前にわたし達、ブルームの仲間ですよね! 地球の平和を守って戦うんです」
「その話、誰にも言うなって言われなかった?
思わずのけぞる霧沙にずずいとエルは迫る。
だが、ポンポンと肩を灯に叩かれ、エルはようやくたじたじな霧沙を解放した。
周囲では、品の良い笑みがクスクスと連鎖している。見れば、登校中の学友達は、上級生も下級生も笑っていた。なんとも上品な、まさに花園を飾る花達だ。
「で、皆さんはここでなにを? あっ、わたしを待っててくれたんですね!」
「なんでそーなるよ。ほら、上」
「上?」
「そ、あそこ。木の上」
霧沙が壁の上を指差す。
おとぎ話のお城のような壁の上に、校内から伸びる大樹の枝葉が広がっている。
エルが目を凝らすと、高い高い木の上に
どうやら、登ったはいいが降りれなくなっているらしい。
エルは以前、外国の施設にいる時に
「おおー、子猫ちゃんですね」
「そゆこと。灯が見付けたの。で、どうにかできないかなって」
「親猫は近くにいないのでしょうか。少し心配ですわ」
霧沙の
話は読めたとばかりに、エルはパム! と両手を叩いた。
長身の灯も、やれやれと困り顔で腕組み見上げる。
「私達、現代の魔女とか言われても……結局は、子猫一匹助けられない普通の女子高生なんだよね」
灯の言うことはもっともだ。
四人は今まで、ごく普通の少女として暮らしてきた。エルも今は、咲駆家に引き取られて両親がいる。とても明るくて、アニメや漫画が大好きな父親。そして、おっとりと
実の娘のように可愛がられているが、特別な力など感じたことはない。
だが、先日は密閉空間に浮かぶ
事前の説明では、エル達四人には先天的な魔力を見に宿していると言われた。
「よしっ、皆さん! あの猫、助けましょう!」
鼻息も荒く、フンスフンスとエルは子猫を見上げる。
そんな彼女の横で、霧沙は朝からテンションが低かった。
「どうやって」
「わたし達、正義の味方ですから! それをやるんです」
「なに、魔法でビューンて飛ぶとか? ないない、そゆの無理」
「確かに、わたし達の魔力は魔法使いみたいなものじゃないかもしれません。でも――」
彼女達の指揮官、
魔力を身に宿した人間、それは
だが、成太郎は眠そうな目ではっきりと言った。
旧大戦の亡霊、D計画と呼ばれる
その時の熱い想いは、今も胸の内に燃えている。
「でもっ! そこはガッツとファイトです!」
「はぁ? ガッツ?」
「ファイト、ですか」
霧沙もすおみも、目を丸くする。
だが、すぐにエルは行動を開始した。
生来、困っている人を見過ごせない
そして、相手が猫でもそれは同じだった。
「さあ、わたしの頼れる仲間達っ! わたしを踏み台にしたぁ!? してくだ、さいっ!」
有名なロボットアニメの
作戦はこうである。
エルの背に誰かが上がれば、木の上に手が届くかもしれない。
そういう時は、言い出しっぺが踏み台になる、これである。
だが、霧沙が溜息に肩を
「ばっかじゃないの。見てらんないよ」
やれやれと彼女は、エルに背を向け行ってしまう。
見捨てられたのかと思った、その時だった。離れた場所で霧沙は、ドサリと
しなやかな少女の身体が、壁を蹴って空へと手を伸ばした。
だが、届かずそのまま霧沙はエルの前に着地した。
「ん、届かない。ちょっとこれ、難しいかな」
「霧沙さん、鞄を」
「ああ、ありがと。えっと……すおみさん?」
「はい。どうぞすおみと呼び捨ててくださいな」
すおみから鞄を受け取り、
エルも四つん這いのまま、小さく鳴く子猫に首を
それまで考え込んでた灯が、フムと
「エルの踏み台ってアイディアは、これはいいんじゃないかな。でも、やるなら
「おおー!
「よしてよ、エル。でも、ちょっと足りないかな……ああ、これを使おう」
灯は手にした竹刀を、一番小柄で
「私が一番背が高いから、私が下……あ、でもすおみもみんなもスカートか。ちょっと、まずいかな」
「わたくしなら平気ですわ。見せて恥じるようななにものも、わたくしにはありませんの」
「いやいや、女の子なんだから。……ん?」
灯がリーダーシップを発揮していた、その時だった。
白い髪に眠そうな目は、成太郎だ。
「どーも、おはようございます。って、なんで君達? どうしたの」
「あっ、指揮官さん! おはようございますっ!」
「ああ。……エル、ぱんつ丸見えだぞ。なにやってるんだ」
「はっ!? 見ないでくださいぃ! うう……お
「まったく、この時代の若い
成太郎は手にした
ようやく立ち上がったエルは、
「あの、指揮官さん。どうしてガチ女に? はっ、まさか! 指揮官さんも転校生ですか!?」
「ここ、女子校でしょ。俺は、なんか、
成太郎が脚立を登り始めたので、すぐにエルは下に回って脚立自体を
「いいから、行ってくれ。遅刻されても、その、なんだ……困る」
「はいっ! でも、指揮官さんは流石ですね! 正義の味方の司令官ですもんね!」
「登校してくる生徒達から、複数の声があっただけだ。それと、司令官はまあ、B分室は……ブルームは、
「でもでも、助かりましたっ! じゃあ、わたし達は行きますね! ね、灯ちゃん。霧沙ちゃんもすおみちゃんも! 転校初日ですっ、ガッツとファイトで頑張りましょうっ!」
こうしてガチ女での、波乱万丈な女子高生生活が始まった。
走り出すエルの背後に、あれこれ言いながら仲間達も続く。
すぐに背の高い校門が見えて、
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