第2話「人を象る鋼鉄の箒」
自衛隊との模擬戦は、
その理由は、大きく上げて二つあると
一つは、
「無理もない……なにせ彼女達は、今日初めて実機に乗ったのだからな」
そう、
正しい資質、ライトスタッフと言える人材かもしれない。
成太郎にはそれはわからないが、他に代わりはいない。
魔力をその身に宿した人間など、自然界では両手の指で足りる数ほどしかいないとされている。成太郎のように、魔力を入れる
「もう一つは、単純に対戦する相手との相性が悪過ぎた」
ここは自衛隊基地の、間借りしている
先程模擬戦を終えたばかりで、汚れたままの砲騎兵が四機並んでいる。カーキ色に塗られた、いかにも軍用兵器といった
全高7mの人型機動兵器……それが、現代の魔女が
単純に同数の戦車と
「まあ、練度の高い戦車部隊との戦闘なら、あんなものだろう」
人間相手になら、いくら負けてもいい。それで貴重な経験が得られるならば、百回でも千回でも負ければいい。
だが、
人ならざるモノと戦い、人の世界を守るためにこそ
そして、成太郎自身もそうあれと願われ生み出された兵器……人の姿をした兵器である。
汚れた
「
緊張感のない声に、成太郎は振り返る。
防衛省特務B分室……通称、
そして、その責任者にして成太郎の事実上の保護者が、今しがた
成太郎はすぐに彼女の元へと駆け足で集まった。
丁度、シャワーを浴び終えたパイロット達も集まり出す。
――三人だけだ。一人、足りない。
それでも、灘姫は改めて一同を見渡し喋り出した。
「はーい、模擬戦お疲れ様ー? にゃはは、初日から結構ハードだった? ごめーん、時間なくてさー。あの機体も突貫工事で、昨夜組み上がったばかりだったの」
それは、説明不足なまま乗せられた四人の少女達にとっても不可解なことだったろう。
小隊長を務めた少女が「あの」と手をあげる。
最年長で17歳、ポニーテイルが
名は、
「すみません、私達が集められた理由をそろそろ教えて頂けないでしょうか」
「いい質問ね、灯ちゃん! ……そうね、どこから話したもんかなー?」
どうにも灘姫は、緊張感に欠ける。
だが、封印凍結中の成太郎に
この一ヶ月、彼女の家に世話になっているので、成太郎は家事が上手くなった。
その灘姫は、ポンと手を叩いてキメ顔で言い放った。
「みんな、落ち着いて聞いて……世界は今、狙われてるわっ!」
格納庫を静寂が支配した。
少女達はぽかんとしてしまった。
そして、次に声をあげたのはショートカットのボーイッシュな娘である。確か、事前のテストでは一番パイロット適正が高かった少女だ。
「あ、あのっ!」
「はい、
「茶化さないでくださいっ! ……ボク達に、なにをやれっていうんですか?」
「簡単よ。正義の味方になって、世界の敵と戦ってほしいの。もち、命がけで」
軽い声音とは裏腹に、灘姫の目は真剣だ。
それがわかるからだろうか? 霧沙は黙ってしまった。彼女は実は、他の三人と違って特殊な人間……どちらかというと、成太郎に近い生い立ちだ。
今日の一件でそれに気付いただろうか?
事実を知らされてる成太郎には、それはわからない。
ただ、成太郎から真実を語ろうという気にはならなかった。
そして、あまりにも唐突な運命、そして重い宿命に沈黙が続くと……また別の少女が話し出す。
「わたくしから少し説明を……いいでしょうか、卜部一尉」
「もーっ、他人行儀だぞ? あたしのことは灘姫って……ううん、灘姫ちゃんって呼んでねぇん? みんなの頼れる美人なおねーさんなんだからっ」
若干、
しかし、
紅重工は戦前からずっと、百年以上続く大財閥だ。
戦中は積極的に兵器を開発し、成太郎を造り出す研究にも関わっている。
「皆さんにも説明しますわ。まず、わたくし達は特殊な能力を持ってますの。そちらの……あ、ご紹介がまだでしたわね。こちら、わたくし達の指揮を執る平成太郎さんですわ」
「……平成太郎だ。よろしく」
他に言葉が思いつかなくて、なにか言おうと思う代わりに欠伸が出た。
灘姫はニコニコ笑っているが、冷たい視線がグサグサと刺さる。
だが、構わずすおみは説明を続けた。
「成太郎さんとわたくし達だけが、あのロボット……
「あっ、それでなの? その、運転席の」
「ええ。操縦席は完全な球形、その中の座席は
「
「そうだよ、ボクのお尻が二つに割れちゃうとこだったんだから。でも、確かに説明書通りだった。跨って握って、そして念じるだけで思うように動いた」
灯と霧沙が顔を見合わせる。
大きく
「わたくし達が戦う敵……
――世界のどこかで、軍事衝突が起こる。
それは、危ういバランスで
その話をしていた時、遅れて最後の一人がやってきた。
まだ湯気でほかほかの赤い髪には、ピョコンと大きな
いわゆるアホ毛というやつだ。
アホ毛の少女は、息せき切って走ってくる。
「はい! はいはーい! 遅れました、ごめんなさいっ! それで、それでですっ! あのあの、今って質問タイムですよね? そういう感じのやつですよねっ!」
先程の模擬戦でやらかした少女だ。
確か、彼女の名は
魔力にムラがあって、弱くなったり強くなったりするのだ。
現に、
そんなエルは、ピョンピョン飛び跳ねながら手を伸ばす。
「あのっ、どうしてこの子達……
やたらと通りのいい声が響く。
だが、
そう、D計画と総称される旧大戦の亡霊達の、その目的はシンプルだ。
「エルさん、それは……D計画は必ず、人間を狙うからですわ。それも、なるべく大きな肉体の人間を狙うことが研究資料で明らかにされました」
「むむ? 格好いいからとかじゃないんですか?」
「ええ。もともと、戦時中に兵役義務に耐えられそうな人間、
そう、D計画は大戦中の各国が作った悪夢の兵器群……そのどれもが、軍事拠点を攻撃し、生産施設を破壊する本能を持っている。そして、なによりパイロットや歩兵になる、人間を狙うのだ。
それも、屈強な兵士になるであろう人間を優先して。
エルは納得がいかないのか、むーん! と
だが、思い出したように彼女は再び表情を明るくさせる。
「あ、じゃあ、も一つ! あの白い子は……あの子は誰が乗るんですかッ!」
ズビシィ! と振り返ってエルが格納庫の
そこには、まだトレーラーに寝かされシートを被せられた機体があった。"ムラクモ"と同じ
灘姫がちらりと見てくるので、成太郎は渋々答える。
「……俺の機体だ」
「おおっ! じゃ、じゃあ、隊長さんも一緒に戦うんですねっ!」
「場合によっては、な」
「格好いい……白い機体、エースですね! エースパイロットなんですねっ!」
「俺がか? 初陣もまだだ。……ずっと、寝てたからな」
「なら、これから一緒に頑張りましょう! 皆さんも! ガッツとファイトがあれば、世界は、地球は、ううん……宇宙だって守れますよ!」
この時、成太郎と灘姫以外の誰もがわかっていなかった。成太郎だって、正確には理解していなかったかもしれない。
次に襲ってくる敵は、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます