最期の甘え
ユラカモマ
最期の甘え
強くなりたい。強くありたい。
それが君の口癖だった。
馬鹿。もっと早く頼ってくれればよかったのに。金曜の夜、高校の時の親友からの通話が終わった後そう独り言ちて私は車に駆け込んだ。向かうのは車で10分足らずの公園。親友はそこにいるらしい。親友といっても高校を出てから一年、彼女が県外に出てしまったため会ったのは一回である。彼女は頭がよく地方の国立大に行き、一人暮らしをしている。コミュ障だけど打ち解けると優しくて少し意地っ張りでまじめな子だった。今日突然電話がかかってきた。いきなりで驚きはしたけれど家で一週間の疲れを癒していたところだったので懐かしい声に喜んでたわいもない話に花をさかした。5、6分ほどいつものノリで話した後、彼女は急に黙ってしまった。呼びかけても返事はなく何やらごそごそという音とカエルの鳴き声が入ってきた。私は首をかしげたが悲鳴なども聞こえなかったので時々彼女の名前を呼びながら待っていた。その後2分もせず”・・ちゃん?” と彼女の声が返ってきた。”急にどうしたの?” と問うと”ちょっとね。”と先ほどまでより急に弱い苦し気な声になっていた。なにかあったのかと慌てて場所を問うと近くの公園だという。彼女は県外にいるはずだというのに。”ごめん、ごめんね。迎えに来てくれない? ...無理なら...来てくれるの、ありがとう。”言葉の切れ目に苦し気な濁音が入りいよいよ私は嫌な予感がした。
”どうしたの?”
”...私、なかなか大学うまくやれなくてさ、がんばったつもりなんだけど...ちょっともうしんどくて...ありがとう、最期に話せて楽しかった。迎え待ってる。...迷惑かけてごめんね。”
その言葉を最後に彼女の電話は切れた。
馬鹿。もう少し、せめてあと10分早く言ってよ。それならいくらでも話聞いてあげれたし抱きしめられたし引き留めることだって。公園の木にぶら下がって揺れる彼女に叫ぶ。つかんだ手はまだ少し彼女の熱を残していた。
無理しないでね、甘えていいんだよ。
彼女の口癖に何度もそう返したけれど結局私の言葉は彼女に届かないままだった。
最期の甘え ユラカモマ @yura8812
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