2-2
◇◇◇
「わぁー! 凄い! 凄いです!」
私は応接室までの道中、一人で歓声を上げていました。
豪華なシャンデリアに、
それらすべてが私に感動を与えてくれます。
「……ユエちゃんがこうも喜ぶなら、王城に来た甲斐もあったね」
はしゃぐ私に対して、少し元気がなさそうに呟くキャロルさん。
何故だか、お城に入ってからずっとこんな感じです。
私はその様子が気になりましたが、キャロルさんは「気にしないで王城見学していいんだよ」と言いました。ですので、少し申し訳なかったですが、存分に見学を楽しませてもらっています。
「では、こちらにお掛け下さい」
レイさんに案内された応接室に入り、ソファに腰掛けます。
驚くことに、ソファも大変フカフカで沈んでしまいそうなほどでした。
壁に飾られた鹿の角や、隅に立っている空の甲冑など、部屋の様子もお城っぽいです。
「しかし、本当に男性なんですね」
レイさんも腰掛けるのを見ながら、私をそう呟きました。
座っていても、背が高く身体がしっかりしているのがわかります。
彼は笑い、私に尋ねます。
「夢を壊しちゃいましたかね?」
「いえ! そういうわけではなく、ただ驚いたというだけで……!」
慌てて否定すると、キャロルさんが補足します。
「本を書くときにさ、『大いなる魔女の弟子は三人共女性にした方が統一感でるかなー』って思ってさ。物語では女として書いちゃったんだよね」
「統一感!? 意味がわかりません!」
「えー? ”本の魔女”、”流れ星の魔女”、”結界の変態魔法使い”って統一感に欠けない?」
「それは……確かに……? え、変態?」
レイさんは、呆れた表情で言いました。
「こんな紳士を捕まえて誰が変態ですか。まったく、姉上は。あの妙な改変によって何度誤解されたことか……」
それから彼は、私の方に歩み寄ってきて、手を差し出しました。
「改めて自己紹介を。私は、レイと申します。見目麗しいレディ、どうかお名前を教えて頂けないでしょうか?」
年上の男性からレディと大人扱いされて、私は思わず戸惑ってしまいます。顔が熱くなるのを感じながら、私は差し出された手を握ります。
「れ、レディだなんて勿体無いお言葉です……。えっと、ユエと言います。よろしくお願いします!」
レイさんの手は大きくしっかりしていて、とても優しく握り返してくれました。男性だったのはびっくりしましたけど、「これはこれでいいな」などと考えている自分がいました。
でも、続くレイさんの言葉には、もっと戸惑うことになるのでした。
「ユエさん、ですか。とても温かみのある瞳をお持ちだ。良かったら、私と婚約などいかがでしょうか?」
「ッ!? こ、婚約……ですか!? え、えー!?」
婚約ということは、すなわち結婚の取り決めということですよね。どうしよう!
まさか、この年で男性からプロポーズされることがあるとは思ってもいませんでした。しかも初対面の人に。
「まだ知り合ったばかりだから、お互い段階を踏んでからの方がいいと思う」とか「格好良くて優しそうだから、いっそのことオーケーしちゃえば?」とか「『婚約などいかがでしょう』なんて誘い方が軽すぎます」などと私の脳内会議員たちが一斉にそれぞれの意見をまくし立てます。
そうして混乱していた最中、キャロルさんが守るように私を抱き寄せて、レイさんに言いました。
「こら! またそうやって、幼い女の子に婚約を迫らないの。ユエちゃん困ってるじゃない」
「え、姉上はユエさんと私をお見合いさせようと訪ねてきたのではないのですか?」
「全く違う要件よ。……貴方の幼女趣味にも困ったものだわ」
ため息をつくキャロルさんの言葉を聞いて、私はようやく現実的な思考に戻ります。
レイさんは成人してる男性なんですもの。幼女趣味という変わった好みでもなければ、まだ子どもの私に求婚なんて、普通はしてこないはずです。
おそるおそる、レイさんに尋ねてみます。
「仮に私が結婚を承諾したとして、レイさんは私が成長して大きくなった後でも愛してくれますか?」
「ははは。ご冗談を。本当に素敵な幼女は、成長などしないものですよ。成長するような幼女は紛い物なんです」
はい。レイさんは紛い物ではなく本当のおかしな人だったみたいです。ちょっとでもその気になりそうだった私をぶん殴ってやりたいです。
「その理屈ですと、レイさんは今紛い物に求婚していることになってしまいますが……」
「いえ、そんなはずはありません。……ありませんよね? ユエさんは成長しませんよね!?」
「着々と成長していますし、これからもする予定ですが」
「そんな! 嘘だと言ってくれー! うぉー!」
キャロルさんは、呆れた表情を浮かべながら地に伏せ嘆くレイさんに語りかけます。
「気が済んだら、私の要件を聞いて欲しいんだけど、いいかな?」
「……あぁ、はい。わかりました」
レイさんは涙を目の端に浮かべつつも、向かいのソファに腰掛けます。
そして涙を拭った後は、キリッとした表情で聞く態勢になります。意外と切り替えの早い人みたいです。
さすが、”結界の魔女”というところでしょうか。その点は評価したいです。
キャロルさんが、口を開きます。
「最近、魔術の不具合が起きてるのは知ってるでしょ? それでね――」
そうして、私が『マナの泉』で見たものや、私達の目的をレイさんに話しました。
真剣に話を聞いていたレイさんは、聞き終えると頷き、こう言いました。
「なるほど。確かに魔術の不具合には王国民も困っていると聞きます。先程の馬車の暴走も、その不具合がどうやら関係しているようですね。私も是非協力したいところです。ですが――」
残念そうに、レイさんは言います。
「私は聖騎士団として城の守りをしなくてはならないのです。その任務が現在大変忙しいのです」
「なんでよ? 別に他の国が攻めてきているとかそういうわけではないでしょ?」
「一つは、その精霊魔術が弱まっていることによって、王城の守りが手薄になっているのが理由です。兵を町の守りに割いていましてね。まぁ、こちらの問題は数日空ける程度なら問題ないのですが。もう一つの問題が厄介でして……」
レイさんが苦々しい表情で続けます。
「最近、夕方になると大量のスライムが何処からか王城に湧き出てきて、それの対処を毎日しなくてはならないのです」
「スライム? スライムなんて簡単に――あぁ、いや、レイはスライムの対処は不得意かもね」
「はい。ご理解いただけましたか」
確かに、今王城でも問題が起きてるなら、聖騎士団長として城の守護が任務であるレイさんは動けなさそうです。
でも、マナの泉の問題の解決にもレイさんが必要ですし、困りました。
どうしよう、と視線をキャロルさんに向けると、彼女は何かを思いついたような顔でレイさんに言いました。
「じゃあ、そのスライムの湧き出てくる原因をなんとかすればいいのよね」
「姉上が協力してくれるなら、百人力です。しかし、姉上でも中々難しい問題だとは思いますが……」
「大丈夫よ。だって、ユエちゃんがいるもの」
「ユエさんが?」
そこでいきなり名指しされ、私は驚きます。スライムを撃退できるような方法なんて知りませんし、できません。
しかし、キャロルさんは微笑んで言いました。
「ユエちゃんの『魔眼保持者』としての力を借りれば、簡単よ」
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