4-8

◇◇◇


「予定を遥かに越えた旅となってしまい、大変申し訳ありませんでした!」


 ようやく戻った我が家の玄関先。

 レイさんが私の両親に深々と謝罪します。3泊4日の約束が10日になってしまったことに対しての謝罪です。


「確かに約束は守っていただけませんでした。ですが、連絡も貰ってますし、ユエが無事に帰ってきたなら、私達はそれで……」


 お父さんはレイさんに頭を上げるように言います。

 帰宅が遅れるとわかった時点で連絡は入れており、また、道中の様子も逐一連絡していたのが良かったのでしょうか。

 両親はそこまで怒った様子を見せませんでした。

 もしかしたら、レイさんが国の最高騎士という立場を鑑みて、強く出られなかったのもあるかもしれません。


「それに、旅のおかげで魔術の不具合も治ったようですから、これくらいの超過はやむを得なかったのだと目を瞑りますよ」


 お母さんが、私の頭を撫でながら言います。

 そうです。マナの泉の異変を解消したおかげで、国中の魔術が正常に戻ったようなのです。

 両親はそのことについて、「大したことをやってくれた」と誇らしそうに褒めてくれました。 


「娘は……うちの娘の目は役に立ちましたか」


 そう問う父に、レイさんは深く頷いて答えました。


「ええ、それはもう」


 私はその言葉を聞いて、誇らしい気分になりました。

 旅の道中ではお世話になるばかりで、あまり貢献できなかった気もしますが、それでも一翼を担ったのだと、実感が湧いてきたのです。

 そして、「実感が湧いてくる」といえば――。


 丁度その時、母が周囲を見回してレイさんに尋ねました。


「あの、キャロルさんはどうされたんでしょうか。あの方にもお礼を言いたいのですが……」


 そうです、キャロルさんのこと。

 旅がもう終わりになるのだと理解するにつれて、じわじわと染み込むような喪失の実感。


 ……キャロルさんは、もういないのです。


 帰途では平気だったのに、胸を突き上げるような衝動が湧いてきます。


「えっと、姉上――キャロルのことですが、それはですね……」


 レイさんは、私を気遣ってか、言葉に迷います。

 ありがとう、レイさん。

 その優しさが嬉しくて、余計にこみ上げてくるものがあって、涙が溢れ出しそうになったその時に。


 ――『それじゃあ、また』。


 そんな、別れ際に残した彼女の言葉を思い出して。


「――っ」


 私は気丈に振る舞うでもなく、自然に言葉を紡ぎ出そうとしていました。

 涙ではなく、もっとこの状況に適切な表情があるのだと、思い出したから。


「あの人は、キャロルさんは、新しい旅にでかけました。でも――」


 キャロルさんの残した言葉を信じて、、私はこう言うのでした。


「また、そのうち会えると思います!」


◇◇◇


 それから、日々は過ぎていきます。

 私はその時の流れの中で、徐々に楽しかった冒険を忘れつつありました。


 でも、私は嫌でした。

 そうやってあの日々が薄れ、忘れていくことが、とても嫌でした。

 なんとか歯止めをかけたいと思いました。

 だって、”あの言葉”を忘れたくないから。

 いつまでも、彼女の「それじゃあ、また」を、強く強く信じていたいから。


 そこで、ひとつの決心をします。


 私を旅に導いてくれた魔女が、出会った夜に語ってくれたことを思い出したからです。

 それはとっても素敵で、やりがいのあることだと、そう思ったから。

 だから、私は――。

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