とびきりの「わたし」

荒野豆腐

プロローグ

 アデリーペンギンのフレンズであるアデリーはキングペンギンのキングとヒゲペンギンのヒゲッペと共にPPPのライブを観戦していた。

「そういえばヒゲッペさん、遊園地ではライブには絶対行かないって言ってたけどなんだかんだで来ましたね」

 アデリーとジェーンは遊園地でオフ会をしたことがある。

 その際こっそり様子をうかがいに来ていたキングとヒゲッペは同じくこっそりついて来ていたPPPのメンバー達に次回のライブに行くことを約束していたのだ。

「なんだかんだヒゲッペは律儀なところがあるからな」

「別にお前らがどうしても行きたそうだったからついてきただけだ」

「そういうことにしておきますよ」

 今日もPPPのライブは大盛況であった。

 メンバーの歌と踊りに客席から黄色い歓声が幾度となく上がる。

 ライブの盛り上がりが最高潮に達しようとしていたその時だった。

「次の曲は私達の原点であるあの曲よ。みんなももちろん知っているはずよね。行くわよ!大空ドリー――」

 マーと言いかけたところでプリンセスのMCは突如聞こえてきた悲鳴によって遮られた。

「ちょっと!?一体何事なのよ!?」

 その答えはステージの裏手から姿を現した。

「なっ……セルリアン!!」

 突然現れたセルリアンの群れに観客席は騒然とする。

「皆さん慌てないで!指示に従って落ち着いて避難を……!」

 必死に呼び掛けるメンバー達だったが。

 肉食恐竜によく似た姿をしたセルリアンがのしのしと一番手近にいたジェーンのもとに歩み寄った。

「あっ……」

 群れの中でも一際大きいそのセルリアンの放つ威圧感にジェーンは思わず硬直してしまう。

「ジェーンさん!!逃げて!!!」

 アデリーの叫び声にハッとしたジェーンは足をもつれさせながら逃げようとするが。


 ――ほんの一瞬。セルリアンの首が伸びたかと思うとまた元に戻った。


 多くの者の目にはそのようにしか見えなかった。

 だが先ほどと違い、ステージの上にジェーンの姿は、ない。

 その事実があの一瞬で起こった出来事を物語っていた。

 束の間の静寂の後、憧れのアイドルが目の前でセルリアンに飲み込まれた事を理解したフレンズ達は半狂乱に陥った。

「そんな……っ!?ジェーンさんが……!?」

「ヒゲッペ!アデリー!逃げるぞ!」

「待ってください!ジェーンさんが……!」

 ステージへと駆け寄ろうとするアデリーの腕をヒゲッペが掴む。

「あんなデカブツ相手にどうするってんだ!いいから逃げんぞ!!」

「イヤ!!!放して!!!」

「キング!お前も手伝え!」

「承知した」

 キングとヒゲッペはアデリーの両腕を掴み、暴れるアデリーを引きずるように会場を後にするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る