2-5

◇◇◇


「スライムも片付き余裕が出来ましたし、助けて頂いた恩もありますので、魔術の不具合の件、ご助力致します」


 スライム退治の後、私たちは王城内のレイさんの執務室に呼ばれ、そう告げられました。

 私は達成感と共に喜びの声を挙げました。


「やりましたね、キャロルさん!」

「うん、ユエちゃんのおかげだよ」


 キャロルさんは私の頭を撫でた後、羽ペンを取り出して言います。


「じゃあレイは、呼んだらマナの泉に来てね。あ、ここ転移陣描いても平気?」

「あぁ、はい。しかし、転移陣ですか……。いえ、この命に代えてもちゃんと向かいますとも……えぇ……」


 キャロルさんが転移陣を描くのを眺めながら、なんだか嫌そうな表情をするレイさん。私は少しそのことが不思議でしたが、それよりも楽しみなことがあったのですぐにその疑問は忘れてしまいました。

 私はレイさんに尋ねます。


「それで、今日はお城に泊まってもいいんですよね!?」

「えぇ。陽も沈んでいますので、本日は王城の客室でゆっくりとくつろいで下さい」

「やったー!」


 王城でお泊りだなんて、夢みたいです。王城の中に入れただけでも嬉しいのに、まさか泊まれるとは思ってもいませんでした。

 レイさんが微笑みつつ、執務室のドアを開けて言いました。


「では、客室に案内致しますので、こちらにどうぞ」


◇◇◇


「わー! 凄い、フカフカです! ずぶずぶと沈んでしまいそうなくらいフカフカです、このベッド!」


 私は早速、客室の豪華っぷりにはしゃいでいました。

 キャロルさんは私のそんな様子を見て、笑いながら言います。


「あはは、凄い喜びようだね。でも、あんまりはしゃぐと興奮して寝れなくなるよ?」

「むっ、それもそうですね。もうちょっと大人しくします」

「うんうん、良い子だ。じゃあ、良い子には面白い話をしてあげよう」

「面白い話、ですか?」

「うん。スライム退治の最後、『どうして都合のいいタイミングに私が現れたのか』って思わなかった?」


 そういえば、確かにそんなことを思った記憶があります。あの時キャロルさんは転移陣で私達の所に飛んできましたが、酒蔵の前で私達が悩んでいると分からなければ酒蔵に転移してはこれないはずです。

 キャロルさんはカバンの中から何事かを取り出して言います。


「じゃーん! 実はこの『遠見の鏡』を使っていたのでしたー!」


 それは、手鏡の形をしていました。しかし、鏡の部分には向かい合っている私の顔ではなく、どこか別の景色が映っています。


「『遠見の鏡』……?」

「そう。これは、遠くの見たいところを見られる魔術道具なんだよ。これでレイとユエちゃんの様子を見守ってたんだ」

「な、なるほど! そんな凄いアイテムがあったんですね」


 つまり、キャロルさんは私達がスライムを追う一部始終をそのアイテムを見ていたということみたいです。

 ん、一部始終……? それって、つまり……。


「いやー、面白いもの見せてもらったよ。ユエちゃんもやっぱり乙女なんだねー。

「な、なななな……!」


 私はキャロルさんの言葉で顔が赤くなるのを感じ、思わず言葉が出なくなりました。

 キャロルさんは私の方を見て、それはもう意地の悪い笑みを浮かべて言います。 


「可愛かったなぁ。冷静を装ってるけど、何度もレイの顔を見て恥ずかしがってるユエちゃん!」

「う、うぅぅ……! 見てたなら言ってくださいよー!」

「あはは。さーて、私はそろそろ寝ようかなー?」

「あ、逃げないでくださいー!」


 ……まったく、興奮して寝れなくなったらどうするんですか。


 しかし、そんな心配も杞憂に終わり、その夜もぐっすりと寝れたのでした。

 色々な体験をして、疲れていたのだと思います。


◇◇◇


「では、私はここまでですが、またマナの泉で会いましょう」

「うん、見送りありがとね」


 朝食を食べてから、私たちは王城の門の外まで来ていました。

 次の目的地に行くためです。

 レイさんとはひとまずお別れです。別れ際、レイさんが言いました。


「そういえば、『アヤカ』にはもう声を掛けたのですか?」

「ううん、あの子には今から声を掛けに行くところ」

「なるほど」


 アヤカさんとは一体どなたのことなのでしょう。二人の共通のお知り合いみたいですが。

 私が疑問符を浮かべた表情をしているのを見て、キャロルさんが補足をしてくれました。


「『アヤカ』っていうのは、”流れ星の魔女”のことだよ」

「えっ、”流れ星の魔女”さんですか! 私、”流れ星の魔女”さん大好きです!」


 私の反応を見て、キャロルさんとレイさんは顔を見合わせた後、気まずそうに言いました。


「うーん、もしがっかりさせちゃったらごめんね」

「ユエさん……」

「えっえっ? がっかり?」


 二人の憐れむような視線の意図は、この時の私には理解できませんでした。

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