1-2 美少女がなかなか帰らない

 ピンポーン。

「……」

 ピンポーン。

 ピンポーン。

「……」

 近所迷惑になるしな。


 ガチャリ。

「あの、私、新聞とか宗教の勧誘ではなくて」

「いや、別にそういうこと疑ってるわけでは」

「突然押しかけて、ぶしつけなお願いとは承知しております。ですが、あなた様しか頼れる人がいないのです」

 上品な谷間を見せながら瞳をうるませる美少女。そんじょそこらの童貞なら何やらぶつぶつ言いながらもう堕ちているだろう。だが俺の「異世界系への拒絶反応」は性欲を凌駕している。

「どうかご安心を。こちらの世界ではうだつの上がらないあなたでもあちらに行けばいきなり最強です! 驚異の能力でザコモンスを蹴散らして個性豊かな美少女たちとムフフなハプニングを」

 バタンと俺はドアを閉めた。


 ドアの向こうから声がする。

「なぜですか勇者様!」

「いや、勇者とかじゃないんで」

「お願いします。契約を! どうか私と契約を!!」

「他を当たってください」

 行きたい奴ならいくらでもいる……と憤りながら、俺は机に戻る。

 逆にやる気が出た。やはりこんな都合のいい展開はクソだ。俺が何か努力したごほうびとして美少女が現れるならいいが、彼女はただうだうだしていただけのところへ突然やってきたのである。

 こんな「男の夢」に飛びついてたまるか。まやかしでしかない。


 ピンポーンピンポーン。

 ドンドンドン!

 ピンポーン。

 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン。

「勇者様! 勇者様ってば!!」

 ちょ、おいwwww

 必死すぎwwwwwwww


 これまでは運良くご近所トラブルと無縁で生きていた。できれば今後もそうありたい。

 突き放すだけではダメなようだ。きちんと話して諦めてもらおう……


 ガチャ。

「わ、わ、私と」

 頬から耳まで真っ赤に染めて挙動不審の美少女。

「そ、その、勇者様として世界を救う契約をしてくださいましたらば……あの、ふつつかものですが、私個人との『契り』を結ぶことも」

 俺はバタンとドアを閉め……なかった。

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