第1話:マイペースな来訪者
ライブから一週間後。
ジェーンを除いたPPPのメンバーとマネージャーであるマーゲイは幾度とも知れぬ話し合いを行っていた。
「ジェーンの様子はどう?」
プリンセスの問いかけにイワビーとフルルは首を横に振った。
「相変わらずだぜ。今日も黙ったまま虚ろな目をして座ってる。俺たちの声も聞こえているんだかいないんだか」
「ジャパリまんも食べようとしないね。お腹減ってないのかな」
事件以降同じようなやり取りが毎日交わされていた。
会場に駆けつけたハンターたちの手によってジェーンは辛うじて救い出された。
だが、助かったはずの彼女は生きる気力が根こそぎ奪われたのか、抜け殻のようになり果てていた。
ハンターに同行していた博士いわく「セルリアンによって輝きを奪われた」ということらしい。
「どうやらセルリアンは二種類に大別できるらしいのです。お前たちもよく知っているであろう、取り込んだフレンズを元の動物に戻してしまうものの他にもう一つ、フレンズの持つ輝き――そうですね、活力や記憶などといったものだと思ってくれればいいのです――を奪ってしまうセルリアンがかつてはパーク中に数多く存在していたらしいのです。まさか現存していたとは思いませんでしたが」
正直なところプリンセス達に理解しきれる話ではなかった。
博士もそれを察したのかこう言った。
「一つ確実に言えることがあるとすれば、こうなってしまった以上、ジェーンがいつ元通りになれるかは誰にも分からないということです。――お前たちにとっても辛く厳しい戦いになるのですよ」
いつ元通りになるか分からないということは、最悪の場合元に戻らない可能性もある。
そんな考えを抑え込んでプリンセス達はジェーンに話しかけたり、口元にジャパリまんを近づけたり、軽く体を揺さぶってみたりと試行錯誤を繰り返したのだが。
何をしようともジェーンからは一切の反応も返ってくることはなかった。
こうして事態が進展する様子がないまま今日に至る。
「すみません、私がもっとしっかりセルリアンへの対策をしていればこんなことには……」
「マーゲイのせいじゃないだろ。黒いセルリアンが出たのだってもうしばらく前の話だし、セルリアンへの警戒が緩んでいたのはみんな同じだよ」
コウテイが言うように、黒いセルリアンの一件以降、セルリアンの脅威は激減していた。フレンズ達に気の緩みがあったのは事実である。
「ですが……」
「起こってしまったことを悔やんでも何も始まらないわ。私達は私達にできることをやるだけよ。そうでしょ?」
「プリンセスの言うとおりだぜ!立ち止まってくよくよしてたってロックじゃないぜ!」
「そうだな。一つ一つ今できることをやっていこう」
「それじゃ私たちは練習をしつつ交代制でジェーンのケアを、マーゲイは引き続きマネージャーの仕事をよろしく頼むわね」
「はい!」
「まだまだ先は見えないけど、みんな、頑張っていくわよ!」
オー!!と拳を突き上げた一同だったが、ふとフルルの姿が見えないことに気がつく。
「ちょっと、フルルがどこに行ったか知らない?」
「あれ?さっきまでそばにいたはずなのにいつの間に……」
「あの娘ったらこんな時でも相変わらずね……」
プリンセスはそう言ってため息を吐いた。
みずべちほーのどこか。かつてはヒトが使っていたであろうプレハブ小屋をアデリーとキングとヒゲッペはねぐらにしていた。
「……」
アデリーは薄暗い部屋の片隅に体育座りをしてジャパッドでジェーンの動画をぼんやりと見ていた。
「なぁおい――」
「ヒゲッペ。そっとしておいてやれ」
アデリーに声をかけようとしたヒゲッペをキングが制した。
「けどよぉ、ここ最近ずっとあの調子だぞ」
「まだ気持ちの整理がつかないんだろ。無理もないさ、目の前で好きなアイドルがセルリアンに丸呑みにされたんだ」
「確かにあん時のアイツ、ひでえ有様だったもんな……」
二人の手で無理やり会場から連れ出された後、なおもアデリーは暴れ続けた。
そして、自分たちに為すすべがないことを悟ると、今度は泣き叫んだ……。
体力を使い果たし眠ってしまったアデリーを背負って家路に着いた二人。
その足取りはいつになく重たいものであった。
それからというもの、アデリーは以前にも増して口数が減り、暇さえあればジャパッドでジェーンの動画をぼんやりと眺めるようになっていた。
「ちょっと前まではアデリーのヤツ以前より明るくなったなって思ってたんだけど、まさかあんなことなるなんてな」
「なあ、やっぱりオレ目の前でアイツにずっと腑抜けられていると気持ちが落ち着かねえんだよ。ここは一発ガツンと――」
バカなマネはよせとキングがヒゲッペを制止しようとしたその時だった。
コンコン、と何者かがドアをノックする音が響いた。
「はいはいどちら様――ってええ!?」
「アデリーちゃんはいる?」
キングが驚くのも無理はない。
目の前にいたのはジェーンと最も関わりが深い人物の一人、PPPのメンバーの一人であるフルルだったからだ。
「あ、いた」
フルルは部屋の奥にアデリーの姿を確認すると。
「ってオイ、何勝手に上がり込んで――」
困惑する二人には目もくれずにフルルは小屋に上がり込むとアデリーのそばまで近づいていった。
「フルルさん……?」
アデリーとフルルの視線が交錯した。
「ついてきてほしいところがあるんだ」
「一体何を言って――」
「――あなたにジェーンに会ってほしいんだよ」
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