1-4 美少女を部屋から追い出した

「じゃあ、あと一つだけ質問」

「もう最後ですか? もっといろいろ訊いてください!」

「なんでだよ」

「こちらの世界に興味を持ってください!」

「いや、ホントに、最低限の疑問解消したいだけなんで」

「ううー」

 と、美少女はうなり、残りのはちみつレモンをぐいっと飲み干した。

「なんで俺なの?」

「なんでって、あなたが勇者様だからです」

「だから、なんで俺が勇者なの?」

「神様のお告げです」

「……」

「〝どんどどんど祭り〟名物〝ウルトラファイアー占い〟で、東京都◯◯区◯◯3の◯◯の17◯◯荘103号室にお住まいのスギハラ・カズマ様(29)が勇者であると特定されたのです」

「……」

 彼女らの世界に個人情報保護という概念はないのだろうか。

「ウルトラファイアー占いはよく当たるともっぱらの噂です」

「いや、『よく当たる』じゃ心許ないだろ」

「言葉のアヤです! 確定です! カズマ様は絶対に勇者様なのです!!」

「……」

「どうか私たちの世界を救ってください!」


 なってみたかったけどな、勇者には。


「悪いけど、他を当たってよ」

「何故ですか? というか、他なんてないです」

「神様のお告げとか、英雄の子孫とか、体内に何か埋め込まれてるとかさ、そういう『自力じゃどうにもならないもの』が好きじゃないんだ、俺」

「……」

「つまり、運だろ。実際、世の中は運がなきゃどうにもならないことがたくさんあるし、俺が新人賞取れたのもほとんど運だと思ってるけど」

「しんじんしょう?」

「自力で何とかしたいんだ。頑張った分だけ報われたい。女の子のパンツを見るのだって、ラッキーじゃなくて自分の力で堂々と見る権利を獲得したい」

「……」

「知りもしない神様のお告げで勇者に選ばれても俺は嬉しくないし、そういう世界観を肯定したくないんだ」

 美少女はまっすぐに俺の目を見て、

「では、私たちの世界が滅びても構わないとおっしゃるのですか?」

 と言った。

 さすがにドキリとしたけれど、回答はあらかじめ用意してあった。

「滅びればいいと思うよ。あんたみたいな子に枕営業させる世界は」


 いくらなんでも裸足では寒かろう。俺は美少女に使い古しのクロックスを差し上げた。

「……」

「返さなくていいから。捨てようと思ってたのだし。そんなのしかなくて悪いけど」

「では、ありがたく頂戴します。はちみつレモンごちそうさまでした」

「じゃあ、気をつけて」

「せめて、名前くらい……」

「……」

「名前くらい、訊いていただけませんか?」

「……名前は?」

「ココナ・フォン・ローエングリンと申します。名前だけでも覚えてくださいね!」

 と、ココナ・フォン・ローエングリンは、若手の芸人みたいな言葉を言い残して去っていった。

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