第12話 控え室にて
裁判終了後、ヴィーダは再びしばらく控え室で待つことになった。
車の準備に少し時間がかかるらしい。
控え室にはリオネルもいて、必要以上にくつろいで臙脂色のソファに寝そべっている。
「なかなかの滑り出しで、良かったですね。貴方は黙り込んだりとかするタイプじゃないので、弁護人の俺も楽でした」
リオネルは、向かいに座っているヴィーダに気の抜けた表情で笑いかけた。
軍服の上着を脱いで足を投げ出し、すっかりソファに身を預けているリオネルの大雑把すぎる言動に、ヴィーダは言おうとしていた感謝を引っ込めそうになる。
しかしリオネルが裁判にはよく役に立ってくれたのは事実であるので、ヴィーダは立ち上がって歩み寄り顔をしっかりと覗きこんだ。
「あなたの仕事がちゃんとしてたおかげで、私もよくしゃべれたんだと思う。助かったよ。ありがとう」
被告人に対してわざわざ適当に考えていることを表明するようなところはどうかと思うが、リオネルは何だかんだで優秀な人間だった。馬鹿っぽい振る舞いが多くとも、やはり仕事の成果に対してはきちんと評価はしなければならない。
ヴィーダがめずらしく素直に感謝すると、リオネルは面倒くさそうによそを向いた。
「そう褒められると、ちょっと居心地が悪くなります。大変なのはこれからですから」
「うん、そうだね。でもまずは、戦争に負けた後もこうして戦える機会があったことが良かったと思う」
謙遜ではなく本気で期待を嫌がっているリオネルに、ヴィーダはとりあえずの現状の満足を伝えた。
この軍事裁判は、結局は共和国の都合で行われる勝者の裁きだ。だがそれでもこちらに引き寄せて利用し尽くせば、何かしら得るものはあるような気がする。
ワイシャツ姿のリオネルは自分を見下ろすヴィーダをじっと琥珀色の瞳に映し、そして小さく笑った。
「前向きな人ですね、貴方は」
淡い色合いの茶髪が揺れて、真っ白な人形のような頬が緩む。
リオネルは常にへらへらと笑っている男である。だがこの笑顔は普段のそれとは違う含みがあるような気がして、ヴィーダは不思議な感覚を覚えた。今までは能天気な態度ばかりであったので、それだけではなさそうな表情を見せられると混乱する。
しかし別に、それ以上の感情は生まれない。
「私は図太いから。あなたほどじゃないかもしれないけど」
ヴィーダは深入りはせずにリオネルから離れ、自分の席に座った。
リオネルはヴィーダにとって未知の部分が多い人物ではあるが、そこまで無理して理解する必要性は感じられなかった。
「俺は案外、繊細ですよ?」
リオネルがソファの上でくすくすと笑う。
絶対に嘘だとヴィーダは思った。
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