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◇◇◇

 

 お姉さんは、この場の人達を見回しながら説明を続けました。


「私は魔術の不具合の原因をなんとかしたいと思っているのですが、原因を探ろうにも私の力不足でうまくできません。そこで、ユエさんの持つ特別な力をお借りしたいのです」

「その特別な力って、具体的にどういうものなのでしょうか? もしかして、ユエがよく言っている感情の色が見えるというのが、特別な力なのでしょうか?」

「そうです。まずはそれについて説明しましょう。ユエちゃん、今日買った”あの本”、持ってきてくれる?」

「わかりました」


 私は言われた通り、リビングに置いていた「魔女と三人の弟子」の本を持ってきました。

 すると、お姉さんは私の両親に尋ねました。


「お父さんとお母さんには、この本がどう見えますか?」

「どう見える、と言いますと?」

「表紙の色は何色ですか?」

です」

「同じく」


 両親の返答に私は驚きます。だって、この本はどう見たって……。

 お姉さんは頷き、今度は私に聞きます。


「ではユエちゃんから見た表紙の色は?」

です。キラキラと光って見えます」


 両親は怪訝そうな表情をします。

 お姉さんは二人の表情を見て、静かに言います。


「信じられない、といった表情ですね」

「えぇ。ユエはたまに、おかしな嘘をつくものですから……」

「確かに、嘘のように思われることをユエさんは仰っていたかもしれません。ですが、それらは全て彼女にとっては真実なのです」


 そこでお姉さんが説明を始めました。


「この本は、『魔眼』と呼ばれる特殊な素質を持つ人にのみ光って見える本なんです。ユエさんはこの『魔眼』保持者であり、他の人には見えない特定の魔術や魔術に関するものを光として認識することが出来ます」


 町長さんはそれに深く頷きました。


「魔眼……聞いたことがありますぞ。私も伝え聞いたことしかないが、稀にそういう才能を持った人が生まれるとか」


 町長さんの言葉に、両親は顔を見合わせます。

 

「では、その魔眼をうちのユエが持っているとして、どうして感情を色で見ることができるのですか?」


 お母さんが尋ねます。お母さんは、困惑の色を浮かべています。

 お姉さんは、手から淡い光――マナを灯しながら答えました。


「お母様にも、私の起こしたマナは見えますね? この魔力というものは一般の人には、白い光として見えます。でも、ユエさんを含む魔眼保持者には、その時抱いている感情の色で見えるみたいなんです」

「……魔力は感情を源として励起されるのが基本。起こした魔力にもその感情が色濃く映っていて、それがユエには見えるということですか?」

「はい、その通りです」


 お姉さんの言葉に、お母さんは「なるほど……」と私の方を見ます。

 お父さんは、しばらく考えるように目をつむってから、私に視線を合わせるように、屈んで言いました。


「きっと、騎士様と町長さんが言うのなら、本当のことなんだろう。ユエ、今まで疑って悪かった」


 お父さんの口から出てきたのは、謝罪の言葉でした。

 お母さんも続いて、頭を下げます。


「ごめんね。自分の子供なのに、信じてあげることができなくて。許してもらえないかしら」


 私は、信じてもらえるようになったことが只々嬉しくて、間髪入れずに答えました。


「はい! 信じてもらえたなら、それでいいです」

「ユエ……!」

「ありがとう!」


 町長さんは私達家族のわだかまりが解消されたのを微笑ましそうに見てから、両親にこう頼みました。


「魔眼の力があれば最近の魔術の不具合についてわかるかもしれない。私からもお願いします。お二方、どうかユエくんを連れて行く許可をくださらぬか。ユエくんと騎士様の力で精霊魔術を使う人々を救えるかもしれない」


 深々と頭を下げる町長さんに対し、お父さんが快活に答えました。


「騎士様だけでなく、町長さんにまでそう言われてしまっては、私どもとしては断る理由はありません」


 一方で、お母さんは不安そうな顔をしています。

 その様子を見たお姉さんは言いました。


「ありがとうございます! それでは先ほどお話した通り、明日よりの四日間、ユエさんをお借り受けいたします。この騎士勲章にユエさんの身の安全を誓います。この力の限りを持ってあらゆる危害よりユエさんをお守りいたします」


 心からそう誓っていることが分かる、力の篭った声でお姉さんは言いました。それからお母さんに向かって話します。


「……しかし、お母さまは、どこか不安に感じるところがあるようですね。大事なお子さんを預けるには、いささか私が頼りなく見えるのでしょう」

「そんな、滅相もありません」


 そう答えたお母さんでしたが、やはりその不安の色は消えません。


 お姉さんは微笑み、言いました。


「実はお昼頃、先走ってユエさんに直接お話を持ち掛けたのですが、その時にも私の力を信じて貰うことができず、人攫いと間違われてしまいました」


 「騎士様になんという無礼を」と、お父さんは私を叱りました。

 反射的にごめんなさいと謝りましたが、すぐに理不尽だと思い直し、とても悲しくなりました。だって、あの時のお姉さんは怪し過ぎました。

 今とは態度が全く違います。それどころか、名乗る身分からして変わっています。 だってあの時は「自分は魔女の弟子だ」って言ってたじゃないですか……!


「聡明な娘さんを責めないであげて下さい。間違われた後、何故信じて貰えなかったかを考えました。そうして思い返すと、確かに私の言動の方に問題がありました。力を証明すると言って見せた品も、どれも簡単に入手できるものばかりで……。だから私を人攫いと断じたユエさんの判断は正確だったと思います」


 お姉さんはそう言って庇ってくれました。

 そうです、もっと言って下さい! 私は悪くありません!


「そして考えました。どうすれば私の力を示すことができるのだろうと。……お母さまとユエちゃんには、是非これを見て頂きたい」


 そう言ってお姉さんはカバンから何かを取り出しました。


「これが、私の騎士の力の証明です!」


 そう言って、お姉さんが手に乗せて自慢げに見せてきたもの。

 それは、小さなケースに入った乳白色のカエルでした。


 私もお母さんも、ぽかんと口を開けてそのカエルを眺めるしかできませんでした。

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