(5)
あの日から、レイジさんはL班に姿を見なくなった。
どうやらここ最近続いていた事件専用に特別に班が作られたようで、レイジさんも召集されたのだとか。
吸血鬼のいたずら……にしてはたちが悪いものだったけど、質においてはいたずらとの見方が強かった事件だった。
被害者は私を含めてもう何人か。いずれも病院にはかかることになったけれども、死に繋がるような外傷は全くなかったらしいのが五日前までの話。
四日前の夜、私たちが悲鳴に駆けつけたあの日、とうとう死人が出た。
状況は一変し、深刻なものになった。
レイジさんがL班の部屋に姿が見えなくなってから三日が経ち、今日で四日目に突入している。
「昨日で犠牲者は四人。初めて死人が出た日から毎日だね。全員が致死量の血を吸いとられてる。……けどその量が増えた分時間もかかっているみたいだから、目撃情報がぐっと増えてきたね」
やれやれという風に、サディさんが首を振った。
そう、吸血鬼(もはや犯人に完全確定)による事件の死人は、私とレイジさんが悲鳴を聞き付けて駆けつけたその日から昨日まで毎日出ている。
このまま行くと、今日も出るだろう。
「解決には本職の方が動いてくれると早くなると思うんだけど無理だよねえ」
本職? 私が首を傾げると、気がついたテンマさんが、私の机の横に位置する机の方からすすす、と椅子と一緒に動いてくる。
ちょいちょいと手招きされたので、顔を近づける。教えてくださるようだ。
「
混血ではなく。
例の事件の犯人は混じりけなしの吸血鬼のようで、それに対抗するのは同じく吸血鬼が手っ取り早い、ということだそうな。
耳の近くで教えられたことに私はへえ、となるばかりだ。
でも、どうして無理なんだろうっていうのは、きっとあまりこういう組織に介入しない、したがらない種族だからかな。
街中でほいほい姿を見かけないのは数が少ないからかどうなのかというのは不明だが、「表」に出たがらないからという点は上げられるのではないだろうか。
そういう種族は、別に吸血鬼だけではない。他の種族と馴れ合うことを良しとしない種族なんてたくさんいると思う。人間の中でだって、そういう人はいるんだから。
けれどそれは簡単には協力し合えないことを意味している。
「あの事件、解決するんですかね……」
「多少は手こずるかもしんねーけど、最終的には捕まるだろうよ」
テンマさんは、自分の机に戻っていった。
そういうものなのか。
今、この建物内で吸血鬼の事件のことを話題にしているのは、きっとここだけではない。
大きな事件が話に上るのは必然で、今回は犯人が犯人だけにもっと話に上がりやすい。
それには不安と恐怖がもちろん混ざっている。事件を扱う側だとしても。
情報は大なり小なり、尾ひれもついて、建物内を巡っていることだろう。
「でもなんだろうね。人を殺すほどの血を吸うことに変えると、今までより姿を見られる危険性が増えるのにね。それは今までの余裕からなのかな。捕まらない自信があるみたいな。まあそれはそうと、吸血鬼はそんなに血を吸うものなのかな、それも毎日毎日。さすがに多すぎだと思うのは、情報がないだけで吸血鬼ってそれだけ血を飲むものなのかな……」
どうも一人思考モードに入ったらしいサディさんの小さな声が、ぶつぶつと続く。研究者たる面も持つ所以だ。
一方、この中一言も発さなかったリュウイチさん。この人も顎に手を当てて、手に持つ書類を本当に見ているのか定かではないけど目を向けて何事か考え込んでいた。……ように、机の上の薄めの紙の束に手を伸ばした私には見えた。
その私にとっての関心事は、レイジさんはいつ戻ってくるのかなということだ。
それを考えるなら、いつ事件が解決するか、だろうか。事件が解決しなければ、召集されているレイジさんは戻ってこない。
私もまた、召集期間突入後の期間と同じように今日で四日目、レイジさんに会っていないのだ。
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