第3章 三日目・打ち明け

「君達に集まってもらったのは他でもない。これからステーションの秘密を明かそう」


 ここは研究室。樋口を拉致ろうと合宿所で待機していたところ、不破博士から選抜メンバー達に話があると、彼女に研究所へ案内されたのである。


「単刀直入に言うと、人類は滅亡の危機に晒されている。何が原因か分かるかね?」


地球温暖化、大地震、テロ、第三次世界大戦、ファースト・インパクトなど、選抜メンバー達は口々に好き勝手なことを言う。


「君達の学力が低いのは置いといてだ、少なくとも地球の天変地異や地殻変動ではない。かと言って人間達の利権が絡まる愚かな争いでもない」


 不破博士は彼らの予想を一蹴してから、充分に間を取る。そして、もったいつけてから告げた内容は、彼ら以上に想像力が豊かなものだった。


「答えはスペース・インベーダーだ」

「おい、頭の悪そうなこと言ってんじゃねーぞ。宇宙戦争でも始まるってか?」


 あまりにもバカげた人類滅亡の理由に、ふざけているのかと更田はキレかかっていた。だが、不破博士は一つも表情を変えず、淡々と説明を続ける。


「儂は至って真面目だ。ついでに言っておくと、スピルバーグの『宇宙戦争』に出てくる宇宙人は地球の細菌に耐え切れず自滅したが、そもそも儂らの世界で言う宇宙人には実体が無い。つまり思念体だ」


 話が飛躍しすぎていて、誰も思考が追い付かない。唯一、下呂だけが半笑いで呟いた。


「情報統合思念体みたいな?」

「君は物分りが良いな。スーパーひとし君をあげよう」

「そういうシステムなん⁉」


 突然のクイズ形式に対応できなかった川北は己を恥じ、悔しさで歯噛みする。


「話を元に戻すとだ、この思念体が地球侵略を目論んでいる」

「なんで? どうやって?」


 博士を信じる信じないは別として、話だけは面白半分で聞いてみようと、半谷が素朴な疑問を雑に投げかけた。


「理由は様々だが、どれも大義名分に過ぎん。彼ら思念体は人間の意識を蝕み、我々の身体を乗っ取ろうとしている」

「いくら実体を持たない宇宙人とはいえ、そんなことが可能なのだろうか? 人の意識とは相容れない思念に肉体が耐え切れず、拒否反応を起こすだけでは? ガラスコップに熱湯を注ぐようなものだぞ?」

「だから肉体のカスタム化を試みている。その先駆けがダイナレッグだ」


 原の鋭い指摘に対し、不破博士は簡潔に答える。だが、その態度に更田が黙っていられるわけがない。


「つーことは、このステーション自体が巨大な実験場ってわけかよ⁉ 騙したのか⁉」

「騙してはいない。優勝すれば将来の安泰を保証するのは本当だ。それに大会の段階で思念体は宿らない。あくまでも思念体に耐え得る肉体のサンプリングが目的だ。それを基準にダイナレッグなどの肉体カスタムパーツを改良していく」

「疚しいことが無いのなら、思念体のことを公表すればいいじゃないですか。どうして隠す必要があるんです?」


 下呂の意見は尤もだ。それでも不破博士は落ち着きを払っている。


「その理由を説明する前に、君達は人間の意識がどのようなものか知っているかね?」


 誰も答えられない。そんなことは一度も考えたことが無かった。


「例えば、男が道に硬貨を落としたとする。その男は一円を拾う労働力は一円の価値に値しないと考えているが、つい一円硬貨を拾ってしまう。この一連の行動は『私』という意識が決定していると思いがちだが、その前に実は自身の脳が先に決定を下している。脊髄反射というやつだ。逆に言えば、この『私』という意識は脳に働きかけることができない。では、この『私』という意識は何のためにあると思う?」


 また誰も答えられない。しかし、思考は巡る。


「意識の有無によって人間と動物は分けられる。意識があることで人間は本能を理性で制御する。なぜなら、脳が意識を鏡としてコントロールしているからだ。また、その意識は記憶によって形成されていく」

「つまり、意識が思念体と入れ替わっても脳は気づかんから、防ぎようがないわけやな」

「スーパーひとし君を使いますか?」

「持っとらんわ!」


 コントを披露する川北を無視し、ただ純粋な疑問を再び半谷は口にした。


「どうして人間にだけ意識が発生するナリか?」

「それは原子が特定の条件によって結合するからだ。この条件については現在でも不明だが、そもそも世界は無数の原子で形成されており、元から一つ一つの原子には意識を創り出す能力が備わっていると考えられている」

「待て。それだけ複雑な原子の結合を、ダイナレッグだけで補えるとは思えない」

「その通り。今の段階で思念体が人間の意識を乗っ取れば、原子は崩壊し肉体は液状になる」

「怖ッ! それヤバいだろ!」


 原だけが冷静に情報を整理していく一方で、更田は驚愕の事実に目を見開く。


「だから我々は研究を重ねている。ステーション大会でサンプリングを集めることで、原子の結合条件を解き明かすのだ。それまで思念体の存在を公にすることはできない。下手に公表してパニックが広がるのは避けるべきだ」

「いや、思念体も高位次元の存在なら、意識と入れ替わったところで肉体が崩壊するのは知ってるでしょ? だったら下手にダイナレッグとか開発しないで、このまま普通に生活していれば侵略のしようもないよ」


 消極的な下呂の意見は、ある意味では正しい。それを理解した上で、不破博士は余裕たっぷりに鼻で笑った。


「甘いな。それならば人類を滅亡させ、次の知的生命体が誕生するのを待つだけだ。肉体が無い思念体にとって時間は有限じゃないわけだが、最近になって肉体が思念体に耐え得るケースが発見された。その存在が彼女、神崎束だ」


 研究室にいる全員の目が、無表情のまま微動だにしない少女へと向けられる。立て続けに新しい情報が入り込み、更田は気が滅入った。


「敵の思念体と通じてていいのかよ?」

「安心しろ。彼女は悪い思念体ではない。ブルーハーツの歌にもあるだろう? いい奴ばかりじゃないけど、悪い奴ばかりでもない、とな」

「……確かに」

「納得しとる⁉」


 ブルーハーツに救われた男達にとって、ブルーハーツは生きる指針だ。たった一言でコミュニティを言い表すのは簡単だが、その中でも一人ひとりの考え方が異なるのは当然である。


「彼女は儂の孫だ。病で伏せっていたところ、思念体が乗り移り危機を知らせてくれた。おかげで思念体が手当たり次第に乗り移る最悪の事態にだけはならなかった。とはいえ、奴らも今は様子見をしているだけで、ダイナレッグが完成するまでの時間稼ぎにしか過ぎんがな」

「私の目的は侵略派の思念体から地球人を守ること」


 唐突に神崎が喋った。選抜メンバー達は面食らいながらも、果敢に原が異文化コミュニケーションを試みる。


「何のメリットが?」

「メリットもデメリットもない。ただ世の理から外れる不自然な存在は正さなければいけない。生物は常に過度期であり、思念体が世に蔓延れば生命としての可能性は潰える。我々の不始末は我々で片付ける」


 まるで正義のように真っ当な理由に聞こえるが、そこに利害関係が見い出せなかった。更田の心に不信感が募る。


「そんで、どうやって悪い思念体と戦えばいいんだよ? おれ達が選ばれた理由と関係あるのか?」

「実は、大会参加者の中に思念体が紛れ込んでいる可能性がある」

「何のために? 肉体は崩壊しないのかよ?」


 神崎の代わりに不破博士が答えた。


「知らん。目的は謎だ。ただ、神崎束が敵の存在を感じ取っている。そして急遽、君達を選抜メンバーとして呼び出した」

「なんで⁉ 倒すのは無理ですよ!」


 相手の実力が判明しない内から、下呂は弱気である。そんな彼の心情を知ってか知らずか、神崎は淡々と作戦を説明する。


「あなた達は敵を誘い出すだけでいい。思念体が現れたら私が倒す」

「もしも思念体が本当に入っていたならば、予選通過は当然のことだ。そして君達は思念体がいたかもしれない予選で、しかもダイナレッグを履かずに好成績を収めた。つまり、万が一にも思念体が入っておらず、なおかつ実力があった君達を儂は選んだわけだ」

「ウチは予選に出とらんで」

「川北君は自分から大会に参加したいと表明しただろ。本当は五人目に束を入れる予定だったが、君は非常に強そうだから特別に変更したよ」

「結局のところ、おれ達は思念体を気にせず普通に走ればいいわけだろ?」


 まどろっこしい話が苦手な更田は、とにかく結論を明確にしようとする。なるべく余計な事は考えず、走ることだけに集中していたかった。


「いや、さっきも言ったようにダイナレッグは試作品であり、それが完成したと思念体に判断されては侵略が始まってしまう。君達にはダイナレッグの有効性を下げ、少しでも完成するまでの時間を稼いでもらうために、できれば優勝を目指してもらいたい」

「……ってことは、ダイナレッグは履いたらアカンのか?」

「正直、世論は関係無い。要は勝てば……ム!」


 神崎の口を不破博士が手で塞ぐ。


「余計なことは言わないように。あくまでも神崎束の発言は思念体側の意見だ。この大会自体がダイナレッグの試験場だから、それを履かずに好成績を納めれば開発は遅れる、とだけ認識してくれればいい。ちなみに、彼女のような存在を我々はマヌカンと呼ぶ」

「やるからには勝つけど、さっきの話を聞いた後だとなぁ……」


 ダイナレッグを履かずに済むのは好都合であり、例え相手が未知の生物だろうと関係ない気構えが更田にはあった。だが、チーム内の迷いを断ち切るために話を聞いたというのに、さらなる悩みの種が増えて気後れしてしまう。


「優勝が難しいとしても、肉薄すれば思念体が正体を現すはずだ。後は神崎に任せれば良い。健闘を祈る」


  * *


「……どうじゃった?」

「完璧です博士! 見事に厳格な風格を漂わせてました!」

「ほっほっほ。褒めすぎじゃて。肩が凝るわい」

「本当に博士ですか⁉ 思念体じゃありません⁉」

「ちょ、怖いこと言わないでくれる⁉」

「大丈夫です。不破博士と樋口助手が意識体なのは私が保証します」

「たった一日で、随分と饒舌になりましたねぇ」

「私の中で、元の人格である神崎束の意識が回復していくのを感じます」

「束が目を覚ますのか?」

「私が憑依した時点で彼女の意識は希薄でしたが、念のためにバックアップをとっておいて正解でした。そのデータが厚みを増していくのです」

「これは嬉しい誤算ですね」

「だが、敵に悟られてはならん。後は彼らが優勝してくれるのを願うばかりじゃ」

「突拍子の無い話でしたけど、ちゃんと彼らに熱意は伝わりましたかね?」

「そのための芝居じゃろ。まぁ、嘘は言っとらん」

「ダイナレッグを履くな、という指示は嘘でしょう」

「やるなと言われたら、やりたくなってしまう人間の習性を利用したまでじゃ」

「やる気を出してくれたら良いですが……」


  * *


「嘘に決まってんだろ」


 研究所から出て合宿所へ帰る途中、更田が元も子もないことを言い放った。


「そう断定するのは早計じゃないか?」


 あくまでも物事を冷静に捉えようとする原に対し、更田は一蹴する。


「現実感が無い」

「でも全てが嘘とも思えないんだよね」


 大の大人が高校生を騙すにしては不自然すぎる。そう思って下呂は発言したわけだが、何が真実なのか許容量がパンクしていた更田は混乱していた。


「教団Xの話を丸パクリしただけだろ。こういうところがマイナスポイントなんだよな」

「コイツは何の話をしとるんや?」

「ちょ、メタ的な自虐ネタは余計に出版社の顰蹙を買うだけだって」


 下呂の忠告も聞かず、どんどん更田はダークサイドへと堕ちて行く。


「中盤に無駄なテコ入れしやがって。こういう下手な誤魔化しが一番ムカつく」

「同感だってばよ」

「いちいち侍から忍者にジョブチェンジするテメーの身も縦に引き裂いてやろうか?」

「もしかしてエッチな話?」

「どんな思考回路だ⁉」


 この選抜メンバー五人の中で、特に半谷がいると真面目な話が全くできない。気づけば更田が抱いた負の感情は雲散霧消とし、いつもの平常運転へと戻りつつあった。

しかし、またも彼らの間に波風が立とうとしている。


「あ、更田君だ。久しぶり」

「高千穂?」


 親しげに話しかけてきたのは、更田の母校であるAチームのマネージャーだ。未だにゴールテープ前の失恋を引き摺っていた更田は、つい彼女の前では硬派な自分を見せようとして不器用になってしまう。


「こんな所で会うなんて奇遇だね。一緒にいるのはBチームの人達?」

「選抜チームや。いてまうぞワレ」


 咄嗟に返答できない更田に代わり、ズイッと川北が前に出る。


「ご、ごめんなさい! 私ったらつい……。あ、自己紹介が遅れました。私は高千穂って言います」

「聞いてもないことペラペラ喋んなや。アンタには皮肉さえ言いたかない。さっさと去ね」

「ガラが悪いよ⁉」


 下呂が川北を窘めるが、彼女は少しも態度を改めようとはしない。


「知るかボケ。虫の居所が悪いんじゃ」

「お邪魔しちゃったみたいだね。それじゃ私は戻るから。またね」


 威圧されたというのに、高千穂は小さく手を振って去って行った。その後ろ姿を見送りながら、原が彼女との関係性を更田に問う。


「マコの知り合いか?」

「母校のマネージャーだ。まさか向こうから話しかけてくるとは思わなかったけどな……」

「浮気ナリか?」

「テメーには驚かされてばかりだ!」


 もはや悲鳴に近いツッコミを半谷に入れる。いい加減に辟易して頭が痛くなってくると、ふてぶてしくも川北が女性として進言してきた。


「あんな涎塗れの女がええんかい。近くにいるだけで唾つけられるで」

「川北さんは美少女に何の恨みがあるの?」

「詮索すな。良い女に秘密は付き物や」


 川北は唇に人差し指を当て、片目でウインクする。その乙女な仕草に騙されず、きっとロクでもない理由なんだろうな、と下呂は思ったが口には出さなかった。


 その思惑を悟られないよう、遠くを見据えながら無言で歩く。研究所から合宿所へ向かう途中には大きなホテルがあり、そこに泊まっている選手達が広場に大勢いた。


「わっ、クソ漏らしだ!」


 その中の集団が、すれ違いざまに言った陰口が耳に入る。おそらく原のことを指しているだろうと思われ、仲間をバカにされた川北は憤慨した。


「ババ漏らして何が悪いねん!」

「よせ、相手にするな川北。もう慣れっこさ」


 原が大人の対応を見せることで川北は落ち着く。陰口を残した集団は、選抜メンバーなど最初からいなかったように、そそくさと別の場所へ移動して行った。

 その一方で、またも別方向から視線を感じる。


「…………アレが噂の鬼太郎……」

「何か言われとるで」


 今回は仲間のために憤ったりはしないらしい。仕方なく、下呂は自分で自分の尊厳を守る。


「おい! 野次るなら面と向かって言ってみろ!」


 大声を出すも、誰も振り返らない。自分の声が黙殺されたことに空しさを感じ、その心情を察した原が彼の肩に手を置く。


「気にするな下呂。今後は己のことも下痢と呼んでもらって結構だ」

「何の解決にもなってねーよ! むしろ火に油を注いでるわ!」

「火の無い所に煙は立たないと言うしな」

「上手くねーよ! 今ここで決闘するか⁉」


 傍から聞けば物騒な会話を交わす雰囲気を全く恐れず、またもや親しげに話しかけてくる女性の声が聞こえた。


「や、会いたかったよ」


 水天宮帝である。彼女とは裏切り者だったり、有名人だったりと、微妙な距離感による接し方に迷った末、更田は何も気にせず普通に喋った。


「おれは会いたくなかったけどな」

「水臭いぞマコ」


 久しぶりに屈託の無い笑顔を見た。思わず見惚れてしまう更田とは対照的に、下呂はトラウマが甦る。


「うわぁ! 水天宮さんだぁ!」

「何を尻尾巻いて逃げとんねん!」

「そういう反応されるとオレもショックだよ」


 一目散に逃げ出そうとする下呂の首根っこを川北が捕まえる。その様子を苦笑しながら見ていた水天宮の背後から、ひょっこりと廟が現れた。


「こんにちは。帝は彼らと知り合いだったのかい?」

「なんでテメーが……? まさか同じチームなのか?」

「そのまさかだよ。随分と親しいようだけど、帝と何かあったのかな?」


 余裕綽々といった表情を見せる廟に対し、更田は驚きを隠せず言葉に詰まる。その一方で、水天宮に会えて嬉しい半谷が代わりに答えた。


「組んず解れつした仲ぶぁい。もちろんエッチな意味ナリ」

「磔にしたくらいじゃ懲りないようだから、今度はミイラにしようか?」

「その話、もっと具体的に聞かせてくれ」

「この人は本当にやるよ!」


 これ以上、水天宮に変な刺激を与えないよう、興味津々な原の言動を下呂が善意で止める。さっきの怯えようといい、下呂の態度を不審に思った川北が問い詰めた。


「どこで知り合ったんや……?」

「えーとね、熊に襲われてたところをね……」

「熊? せいぜい猪やろ。ふざけとんのかぁ⁉」

「大真面目です!」


 川北に胸倉を掴まれつつも、下呂は必死に正当性を訴える。そして空気を読まずに、水天宮が自己紹介をした。


「キサマ達のことは知っている。原君に、川北さん。オレは水天宮帝だ。よろしく」

「知っとるわ。ウチらと違ぅて有名人やろ? 敵さん同士よろしくしとる場合かい」

「それは杞憂だ。キサマ達……いや、この大会でオレ達に敵うチームは無い」

「どうして言い切れるんや?」

「この大会で出場する選手達の中で、戦闘力においてマコはトップレベルに位置するだろうランナーだ。しかし、この前の手合わせでキミ達はオレに手も足も出なかった。それが理由なら根拠としては十分だと思うが?」

「やっぱり、アンタのことは気に食わん」

「対抗意識を燃やしてくれて嬉しい。それでこそ張り合いがある」


 いかにも好戦的な水天宮らしいセリフだが、それに更田は違和感を覚える。実際に更田達は水天宮に手も足も出なかったとはいえ、だからと言って相手を軽んじるような人格ではなかったはずだ。


 ただ単に更田が彼女を信じたいだけなのかもしれない。それでも、もう一つの可能性を考慮して、更田は水天宮達にカマをかけてみる。


「おい、テメーらは思念体って存在を知ってるか?」

「何かの漫画? 知らん」

「僕も漫画は読まない主義なので」


 はぐらかされたと、少なくとも更田は感じた。そんな彼の疑惑を物ともせず、廟は別の話題を持ち出す。


「それはそうと、送ってくれたダイナレッグは気に入ってくれたかい?」

「ああ、高く売れそうだ」

「アホか! 同じ過ちを繰り返して、どないすんねん!」


 すかさず川北に後頭部を叩かれる。まるで母親に叱られたみたいで、反論できない更田の様子を微笑ましそうに廟が見ていた。


「川北さんの言う通りだ。膝まであるダイナレッグを履けば、少なくとも靴に手をかけられることも無いだろう」


 どうやら廟は、更田が予選で負けた要因を知っているらしい。確かに悔いの残るレースではあったが、恥が残るようなレースでもなかった。更田は堂々とする。


「おれが負けたのは靴のせいじゃねーし、そんな靴ごときに勝負の命運を預けたくもねー」

「拘りを持つことは重要だ。拘りを持たない人は退屈だからね。でも、君が拘りを捨てない限りは、仲間も拘りを捨てられないよ」


 言っていることは正論だ。だが、その正しさが選抜チームで通用するとは限らない。更田達はチームである前に個人であり、個人でありながらも協力し合わなければいけないのだ。


「言葉の裏が見え透いてんだよ。なぜダイナレッグを履かせたがる?」

「ただ純粋に製品の良さを知ってもらいたいからさ」

「もう聞き飽きた。次は言葉ではなく、走りで語ろうぜ」

「その意見に賛成だ。また会おう」


  * *


「あの二人さ、もしかして思念体じゃね?」


 廟達と別れるなり、更田は抱いていた疑念を放出した。突拍子の無い意見に呆れながらも、かすかに残った好奇心で原が相談に乗る。


「さっきまで否定派だったのに、どういった心変わりだ?」

「まぁ、廟が思念体なら罪悪感を抱くことなく殴れるんだけどなぁ、とは思ってる」

「……自分はマコが味方で良かったと心の底から思ったよ」


 慄いている下呂の言葉を耳に入れず、更田は話を続けた。


「原は知らないだろうが、おれ達が来る前から水天宮は島に到着してたんだ。その時と今を比べると、少し雰囲気が変わった気がするような……」

「久しぶりに登場したからと違うん?」

「そうそう。実はリアルタイムだと半年……って、何言わせんだ! 作者が後で読み返した時にだけ笑えるようなネタを使うな!」

「何のこと?」

「うわぁ! 水天宮さんだぁ!」

「テイク2かい⁉」


 またも神出鬼没な水天宮が現れ、トラウマが甦った下呂の首根っこを川北が捕まえる。その一連の流れを斬るように、更田は話を誤魔化した。


「さっき別れたはずだろ?」

「水臭いぞ更田。せっかく会ったんだから、もう少し世間話くらいしたいじゃないか」

「パンツ何色? てか履いてんの?」


 真面目な会話には参加しないくせに、こういう時だけ半谷は悪ふざけをする。一度セクハラされた彼女が二度目に容赦するはずがない。


「天誅!」

「そうはさせ……ぐぎゃぁ! シャレになんねぇ!」


 ご褒美を貰おうと原が身を挺して半谷を庇う。だが、水天宮の蹴りが強すぎて痛みを快感に変換できなかったらしく、原はエビ反りになり地面をのた打ち回っていた。

そんな彼を尻目に、更田は川北へ耳打ちをする。


「……ふと思ったんだが、思念体の特徴って何だ?」

「ウチに訊かれても分かるわけないやろ」

「思念体の特徴は宿った肉体の個性によって異なる」


 突如、神崎束が地面から生えるように現れた。


「普通に登場せぇ!」

「先程も説明したように、思念体と肉体はアンバランスであり、その状態での思念体は充分な能力を発揮することができない。しかし、それを補うのが媒介としてのダイナレッグだ。実際に戦うまでは分からない」


 川北のツッコミを無視し、神崎は抑揚の無い声で説明を続ける。すると、水天宮が神崎の存在に気づいた。


「その子は?」

「選抜チームの臨時エンジニア、神崎束」

「オレは水天宮帝。同じ高校生でダイナレッグの技術職に就けるなんて優秀だね」

「あなたの義足、非常に興味がある」


 珍しく意気投合した二人は女子高生らしくもない会話に花を咲かせる。その合間を縫うように、選抜メンバー達は緊急の作戦会議を始めた。


「……エンジニアなんて役職あんの?」

「予選で配布された靴は試作品やけど、本大会から正規品のダイナレッグにエンジニアが必要なんや。個人に合わせて調整するさかい、履くなら早めに申請しといた方がええで」


 そもそも履く気が無かった彼らにとって、ダイナレッグのことなど完全に頭から抜け落ちていた。だからこそ、ダイナレッグが持つ未知な可能性に下呂は怯える。


「ってか、さっきの話は思念体の個性でダイナレッグの性能が変わるってこと? どうなるのか全く予想できないんだけど」

「そもそも思念体の存在自体が不明瞭だ。あまり考え過ぎても毒だろう」

「思念体の目的も、大雑把に世界征服ってだけで、競技者に乗り移る理由も曖昧やしな」


 原と川北の意見により、あえて思念体のことは考えない方が良い流れになった。だが、何か嫌な気がした更田だけは想像力を働かせようとする。


「いくら考えても答えは出ないけどよ、推理することは可能なんじゃね? 例えば自分が思念体だったとして、どの人間に乗り移ったら効率的だと思う?」

「そんなん決まっとるやろ。ダイナレッグの有能性を示せて、かつ発信力の強い立ち位置にいる人間……」


 そこまで川北が言うと、彼らは一斉に水天宮を見た。水天宮は楽しそうに神崎や半谷と談笑しているが、彼女はステーションでアイドル的な存在であり、下半身が義足という悲劇性も秘めている。


「まさかねぇ……」


 冗談で笑い飛ばそうとして、下呂の顔が引きつった。辺りに沈黙が訪れる中で、更田だけが覚悟を決める。


「おれはダイナレッグを履く」


 あんなにもダイナレッグを毛嫌いしていた更田が、重い腰を上げるように考えを改めたことで原は動揺する。


「博士から禁止されているはずだが?」

「知ったこっちゃねー。まだ水天宮が思念体だと確定したわけじゃないが、念には念を入れてだ。もし思念体がいたとして、引きずり出すならステーションで真っ向から勝負するしかないだろ」

「じゃ、打突攻撃も解禁するんやな?」


 原の意見は即座に突っぱねる更田だったが、川北の指摘に対しては一呼吸を置く。そして彼は遠くを見るような目で静かに言う。


「ああ、おれは人を殴る」

「褒められた宣言ではないけど、マコが決めたことなら自分もダイナレッグを装備するよ」

「右に同じく」


 下呂と原、共にダイナレッグを履くことに理解を示す。皮肉にも、廟が更田に忠告していた通りの事態だ。自分がプライドを捨てられない限りは、仲間もプライドを捨てられない。


「お、ええ流れやん。この状況で空気読まんアホはおらんやろ」


 しかし、このイケイケムードの中に水を差す男が現れた。半谷である。いつの間にか会議に参加していた。


「嫌だっちゃ」

「おったわ! なんでやねん⁉」

「邪魔でゴワス」

「っか〜〜、腹立つわ!」


 半谷と川北の相性は悪い。川北が半谷に襲いかかる前に、そして半谷が川北の胸を揉む前に、更田が仲介して問題を先延ばしにした。


「まぁ、おれも今すぐにとは言わねーけど、どっちにしろストリーキングは禁止だ。それでも信念を曲げたくねーなら、もっと何か別の表現方法を見つけろ」


  * *


「こんにちは! わたしは学生記者の毛利と申します! 本日は選抜メンバーの取材をしたく参りました!」


 誰が何コースを走るか揉めながらも話し合いで決め、オーダーを運営に提出し一息つこうとした夜、異様にテンションの高い少女が合宿所へ訪問してきた。


 大会前は穏やかな時間の中で精神統一がしたいと考えていた更田は、毛利の明るさに心を乱されたくなかったため、一瞥しただけで断ることを決める。


「……お引き取りください」


 できるだけ冷たい声で言い放ち、扉を閉めようとしたところ、毛利は扉に挟まれることを厭わず、強引に身を滑り込ませてきた。


「Why⁉ こっちも理由が無ければ引き下がれませんよ!」

「理由は今が大会前日の夜だからです。取材なら事前にアポを取るべきでしょう。いくらなんでも非常識です」

「そこをなんとか! 今は体当たりのアポ無し取材が流行りなんです! わたしとあなたの仲でしょ⁉ お願いします!」

「知るか!」


 謎の理論で攻め立てる毛利に対し、更田も憮然とした態度を崩して言い争っていると、風呂上りの原が様子を見に玄関まで来た。全裸で。


「玄関で大声なんか出して、何かあったのか?」

「キャーッ!」

「自分ん家か!」

「おっと客人の前で失敬。眼鏡が傾いていた」

「違う! 服を着ろ!」


 このままでは収拾がつかなくなると危惧した更田の下へ、次は下呂が現れた。てっきり更田は助勢に来たのかと思いきや、この惨状を見て下呂は溜息を吐く。


「女の子の悲鳴がしたから来てみれば、ナンパした女子を連れ込むなら事前に相談してよ。人としての常識でしょ」

「やーい、怒られてやんの! 人のこと言えないしー」


 毛利の挑発が琴線に触れた更田は、即座に扉から手を離す。そして勢い余り、前へつんのめった彼女の首をヘッドロックする。


「ワーッ! 嘘です! 取材するまで帰れないんです!」


 どちらにせよ仲間の痴態を見られ、誤解されたまま帰すわけにはいかない。仕方なく更田は合宿所の中へ入ることを許可した。


「お邪魔しまーっす!」


 無駄に元気よく毛利が室内へ入ると、神崎が半谷のダイナレッグをメンテナンスしている真っ最中だった。作業自体はサイズの微調整をしているだけだが、毛利は物珍しそうに見る。


「これは何をやっているんですか?」

「見て分からねーのか。ダイナレッグの調整だよ」

「ほうほう……って、ダイナレッグを履くんですか⁉」

「履くよ」

「なんで⁉」

「なんでも何も、普通は履くだろ」

「あなたは普通じゃないでしょ⁉」

「ケンカ売ってんの?」

「スニーカーはどうしたんですか⁉」

「あるけど大会では履かないぞ」

「なんで⁉」

「しつけーよ!」

「悪魔に魂を売ったな!」

「大袈裟だろ! むしろスニーカーで走ってた方が悪魔に取り憑かれてたわ!」

「あれは、あなたなりのメッセージじゃなかったんですか⁉」

「そんなもん、自分でも分かんねーよ」


 言葉にできない。言葉にできないからこそのアクションなのだ。


「半谷さん! 途中で服を脱いだことには、何か意味があったんですよね⁉」

「もちろんだっちゃ。でも、それは別の方法でも表現できるナリ」

「分かってくれたのか」

「樋口ちゃんにも相談済みナリよ」


 不意に目頭が熱くなり、更田は込み上げてくる何かを抑える。そんな人間模様は露知らず、毛利の次なるターゲットは下呂へと移った。


「下呂さん! 途中でゲロを吐いたことには、何か意味があったんですよね⁉」

「全く無いよ!」

「そんな! じゃあ、どうしてゲロを吐いたんですか⁉」

「女の子でも殴りつけるよ⁉」


 何が下呂の逆鱗に触れたのか分からぬまま、怒鳴られた毛利は早々に退散する。そして最後に原へインタビューしようとするが、なぜか今までの態度とは一変していた。


「原さん! 途中で……その……う、うん……」

「もう、いいんだ」

「え?」

「漏らしたことに意味は無かった。だが、漏らした後で意味が生まれたんだ。漏らそうと思って漏らしたのと、漏らさないようにして漏らしたのとでは、全く意味が違う。だから、漏らしたことの効果は己が意図したものじゃないんだ。分かってくれ」


 いや、分からないし、分かりたくもないと、その場にいた誰もが心の中で思ったが、決して口には出さなかった。


「はいはいー、本日もステーション風パスタやでー」


 暫くの沈黙に耐え兼ねていると、上機嫌で川北が焼きソバを持って現れる。何も知らない彼女が毛利という訪問者に噛みつかないわけがないので、空気を呼んで下呂が率先して今の状況を説明した。


「川北さん、彼女は学生記者の毛利さんという方で、選抜メンバーの取材がしたいんだって」

「ほう、それは殊勝なことや。ウチに質問したいことがあれば、何でも訊いたってや」

「えっと……どちら様でしょうか?」

「冷やかしか小娘」


 またも室内が重苦しい雰囲気に満ちる。一度は二人の間を取り持とうとした責任を感じ、下呂が機転を利かせようとした。


「この方を、どなたと心得る⁉ 選抜メンバーが一人! 川北柊花様であらせられるぞ! ひかえおろぉ!」

「は、ははぁー!」

「うむ、くるしゅうない」


 ノリで土下座した毛利の姿を見て気分が良くなったのか、川北の機嫌が直る。それどころか調子に乗ってきた。


「恐れ入りますが、もしかして川北様がダイナレッグを履かせた立役者ですか?」

「いかにも」

「なぜ、そのようなことを?」

「勝つためじゃ」

「しかし、それでは個人の尊重が蔑ろにされてしまいまする!」

「愚か者よの。こやつらが己の誇りを懸けて走っていたのは我も知っておる。だからこそ、こやつらが走ることで何と戦っていたのか想像はつく」

「それは一体……?」

「ちょっと、このキャラ窮屈やから止めてもええ? あんまウケへんし」


 その場にいた全員が肩透かしをくらう。まるでコントのような場面を気にせず、自由気ままに川北は返答した。


「社会に対する怒り……とでも言えばええんかいな? まぁ、単純に勝ち負けの問題ではないにしろ、こいつらは負け戦と分かって別の手段で一泡を吹かせようとしたわけやが、怨念を晴らすには勝つことが一番や。だからウチらは真っ向から誇りを捨ててでも勝ちに行く。そう結託したんや」

「……信念あっての判断ですか」

「せや。仲間とは、そういうもんや。軽々しく言い表せん」

「でも、走っている時は孤独のはずです。ダイナレッグを履いたくらいで、個人の問題は乗り越えられません」

「もう、その問答には飽きたわ。何のためにチーム組んで脳みそが複数ある思っとんねん? 既に対策済みや。例えば下呂。なんでアンタは大会中に吐いた思う?」

「え、自分では分からないけど……」

「せや、自分では分からんことでも、ウチには分かっとる。それは極度の緊張からくる、プレッシャーやストレスが原因や。なら、本番前に少しでも精神的な負担を減らしてやればええ」

「そんなことが可能なの⁉ どんな方法⁉」

「トップシークレットや」


 いつもの唇に人差し指を当て、片目でウインクする川北の仕草。それを見て下呂は、どうせ期待外れに終わるだろうと諦める。


「だったら、あの、う……うん……」

「ババ漏らすんは悪いことやない!」


 淑女としての一線を越えられない毛利に対し、川北は一切の躊躇いが無い。


「こ、この卑怯者! 厄病神!」


 言いたい事だけを言って、毛利は逃げるように合宿所を去って行った。


「なんや、あの女は⁉ 塩持って来んかい!」


 沸点の低い川北に呆れながらも、下呂は食卓に用意してあった塩を手渡す。


「塩焼きソバにするの?」

「ステーション風パスタや! ボケが!」


  * *


「いよいよ明日か」


 満天の星空が視界いっぱいに広がっている。その下で原が夜風に当たっていると、二階の窓から更田が大声で呼びかけてきた。


「そろそろ寝るぞ!」

「了解した!」


 明日に備え早めに寝なければいけないのは分かっているが、このメンバーで走れるのが楽しみすぎて寝付けそうにない。とりあえず布団に入ったら何も考えないようにしようと決め、合宿所に戻ると廊下に布切れが落ちていた。


「こ、これは……?」


 恐る恐る拾う。そして布を広げると、なんとそれはブラジャーだった。原は気が動転する。彼はSMを好む根っからの変態であるものの、基本は真面目で紳士的な童貞なのだ。


 狼狽えてはいけない。冷静にブラジャーを処理しろ。このまま見なかったことにはできない。己が許せない。まず大きさからして……駄目だ、推測できるだけの経験値が足りない。答えは川北と神崎の二択なのだ。いっそのこと自分で装着してみるか……?


「……それ、返してくれる?」


 ブラジャーのホックに手こずっていると、風呂上りの神崎に現場を見られてしまった。原は数秒ほど思考が停止した後、ようやく自分が何をしているのか客観視する。


「すおおぉぉいッ! あ……ああ、すまない。今日は泊まっていくのか?」

「もう遅い時間だし、博士達も何か準備があるみたい」


 まるで何事も無かったかのようにブラジャーを返し、普通に会話を続ける。原は前々から彼女に聞きたいことがあったため、二人きりになれる機会を窺っていたのだ。


「そうか……一つ質問なんだが、貴君は何者だ?」

「私は思念体。前に話した」

「すまない、質問が悪かった。貴君の名前を教えてくれ」

「神崎束」

「いや、それは意識体である人間としての名前だろ? そうではなくて、思念体である君の名前が知りたい」

「もう覚えてない。思い出すには意識体の協力が不可欠」


 神崎は感情の起伏に乏しい。これでは情報が引き出せないと判断した原は、自分から心を開くようにカミングアウトする。


「実は……貴君が熊から少女の姿に変身した瞬間を目撃した。最初は見間違いかと思っていたが、博士から思念体の話を聞いた後だと信憑性が高い」


 原は誰よりも早く合宿所に到着していた。風呂好きな彼は真っ先に大浴場を点検し、満足して戻ろうとしたら熊と遭遇した上、なぜか幼女になったので現実逃避して風呂に入った。そしてまた戻ろうとしたら死屍累々の惨状だったので、考えることを止めて一人で趣味のSMプレイに興じた。


 だからこそ、原は博士の話を聞いて思念体はいると確信していた。しかし、それを別に心配していなかった更田達に相談し、余計な不安を与えたくなかった。下呂が彼女と出会った時に指摘していた通り、あの幼女が神崎であるならば本人に確認するしかないだろう。


「それはブラフ? 何が言いたいの?」

「まだ己達に隠していることがあるだろ? そして、それは博士も知らない」


 博士の本当の目的が判明しない内は、こっちだって都合よく利用されるつもりはない。それならば彼女自身の願いを聞き入れよう。そう強い意志を持って質問した原だったが、彼女の答えを聞いて早くも後悔することになる。


「私を含め全ての思念体を抹消する」


 ようやく原は違和感の正体に気づく。普通なら人類の敵である思念体を倒すという発想が、博士の口から一度も出てこなかったのだ。つまり博士は思念体を利用しようとしているどころか、思念体の生みの親である可能性さえある。


 もしもこの推測が当たっているのなら、なぜ神崎は自分が死ぬような選択を取るのか? 意味が分からな過ぎて、原の思考が高速回転の負荷に耐えられない。


 頭を抱える彼に向けて、神崎は無言で手を差し出す。その手を取るか迷っていると、原は自然と彼女の透き通るような瞳に吸い込まれていた。


「協力しよう」

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