1-3 美少女を部屋に連れ込んだ

「えっ? あの、勇者様、ちょっと」

 雪のような白い手をグイッとつかんで、グイグイと部屋の奥へ引っ張っていき、いささか乱暴にベッドに座らせた。

「きゃっ!」

 美少女、背中に物干し竿でも突っ込まれたかのようにぴーんと背筋を伸ばし、びたっと膝を閉じる。

「……」

 震えとるやんけ。

「こ、これは、その、けけけ契約をしていただけるということでしょうか?」

「うーん、そうだなあ……」

 おたおたする美少女を見て、この時俺の中で少し、いぢわるな心が芽生えた。

「かる~くお試しさせてもらってから決めようかな」

「!!!」

 美少女はショックを受けたガ○スの仮面みたいな顔になった。背後にベタフラが見える。

「おた、お試しというのは、一体どこまで……というか、先に契約を……そんな、だって、えー、そんな、だって……いえ、もう、わかりました!! どうか優しくしてください!」

 そう言って、美少女はギュッと瞳を閉じ、唇を突き出した。

「……」

 いやいやいや。震えとるがな。

 てか何そのキス顔。唇つっぱりすぎ。ふざけてるの?

 俺はそこらへんに置いてあったアザラシのぬいぐるみを美少女の顔に押しつけ、台所へ向かった。

「もがっ? まふまふ。ああ、勇者様って、意外に毛深……あれ?」

「ちょっと待ってろ」

 マグカップに粉末のはちみつレモンを入れ、ポットのお湯を注ぎ、部屋へ戻る。

「ほら」

「あ、ありがとうございます……」

 と、美少女は目をぱちくりさせて受け取った。


 俺は机に向いていたイスをぐるりと回して腰かけ、美少女がはちみつレモンを一口すするのを待ってから、

「あんた、歳は」

 と言った。

「3029歳です」

 出たよ実は超高齢だけど見た目は若いパターン。

「真面目に訊いてんだけど」

「真面目にお答えしてます」

「俺の100倍以上も人生経験あるの?」

 それにしては初々しすぎる。

「あ、うちの世界では前世もカウントする決まりなんです」

「え?」

「私個人の人生はまだ18年です」

「前世の記憶は?」

「ありません」

 じゃあ何の意味が……

 いや、詳しく訊くのはやめよう。

「次。なんで『異世界』から来たのに日本語ペラペラなの?」

「移民の皆さんが開いた日本語学校で教わりました」

「……」

「あと、TSUTAYA異世界店で映画とか漫画借りまくって勉強したり」

「……」

「私の友達はこないだの冬コミにレイヤーとして参加してました」

「……へー」

 ツッコミどころが多すぎて、「へー」という言葉しか出てこなかった。

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