第4話 たまごからでてきた。

 時刻はもうじき昼に差し掛かろうかというところで、バードンは非常に悩んでいた。当然昼飯をどうするかというようなことではない。目の前の女をどうすればいいのかということだ。


 とりあえず強いようには見えず、闘えるような気配もない。恐る恐る近寄ると、息はしているようで胸が上下している。よくよくみると仕立てのよさそうな服を着ており、靴まで履いている。


 おおよそ卵から生まれたとは思えない姿で、見た限りでは人間にしか見えない。


 だが、これ以上観察してもどうにもならないと思うと、もはやどうとでもなれと投げやりな気持ちで肩を揺さぶった。







 パチパチと瞼が瞬きしゆっくりと目が開かれる。その薄い瞼の下から出てきたのは黒い瞳のはっきりとした眼であった。


 その視線を中空に漂わせると、自身を覗き込む見知らぬ男に焦点を合わせた。


 すると段々と意識が覚醒したのだろう、みるみるうちに視線に感情が籠り、周囲を見やる。周りの光景が予期していたものと違っていたのか真っ青といっていいほどの表情になると、目の前の男が自分に手を伸ばしているのに気づいた。


 次の瞬間、体中から危機を察知する信号が発せられ、その警報を悲鳴という形で体外に放出しようとすると、男の大きな手で口を塞がれた。


 そこからは無我夢中でとにかくこの男から一刻も早く逃げようと全身を動かすが、塞がれた口からはくぐもった声しか出せず、強い力に身を抑えられ起き上がることすらできない。しとしきり暴れもがくと徐々に体から力が抜けていき、この拘束を抜け出せないことが分かると、もう一度男を見やる。


 すると、男がどうにも困ったような顔で唇を噛みしめており、自分は押さえつけられてるだけで、特にそれ以上のことをされていないことに気づいた。


 抵抗をやめると男が手を放した。


 それだけで体が随分と楽になった。


 男が何かを話しかけてくる。




「――――――――――――」




 聞いたことのない言葉で話す相手に自分も声を出す。



「あの、何を言ってるかわかりません。日本語は話せませんか?それとも、Can you speak English?」



 日本語と英語で返事をすると、男は目を見開いて達観したかのような顔で背を向けた。



 男が離れたのでようやく身を起こすと改めて周囲を確認する。岩肌のむき出しの場所でそれなりの広さがあり、どこからか光が差し込み結構明るい。


 その中心らへんの地べたに今まで寝そべっていたようだ。さっき暴れたときだろうかスーツが土まみれになってしまっていたので立ち上がり土を払う。


 ここまでのことを思い出そうとするが、朝出社して普通に仕事をしていた記憶しかない。見た感じ地下っぽいし地震に巻き込まれ、地下に落とされたのだろうか。




(そうだ!スマホだ!!)



 スマホを探そうと鞄の中にいれていたのを思い出すが近くに見当たらない。



(あの人なら知っているかな?)



 男の姿を探すとやや離れたところで、火をおこし何か作業をしている。


 改めて男の姿を見ると、身長は2メートルくらいありTVでも見たことないほどの凄まじい筋肉をしていて、熊だろうが何だろうがどんなものでも倒せそうな妙な迫力がある。


 そんなことを思ってしまうのは、炎に照らされて浮かび上がるように揺らめくせいか、ゲームから飛び出してきたかのような格好のせいなのか。いずれにしてもその雰囲気がまるで本物のようだった。


 そんな雰囲気に近づこうかどうか逡巡していると、向こうから声がかかり、どうやら呼ばれているみたいだ。




 男は料理をしていたようで、水とスープにパン、それと串に刺して焼いた何かのお肉を渡してきた。


 まさか、人肉じゃないよね?と、こんなところでどうやって入手したのかなと目を向ければ肉の大きなブロックがかなりの量おいてあった。


 お肉屋さんなのかな?と少し前に本気で抵抗したことなど無かったかのように暢気なことを考える。  



「何コレッ!!めちゃ美味い!」



 ついつい口に出した言葉は相手にも伝わったようで、いくらでも食べていいとばかりにお肉の刺さった串を次々に焼いていった。




 一通り食べ終えた後、地面に絵を書いたりジェスチャーをしたりと何とかコミュニケーションを得ようとするけど、互いに上手く伝わらない。


 特に男の方はしきりに手で大きな卵のような楕円を描いて体育座りをしたり私を指さすけどさっぱり意味が分からない。


 伝わったのは大きな声を出すなということと、私の鞄は無いということだけだった。


 すると男の方が先に諦めたようで、今度は私の服を見せろと、服を指さし、手を差し出してくる。ジャケットくらいならと脱いで渡すと、生地を引っ張ったり叩いたりして何かを確かめると難しそうな顔を作る。さらに靴を渡すとますます難しい顔をして、ここを動くなというように二度地面を指さすと奥の方に消えていった。




 戻ってきた男は大きな布を持っていた。男が立ち上がれと指をクイっと上に動かせば、私は素直に立ち上がる。すると、その布を被せられポンチョのように体を覆うような姿にされる。さらに足も靴を覆って膝まで布に包まれると紐でしっかりと巻き付けられ、ブーツのような格好になった。


 何故こんなことをされたのか分からないまま歩き出した男の後を追うと、今まで気づかなかった出口があり、そのまま外に出た。




 どうやら今まで洞窟の中にいたようで、さらに洞窟の外は森だった。


 頭が混乱し冷や汗が噴き出すが、歩みを止めない男の後ろを必死になってついていく。


 だが直ぐに男のペースについて行けなくなり、子供のように泣きだしそうになる気持ちを抑えて、男の服を掴む。


 男もまさかついて来れないとまで思わなかったのか、困った顔で顎に手をやり何かを考える。




 そこで急に鋭い顔をした男に私の肩を抑えられると、目を合わせてまたも手で口を塞がれた。


 ただ、今度は抵抗する気は起きず、その手のひらが妙に優しく感じた。


 状況は全く分からないけど、これから起こることは何となくわかった。


 身を低くして隠れながら男が向けている視線の方を見ると、案の定、見たこともない化け物がそこにいた。




 私はとにかく必死に息を止め、出そうになる悲鳴を噛み殺し続けた。




 この後のことはよく覚えていない。しばらく森の中を歩かされ、走ったり跳んだり何かを持たされたりと色んなことをやらされた。ただ全く現実感を感じられずに、人形のように男の指示通り体を動かした。


不思議と男の指示がすんなりと分かるようになった。
















読んで頂いてありがとうございます。

初めて小説を書きました。

感想やご指摘など是非聞かせてください。

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