鍛冶屋のドワーフ

狐㌣

鍛冶屋のドワーフ


俺は、祖父から継いだ『烈火怒涛滅風金剛武器店れっかどとうめっぷうこんごうぶきてん』っていう店で武器を数百年以上売ってる、鍛冶ドワーフのガルスだ。


え? ああ、うちの店の場所? ウルセルズ王国の王都の北西一番道りにある。北門通りから一本行ったとこだ。近いだろ?

あん? ウルセルズが分かんねえ? ウルセルズってのはな。あー、東に海があるヘルガ大陸の内陸。一番西の方にある国だ。それより先は魔王領っていって魔王の配下の強ぇえ魔物がわんさかいて人間とずっと戦ってんだよ。

そこでだ、ウルセルズの王が魔物達と戦うために異国から転移だか召喚だか……まあよく分かんねえ魔法で勇者になるやつを呼んで、ボスの魔王を倒す。で、次の魔王が来るまで平和に生きるってことを千五百年ぐらいのスパンでしてるらしい。

ま、その魔王討伐のためだけにあるような国だ。


……何だか良く分かんなくなっちまったな。

まあ、そんな最前線の国で鍛冶屋やってるんだが、今日に限って客が二人も来やがった。


あ? 少ない?

うちは打ち手が俺一人だからな、客もより分けてんだよ。だから客が来ても週一かそこらだ。被るなんてことはねぇはずだと思ってたんだ。でもな! 今日、この二人に限って被ったんだよ!


* * * * *


勇者『ガルスのおっさん、今日は剣────ん、先客か。珍しい。』


黒ローブの男『ああ、失礼している。おい、鍛冶屋。客が来てるぞ。』


俺『ああ。』


その時、剣にちょっとのめり込んで適当に流してた。だって魔王が直々に大剣を作れってやって来て、前使ってた伝説級の剣をホイって見せられたんだよ、仕方ねぇだろ。あり得ねぇほどよくできた片手剣だった。筆舌に尽くせなかった。これは伝説って言われるわ。



俺『この剣をジジイが……』


伝説といわれる魔王の剣、勇者の剣は共に偉大なる鍛冶ドワーフによって造られた、らしい。

で、その偉大なる鍛冶ドワーフとやらが俺の祖父。父と共に師事し、あの超長い店名を付けた偏屈ドワーフのことらしい。

そう『らしい』なのだ。


ジジイはもうとっくに天国だし、誰もそんな大昔から生きてねぇ。千五百年以上昔のことじゃあ記憶が風化するのは当然だろう。


で、剣が壊れたんで制作者(?)の直弟子に是非…………という流れだったんだ。

そう、このフード被って怪しいローブの男は今代魔王サマだそうだ。自称だが姿を隠す魔術といい、身のこなしといい、ただ者じゃねぇ。こりゃ本物だ。勇者じゃなきゃ勝てねぇ……。ん? 勇者?


ふと店を見わたすと十数畳の狭い店内は、





魔王


一メートル弱の空間


勇者


入口






……やべぇ!?




というわけで店の紹介だとか現実逃避をしていたわけだ。

よし、分かった。どうしようもないことがよーく分かったぞ。よし。

……よし。


魔「どうした?」


俺「ぃや、ナンデモネェ。」


──どうする? とりあえずここで戦われちゃあかなわん。

仕方ねえが、とりあえず……


俺「とりあえず勇し──そこのお前、お前は明日な。帰れ。」



追い出そう。ガキの方。

……きっとそれが平和的な解決法だ。



勇「え、ちょい待ち?」


俺「か、え、れ。」


勇「なんでだよ、明日からちょっと遠出するんだよ。」


俺「じゃあそこらの武器屋にでも──」


魔「私のことは気にしないでいい。その間に武器でも眺めさせて貰おう。明日にでも戦うやもしれぬ者を優先してくれ。」




おぉおいぃぃぃ! 魔王さん敵が今、目と鼻の先だから! むしろ今すぐに戦いが始まりそうな状況だよ! 敵優先してるヒマねぇだろ!?



勇「ん、ありがとうなおっさん。 でだ、ドワーフのおっさん。」


俺「あ、おう。」


勇「なんかさ、あの陽光陰斬紅蓮……ナントカ剣、折れたんだよ。」


勇者も伝説の剣壊してたーー!!

そして言えないような名前付けるとかなにやってんだよ俺の祖父。



俺「…………」


勇「おーい、聞いてる? 」


俺「……………………見せてみろ。」


勇「ほらよ。」


俺・魔「「むっ。」」


勇者が見せた剣は魔王の剣と同じように左右が完璧に対称で芸術品の域だ。折れているが。

余程無茶な使い方をしたのか折れたところの周りに痕がついている。


魔「……似ているな。」


勇「何とだ? 」


魔「む、私の剣とだ。ほら、見てみろ。」


魔王は自らの剣を見せる。

そりゃあ対の剣だからそっくりだろう。…………魔王が対って気づいたら不味いじゃねえか!!

俺「あ、ああ。同じ製作者だから似てんだろ。」


魔「製作者? 」


うわぁ!? 製作者同じとか断言したら確信に近づくじゃねえか!

不味い……うっわ…………トチった………………。どうしよ。


俺「在庫処分でむっちゃ売ったからな。きっとそれでだろ。」


うっわ、我ながら下手な嘘だわ。


勇「……何でつくったヤツが同じって分かるんだ? 」


魔「経験の差、ないしは製作者の孫だから、だろう。」


魔王はニヤリと口元を歪める。

……ゾクッとした。冷や汗モンだ。


勇「え? おっさんのおじーちゃんがコレつくったの? ……真っ二つに折れる剣とかマジ…………」


俺「俺がつくったんじゃねえ、文句言うな。あと、こんな痕がつくような使い方すりゃあミスリルでも折れる。」


勇「エッ、ミスリル折れんの!? 」


魔「折れるときにはな。二代目勇者の伝説であまりにも剣がダメになるからと伝説の剣を探した話があるだろう。」


勇「マジかー、じゃあ……」


駄目だ、魔王勇者談義は。黙らせないと不味い。

まあ、ここで鍛冶屋の必殺技を……


俺「おい、お前ら黙ってろ。明日出るんだろ? 今打ち直すから集中させろよ? 」


必殺、『煩い黙れ集中できん』基本これで大抵の奴は黙……


勇「で、よう。二代目勇者ってどんな奴だったんだよ(小声)」


魔「お前らには有名だろう? 知らんのか。二代目は……」


もういい(泣)。

幸い勇者の剣は綺麗に折れている。閉店までにはギリギリ何とかなるだろう。


* * * * *


結局勇者魔王談義から一周まわって理想の剣について語っていた。

カタナってのは気になったが、大剣にソードブレイカーは無いわ。


俺「ほら、出来たぞ。さっさと払って帰れ。」


勇「おっ、ほらお代だ。ありがとな、それと……」


理想の剣の像がつらつらと述べられる。魔改造パネェな。


魔「同じのを頼む。」


ドサッと金を置き、二人で期待するような目を……

って、おまえもか、魔王。


俺「……チッ、十日後に取りに来い。」


今日一日で口を挟まないほうがいいと悟ったからな(遠い目)。


* * * * *


そして数年後。


魔王城に到達した勇者一行は魔王を討伐せず、魔王との講和条約を史上初、持ち帰った。

この後、大災害までの数百年は平和な時代となった。


しかし何故、魔王と勇者は刃を交えることがなかったのか。


そんな謎とともに有名な伝説として語り継がれるのであった。












……そしてあの鍛冶屋では、話を聞いた店主が炉に盛大に酒を噴き出してボヤ騒ぎが起こったという。

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