10-2 さっそく敵のお出ましだ

 救世主コールを切り裂くように、

「敵襲!」

 と、鋭い声が飛んだ。

 俺は慌てて【飛翔】を解除し、着地した。

 姫様と呼ばれていた少女が言った。

「方角と数は?」

「北北西より2騎! 『勇者と侍』です!」

(勇者!? と、侍??)

 先ほどまで救世主コールではしゃいでいた連中の顔はすっかり青ざめている。

 ……勇者が、敵? ってことはつまり……

 というか、今の「勇者」って……

「映像出して!」

 と、姫様。

「は!」

 エルフが答えて、人の身長の倍のほどもある大きな水晶玉に駆け寄り、短く呪文を唱えて掌をかざす。

 玉の表面に映し出されたのは、海の上空を進む二つの影。グリフォンに乗った「勇者」と、ペガサスに跨った「侍」であった。

「……八坂」

 と、俺は思わずつぶやいた。

 侍のほうはあの長身からして葛井だろう。あいつ、一念発起しやがったか。

「すでに勇者の名をご存知だなんて、さすが救世主様ですわ!」

 と、姫様が明るく言うと、

「おお、確かに!」

「すべてお見通しということか!」

「これなら勝てるぞ!」

 場は俄かに活気づいた。

 いや、アホかお前ら! さすがじゃなくて疑問に思えよ。

 でもとにかく状況はわかった。完全に理解した。


 俺は「魔王軍」に召喚されたのだ……!


 エルフが言った。

「救世主様、海上には不沈艦ウェザーライト号率いる無敵艦隊がおります。いかに勇者といえど易々とは突破できないはず。今のうちに戦闘準備を……」

 不沈とか無敵というワードがフラグにしか聞こえない。

「それが、すでに突破されております!」

 ほらな。

「そんな! 確かなの?」

「はい! 海上は勇者の起こした渦潮で大荒れとなり、艦載していた竜騎兵300騎は侍の刀でことごとく叩き落とされました」

 まだこちらの世界に来たばかりの俺に彼らと渡り合えるだろうか。

 ――いや、そもそも、渡り合っていいのか!? このまま戦えば八坂の言うところの「侵略行為」に加担することになる。魔王軍が今、侵略されているかのように見えるのは、形勢が逆転したからだろう。最初にSOSを言ってきたのはココナなんだから、俺は勇者側に――

(それも違うんじゃないか?)

 どうも単純な正義VS悪の構図じゃない気がする。まだ来たばかりとは言え、俺にはここにいる奴らが完全な「悪」だとは思えない。そして、最初に侵略したのがココナたちではないという証拠は、今のところ提示されていない。

「俺が出る。援護してくれ」

 とりあえず話し合ってみよう。幸い二人とも顔見知りだ。

「危険です!」

 と、エルフ。

「救世主様はまだチュートリアルも受けておられないのですから」

 チュートリアルって言っちゃったよこの人。まぁまだよくわからんことが多いのは確かなんだが。

 俺は姫様に言った。

「軍艦はまだあるんだろ?」

「ええ」

「今すぐ出撃したとして、奴らと接触するまで何時間ある?」

「40分というところですわ」

 短っ。でも「40」か。支度するにはちょうどいい。

「チュートリアルは船上で受ける。案内してくれ。出撃だ」

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