第四章
第25話 判決
ヴィーダの起訴が取り消されて二週間後に、アフシャーネフの判決は下った。ヴィーダはその結果を、ミヌーが部屋に持ってきた朝刊で知った。
「ヴィーダ様、起きて今すぐ新聞を読んだ方がいいですよ」
カーテンの隙間からうすく差し込む光が、部屋をぼんやりと照らす早朝。
意味深な表情をしたミヌーから新聞を渡されたヴィーダは、ベッドの上でそれを見た。その一面の見出しには、アフシャーネフに死刑判決が下ったことが眼鏡無しでも読めるほど大きく書いてある。
つまりは親友が死ぬと決まったということであるため、その衝撃は重い。だが今まで覚悟してきたことではあるので、いざ告げられても冷静ではいられた。
だからヴィーダは取り乱すことなくベッドサイドテーブルに置いてある眼鏡をかけて、新聞の本文も読んだ。
細かな文字に目を走らせると、無味乾燥な新聞の文章が罪人としてのアフシャーネフを取り巻いている環境を語る。
裁判が始まって以来ずっとアフシャーネフは、すべての責任は自分にあり臣下は従っていただけだと主張していた。
その努力が功を奏したのか、結局アフシャーネフの他に戦争責任を問われて死刑になるのは首相、元帥、将帥、外務大臣の四人だけであると新聞は報じる。それは当初の大方の予想よりも、大幅に少ない人数であった。
国家元首であるアフシャーネフとしては自身だけが死ぬべきなのであり、この結果はそれほど納得のいくものではないのかもしれない。
だが少なくとも単なる伝令係として免責されたヴィーダは、正真正銘アフシャーネフの死の引き替えに生き残る形になってしまった。
(本当だったら、私もここに名前があるはずなのに)
ヴィーダは新聞を握り締めて、何度も読み返した。
さらに二面の記事にはアフシャーネフが死刑囚として今いるメフル宮殿から収容施設に近日移送されることも書いてあり、ヴィーダはより強く判決が決まったことを痛感する。
恵まれた家門に生まれ、他人の痛みを知らず、すべては必要悪だと思い込んで、ヴィーダは罪を犯してきた。
戦争に負ける前は勝ちさえすれば、戦争に負けてからは裁かれさえすれば、罪の代償を支払うことが出来ると思っていた。だがヴィーダはそのどちらも実現できず、償う方法を失った。
(私はアフシャーネフを救うためだと言い聞かせて、罪悪感を無視しようとしてきた。だけど今はもう、そうやって逃げてもいい理由がない。償うこともできないのに)
裁判中に向けられた罵声を思い出し、ヴィーダは自分が民衆や兵士につらい毎日を強いたことを痛感する。ヴィーダの目に映ったその憎悪はほんの一部で、きっと実際はもっと大勢の人々が国を戦乱へと導いた悪女のヴィーダを憎んでいるのだろう。
だが裁判を受けることができなかった今はその罪を死んで償うことはできないし、国やアフシャーネフのためと称して見て見ぬふりをすることもできない。
ヴィーダはこれまで、主君に罪を押し付ける臣下を蔑んでいた。だが今まさに、ヴィーダは主君を見捨てた悪女として死から逃れることになるのだ。
そしてさらに友達として守りたかったアフシャーネフ自身がそもそも最初から生きる意思に欠けた人物であり、まるで助かる気がなかったという現実を突きつけられたことで、ヴィーダは彼女に下された判決にどう反応すれば良いのかわからなくなる。
(私はどこから間違えていたのかな。それともアフシャーネフが死ぬことが間違いじゃないからこそ、私はそれを受け入れなきゃいけないの?)
ヴィーダは新聞を手にしたまま、考えた。
しかし部屋で一人考えたところで、答えは出るわけがなかった。
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