第13話 開拓村②

 昼食後、バードンが昨日に続き荷物置き場の整理を始めようとするとゲーコレードが手伝いを申し出た。

 荷物置き場に向かうと当然のように千夏もついていった。

 だが、千夏には危険なものも多い。

 魔獣の骨や牙などの先の鋭いもの。倒れたら潰れてしまいそうな大型の物。

 さらには毒草に、作りかけの工作物。用途不明のガラクタの様なものまで。

 それらが所狭しと棚に並べられ、地面にも多くものが置かれている。


(触らせられないな)


 そう考えたバードンだが、一人にしておくのも可哀想かと思い、部屋の隅で見ているように指示を出す。


 千夏はそれを理解して、隅の方で大人しくしていることにした。ただ顔には好奇心が隠しきれないでいる。


 ちょっと変な匂いがするけど、この部屋すごいなー。

 うっ……あれは気持ち悪い。

 あの武器みたいなのとかいくらするんだろ?


 そんなとりとめの無いことを考えながら部屋の中を見回す。しばらくすると飽きたのか、気付いた時にはバードンたちの動きを観察してした。



 これは何だったか?

 それは誰のだ?

 これはゴミか?


 そんなことを話しながらバードンとゲーコレードは整理を進めていく。

 部屋の中をあっちこっちに行ったり来たりしながら中の物を集めたり、並べ替えたりと忙しなく動いていく。

 そこで何かに気付いたゲーコレードが話しかける。


「おい。チカちゃんを見てみろよ。お前のことを探しているぜ」


 バードンが棚の影などに隠れると、千夏がそれを探すように見える位置にふらふらと移動する。

 もっともゲーコレードは千夏が興味津々という体で二人の作業を何とか見ようとしているのに気付いており、それを茶化して言っただけだ。


「外でもあんな感じだったな。こっちをよく観察していて物分かりが良かった」


 それから森の中での話になり、仲間が見つけてくれるまでの事を二人は話す。


「カラミツデさんが見つけてくれた時は心底嬉しかった。あれは本当に危機一髪というやつだ。北からの拠点も出来る限りカラミツデさんの作ったとこを使って帰ってきた。ますます頭が上がらない」

「お前の鎚を見つけてくれたのもカラミツデさんだしな。隠したり見つけたり。あれは誰にも真似できねぇな」


 そう言って二人はカラミツデ・テレナングを褒め称える。

 実際、カラミツデほど敬意を払われている団員はいない。

 バードンが敬称をつけて呼んでいるのもそのためだ。


「俺が逃げ込んだあの岩場もカラミツデさんが作ったらしい。何のために作ったかは聞いてないが」

「くぅー!それでいてあの無口なとこが渋いよな!他の奴らも見習って欲しいぜ」


 そういって二人は笑い合う。

 基本的には団員たちは騒がしい。もちろんそれが嫌いなわけではないが、たまには静かにしろよとも思う。

 同い年くらいのバードンとゲーコレードは新人と大ベテランの板挟みに合う立場で、愚痴も尽きることは無い。


 ひとしきり笑った後、ふと思ったことをバードンが問いかける。



「ところで、お前はここにいていいのか?手伝ってくれるのは本当にありがたいんだが」

「いいよ。ちょうど団長たちの会議で俺らは足どめさ」

「セレスもそんなこと言っていたな。そんなに時間がかかるとなると何の議題なんだ?」

「聞いてなかったのか?まぁお前色々あったわけだしなぁ」


 バードンが知らないとなると意図的に伝えられてない可能性もある。この話はしてもいいのかと考えて、大丈夫だと思い答える。


「森を切り拓いて活用しようって話がずっとあったろ。いよいよそれが本格化するらしい。で、お前の一件で改めてこの領域の出鱈目さが浮き彫りになったからな。色々と見直すらしい。だからだいぶ紛糾してるんだろ」





 開拓団の大会議室。


 ここには円く机が置かれ十数人の人が座っている。普段なら綺麗に片付けられ物静かな場所なのだが、今は紙が散らばり物が散乱している。

 会議はだいぶ行き詰まっており、疲労の色がやや濃い。


「とにかく人数だ。森を切り拓くなら人出が足りん」

「だからといって百人も増やすなんて無茶ですよ。寝る場所さえ無いんですから」


「それなら戦闘要員を増やせませんか?そうすれば安全性も高まりますし、備えにもなる」

「問題は質なのだ。腕に覚えがあるだけの者ではまったくもって役に立たん。新人どもの成長を促すしかあるまい。」


「まずは南からだろう?上手く行けば農地が作れる」

「作物は今まで通り補給都市から運んで来ればいいだろ!農地を作ったところでいつ襲撃されるかわからんのだぞ!?」


「西の鉱山。まずはそこまで道を拓きましょう。開発できればその後一気に拡張させることができます」

「そんなことしたら護衛がいくらいても足らんわ。あそこの魔獣を追い払うとなると何年かかるか分かったもんじゃない」


「周囲を徐々に切り拓き、基地を拡張していくのです。そうすればどんな事態にも対応できるのでございましょう」

「時間がかかりすぎる。この基地を作った時もそうだが、戦線を開き過ぎては駄目だ。狙いは絞るべきだ」



 一向に見通しが立たない状況が続く。

 誰かが意見をだせば、誰かが否定する。それでも根気強く討論を重ね、いくつかの案が纏まる。


「今年は今一度領域の中と開拓団の体勢を確認する。それと拠点の整備だ。今まで好き勝手に森の中に拠点を作ってきたからな。切り拓く前に整理する。それから今回のバードンが逃げ込んだ岩場、あれはカラミツデが以前に魔獣の動きを封じるために作ったやつだ。今まで使用されたことがなく有用性が分からなかったが、あれは使える。あれを参考にいくつか戦闘に向いた拠点を用意する。いわば小型の基地だな。昔から案だけはあったが、人が増えて落ち着いた今なら運用できるだろう。まずは拠点の整理からだな。小さいものや不便な物は全て破棄して、必要なとこを今以上に整備しよう。」


 ここで団長は一端言葉を区切りカラミツデの方を向く。


「頼めるか?人数は好きに持って行ってくれて構わない。お前以上の適任はいないだろう」

 そう言ってカラミツデに要請した。

「いいだろう。既に目星は付けてある」

 と、頼もしい返事が返ってきた。


 朝から始まった会議もとりあえず今日はここまでとし、皆へとへとになって帰っていった。

 だが、来年か再来年か、そう遠くなく訪れる偉大な挑戦に皆は目を輝かせていた。


 もちろん明日も会議は続き、皆がどんどん疲れていくのはまた別の話である。





 何だか言い知れぬ違和感をゲーコレードは覚えていた。


 日が暮れ始めたころに荷物置き場の片づけがようやく終わったが、食料がまだ届いて来ないため、3人はリビングで思い思いに過ごしている。

 ゲーコレードとしてもこんなに長居するつもりはないのだが、この違和感の正体を掴もうとしきりに二人を観察している。

 そこでバードンが立ち上がり、一言トイレと口に出しリビングを出て行った。


 いちいち口に出すなよ、と思いながらも


(はて?こいつはそんなことを口に出すことがあったか?)


 こんな考えが頭に浮かぶ。

 すると千夏もバードンの後を追い、トイレに向かっていった。

 そうなると、ゲーコレードもトイレに行きたくなる。

 結局三人でトイレに行ったのだった。



 食料が届かないので先に風呂に入ることにした。

 水を汲み魔道具で風呂を温める。30分ほどでしっかり暖かくなった。

 当然ゲーコレードは入らない。

 バードンと千夏が何やら相談している。どうやら千夏から先に入るようだ。

 するとバードンが風呂場の外で待機している。

 聞いてみるとここの風呂に慣れていないようで様子を見ているそうだ。

 覗こうかなと思ったが止めておいた。

 結局千夏が出るまで待っていたようだ。

 変態なのかな?声には出さなかったがそう思った。

 その後千夏も同じ様に待っていた。

 どうやら流行っているらしい。



 その後ようやく食料が届いた。届けたのは最近入った開拓団の事務の女の子だ。

 律儀にも呼び鈴を鳴らし、玄関で待っていた。

 バードンが玄関に行くと千夏も後に続く。

 ゲーコレードもその後に続く。

 事務の子は荷物を受け渡すとあっという間に去って行った。

 彼女はどうもバードンが苦手らしい。



 嬉しいことに弁当を持ってきてくれた。しかも3人分。

 どうやってかゲーコレードが居座っていることを知ったのだろう。

 ゲーコレードは地下の冷室から勝手にワインを取ってきた。

 するとバードンがチーズを取りに冷室に下りて行った。

 当然のように千夏がついていく。

 その後は3人で少し飲んだ。

 千夏は結構いける口らしい。

 バードンが席を立つと千夏が目で追う。

 部屋から出ると追って出ていく。



 ゲーコレードはサラダに入っているゆで卵の輪切りを食べながらその様子を見つめ、ふと思いついたことをついつい口に出す。


「親鳥と雛鳥かよ!トコトコついて回ってよ。あぁ、卵から生まれたってのは本当だったのか。最初に見たのを親だと思うって言うしな。するとバードンの妙な様子は親心が芽生えたからか!?」


 この後、卵から生まれたという話は一気に信憑性を増すことになる。


 二人の様子を見た人が揃って

「間違いない」

 と笑い合ったからだ。









読んで頂いてありがとうございます。

初めて小説を書きました。

感想やご指摘など是非聞かせてください。

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