2-1 美少女が注文を取りに来た
翌日、俺は担当さんとの打ち合わせで、いつもの喫茶店に来ていた。スタバのように注文してから座るのでなく、席で注文を取るタイプの店だ。
「お待たせ☆ ごめんね、遅くなっちゃって」
ミュージカル俳優のような完璧な身のこなしで現れたのが、俺の担当、山田太郎さんである。
髪型はトップ長めのツーブロック。44歳とは思えない若々しいマスク。長い脚と発達した胸筋をブルーグレーのスーツに包んでいる。
彼は姓名以外のすべてがエレガントなのだ。
「お疲れ様です」
「注文は?」
「いえ、まだです」
「じゃあ」
と言って、山田さんはパチンと指を鳴らした。
訂正する。パチンでなく、パッティィィンと鳴らした。
まもなく店員さんがやって来て、
「ご注文をお伺いします、勇者様♡」
と言った。
俺は盛大にコーヒーを噴き出したい気分だったが、あいにくコーヒーはこれから頼むところである。
「あんた、なんで、こんなところに」
と言うのが精一杯だった。
「新人のココナです! よろしくお願いしまーす!」
念のため断っておくが、ここはメイドカフェでもキャバクラでもない。クラシックな喫茶店だ。
「ココナちゃん。かわいい名前だね☆」
「ありがとうございます!」
「ブレンド2つ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
一体いつからここでバイトを?
身分証はどうしたんだ?
そもそも俺がここによく来るってことはどうやって知ったんだ?
「……」
混乱している俺に山田さんは、
「君もスミにおけないな」
と、ウインクしながら言った。
どうやら山田さんは彼女のことを俺のカノジョだと解釈したようだ。
「いえ、あの子は、何と言うか……」
何と言えばいい?
異世界から俺を迎えに来たココナ・フォン・ローエングリンさんですなんてまさか言えるわけがない。
「……ちょっとした、知り合いです」
「オッケー。そういうことにしといてあげるよ、勇者様☆」
「……」
まぁとりあえずいいか――根掘り葉掘り聞かれるよりは。
運ばれてきたコーヒーを山田さんは優雅に一口飲んだ。
こんな些細な動作が、大げさでなく、実に絵になる。山田さんが主人公だったらベタベタなハーレム展開になってもまったく不自然ではない。もとい、そうならないほうが不自然なぐらいだ。山田さんは「勇者」というより「王子」って感じだけど。
一方ココナは、昨日のように強引に頼み込んでくるわけではなく、今のところ店員として普通に仕事をしている。ならばとりあえず放っとこう。
「さて、勇者様」
「その呼び方やめてもらえませんか」
「やっと異世界に旅立つ覚悟ができたようだね」
「え?」
どういう意味だ?
山田さんも実は異世界からの使者なのか? それはそれで全然納得だが。
「書いてくれるんだろ? 異世界モノ」
あ、なんだそういう意味か。
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