最初はライトなノリで。
そしてジワジワと、知らぬ間に侵食されていくかのように、深淵へと引きずりこまれる。
転がり落ちていく様は、まるで自分を見ているかのようでした。
覚えがあるからこそ、そのリアルな触感にゾワリとする。
と、書くとホラーのように思われるけれど、ホラーじゃないよ。メタネタ満載だよ。好き。
面白い。
今溢れる『快感だけを突き詰めた面白さ』ではなく、持ち上げて落とす、落としといて持ち上げる。
探してたんだ、こんな作品!!
シュールに練り込まれて『なんとなくサラリと』放り込まれたネタにニヤリとさせられた。悔しい。
今の流行りの波に乗れないアナタ。
読んでみて。
貴方の『異世界転移なんか書きたくない&読みたくない』意識が、きっと変わるから。
異世界チート否定派の新人ラノベ作家・杉原一馬と、彼を勇者として勧誘するため異世界からやってきた美少女神官ココナのズレた掛け合いが笑いを誘い、昨今のラノベ事情について考えさせられる。
「異世界でチート無双してなにが楽しいのか」と、テンプレ一辺倒な最近のラノベの流行に物申したいラノベ作家は主人公の一馬だけでなく世の中に大勢いるだろう。
担当編集に諭されて売れ筋に作風を改めようとする一馬だが、空気を読まずにどこにでも出現するココナの存在が、逆に彼を意固地にしてスランプに陥らせてしまう光景に胸が痛む。
自分はもっと面白い作品が書けるのに、読者がそれを求めてくれない現実に絶望し、それまで否定していた異世界へと気持ちが揺らぐ一馬の懊悩がやるせない。
ちょっと未熟で繊細な一馬は、現代のラノベ作家の等身大の姿なのかもしれない。
読者が作家を追い詰めることもあるのだ。「アラサーのおっさんがチート能力で異世界を救う」みたいな作品が好きな読者へ向けたアンチテーゼといっていいだろう。
というか、その読者は私だった! 作家のみなさん、本当にごめんなさい!
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)