8-4 投稿サイトに逃げ込んだ
社会人失格のバックレをかまして、最悪の精神状態のまま、創作意欲だけが鎌首をもたげてきた。
何かを書きたい。誰かに読んでほしい。
後者のほうが少し強いから、創作意欲というより自己承認欲求だったのかもしれない。
何にせよ、俺は汚れた布団から這い出して机に向かった。そして、新しい小説を書き始めた。
転生・転移なし。チートなし。ハーレムなし。
とある王国の貧民街。天涯孤独の少年が、一目惚れした少女を奴隷商人から救い出す。魔物や魔法は最低限しか出さない。人間同士の戦いに重きを置く。
一気に一万字強書き上げると、小説投稿サイトにユーザー登録して、最初の二千字ほどを第一話として投稿した。ペンネームは「タケウチ」。由来は特にない。思いつきだ。
それから、ツイッターを開いた。受賞作家としてのアカウントはもうずいぶん放置している。
新たに「タケウチ」のアカウントを作って、プロフィールに投稿サイトのユーザーページURLと、新入りであることを記載。最初のツイートで作品ページURLとタイトル・あらすじを書いて固定し、同サイトのユーザーでフォロバしてくれそうなアカウントを片っ端からフォローしまくる。フォロバが来たらお礼に相手の固定ツイートをRTする。ハッシュタグ「RTした人の小説を読みに行く」が流れてきたらガンガン乗っかる。
ゴリ押しの宣伝活動が功を奏して、初日からPV500オーバー、ブックマーク9件を獲得した。
(いける)
その時は、そう思った。
俺には新人賞を取る実力があるのだ。投稿サイトで登りつめて、もう一度「小説家」になってやる――と。
生活費を確保するために、本屋のバイトは続けた。ヒマな時間を利用してこっそりプロットを書いたり、時には本文を書いたりした。
日常系のツイートも織り交ぜつつ、なりふり構わず宣伝しながら、一日一話の投稿を根気よく続けていけば、必ず人気作になれる。そのはずだった。
2日目。PVは一気に324まで落ち、ブックマークが1つ剥がされて残り8件。
3日目。PV251、ブクマ変動なし。
4日目。PV198、ブクマがまた減って残り7件。
5日目。PV171、ブクマ変動なし。
6日目。PV164、ブクマ変動なし。
7日目。PV145、ブクマが一気に2つ減って残り5件。
(まずい)
売れ筋路線じゃないから、初日から多少下がるのは織り込み済みだったが、ペースが早すぎる。新たなブックマークが付かない。
10日目。PVはついに3ケタを下回り、ブクマは残り3件となった。
こんなに落ちると自分のテンションも落ちてくる。静かに書いているだけならブクマ0件だって珍しくはないわけだが、宣伝しまくった上でこれなのだ。続きが読みたいと思われていない。やはり俺には文才がないのか?
いや、そんなはずはない。公募で結果を出したじゃないか。まともな文章を俺は書ける。誰もが憧れる書籍化を俺は確かに一度成し遂げている。
だが、このままでは読者が増えそうにない。何らかのテコ入れが必要だ。
(やっぱり異世界チーレムにすべきだったのか?)
いやいやいや、アホか俺は。今さらそこは妥協できない。
宣伝……宣伝だ。きっとまだ人の目に触れる機会が足りないだけ。宣伝しまくれば道は拓ける。
こちらから他人の作品を読みに行って肯定的な感想を書き、「感想返し」を待つべきだろうか? 正直、それはダルい。同じ読書をするなら素人よりプロの作品を読んだほうが勉強になるに決まっている。
俺はすでに、プロなんだ、一応。
(いっそ本名を明かしてしまおうか)
それは魅力的な思いつきだった。新人賞受賞作家という肩書きを利用すれば一気に読者を集められるはず。
しかし、責務を放棄しておきながら実績だけ看板に使おうなんて虫が良すぎる。
それに、叩かれるだろう。二冊目が出せなかったから投稿サイトに逃げてきたのだということは容易に想像できる。
それでも、今のままよりはマシか? 会社には謝罪の手紙でも書いて、炎上覚悟で本名を明かせば、応援してくれる人も現れるんじゃないか?
「……」
14日目。ブクマが残り1件になっているのを見て、本名を明かしてしまいたいという強烈な誘惑にかられた。
が、かろうじて、踏み止まった。そこまで下衆にはなれない。
30日目。枯葉の最後の一枚みたいに残っていたブクマがついに消えた。
失敗だった。最初から宣伝攻勢をかけ過ぎた。慎重にタイミングを見計らっていれば……いや、関係ないか。
要するに、お呼びでないってことなんだ。この世界じゃ誰も俺の書くものを読みたいと思ってない。
放物線を描いて下降していたモチベーションがいよいよ最低レベルを下回った。30日間毎日続けてきた投稿がピタリと停止。新着に載らないから、当然PVも付かなくなった。
ああ。俺はもう……駄目だ。
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