第14話 凡人を逃がした領主達
「なんだと!?」
男性の報告を聞いてその男は声を荒げた。
「本当なのか?」
「はい。制止も聞かずにこの街を出ました。話は冒険者ギルドから聞けと」
昨日、街で話題になった、土竜を斃した青年。冒険者でも斃せるものが少ない土竜を恐らく一人で倒した実力持ち。そんな彼と冒険者ギルドは対立したらしい。
「アバンダよ、この騒動をお前はどう見る?」
「はっ、恐らく全面的にギルドが悪いかと」
筆頭秘書のアバンダに問うと彼はこう答えた。
「私もそう思う。言い争いの声が外まで聞こえ、一般市民にまで聞かれていた。ギルド側が何を言おうとギルドに非があるのは間違いない」
領主――ボルパルト・アシッダは首肯しつつ溜息をついた。
なんせ、国営の冒険者ギルドが一個人と揉めたのだ。それも権力や武力を振りかざした状態でだ。それに一歩も引かずに敵対したと捉えかねない発言をしたらしい。
「馬鹿な真似をしたものだ、冒険者ギルドは」
彼らは冒険者が一番だと思っている節がある。相手が嫌がっているのにもかかわらず、強いなら戦うべきだという考えがある。
今まで特に問題がなかったため、そのままにしていたがまさかこんなところで問題が発生するとは‥‥‥。
「ボルパルト様。ギルドマスターが到着いたしました」
「通せ」
さて、どんな言い訳をしてくるか。
「お待たせしまして申し訳ありません。ギルドマスターのファエルド参上しました」
「座るといい」
ギルドマスターが座り、執事が彼に茶を出したところで早速本題に入る。
「聞けば土竜を斃すほどの実力者と揉めたそうじゃないか」
「そのことに関してですが――」
彼の内容を要約すると、やはりというか冒険者が至上という考えのもと、彼が先に手を出したことにしている。
「つまり、その青年は冒険者は野蛮で加入するつもりはないと言いながら暴れだしたと、そういうことか?」
「その通りです! 今すぐ彼を指名手配してここに引きずり出しましょう!」
「引きずり出してどうするのかね?」
「冒険者がいかに誇り高い職業であるか実際に入って体験してもらいます」
やはり、それが目的か。罰だとか言いながら実際は己の傀儡として扱えるようにしたいのだろう。
「――分かった」
「では!」
「今回の騒動の処分は、貴様のギルドマスターの辞任と実際にその青年に危害を加えようとした者の処分とする」
「な、何故ですか!?
「私がこの騒動について何も知らない、何も調べないとでも思っているのか?」
この男は愚かだ。市民のほとんどが知っている真相を私が知らないと思っている。調べないと思っている。
「私は常に街の情勢について気にかけている。騒ぎがあれば即座に情報収集できるだけの体制も整えてある。そんな私が今回の騒動について何一つ知らないと思っているのか?」
「そ、それは‥‥‥」
「貴様は私が無能だと思っているのか?」
ここで正直に話せば考えを改める余地もあったかもしれないが、口から出てきたのは完全に青年を悪者に仕立て上げたものだった。
「貴様の『冒険者至上主義』には前から疑問があった。冒険者が素晴らしい職業だとするならば、何故他に職業が存在する? 何故騎士や衛兵がいる?」
「貴様は冒険者が誕生した理由を知っているか?」
「い、いえ‥‥‥」
だから冒険者が一番だと思うのだろう。一般に見れば冒険者は自由で強くて一獲千金の夢がある職業だ。だが――。
「冒険者は元々『命を大事にしない荒くれ者』の蔑称だ」
私は現実を突きつける。
「危険を冒し、周りにかかる迷惑を一切考えない馬鹿達のことを皮肉と蔑みを含めてそう呼んでいたのだ」
今ではしっかりと組織されて市民に迷惑をかけるものはあまり見かけなくなったが、元々はそういった意味だったのだ。
「貴様のやったことは『
言うべきことは言った。王都の本部にも正式な抗議を入れる予定である。
「私からの話は以上だ。このことは王都の本部に正式に抗議を入れ、正式な調査をしてもらった後貴様らの処分をしてもらう。大人しくしておけ」
頭を垂れたままのギルドマスターを近衛兵に頼んで屋敷から退出させる。
「どうしたものか」
この街に恩恵をもたらしてくれるはずだった人物を逃してしまった。
「もう二度と来てくれないかもしれない」
青年と友好的な関係を築けていたなら、どれほどの利益が入ったことだろうか?
「いかがなさいますか」
途中で侍女が入れた茶を飲みながら考えていると、アバンダが尋ねてくる。
「まずは言った通り冒険者ギルドへ抗議の手紙を送る。そして青年を探し出し、謝罪させるよう通達する。それと同時に秘密裏にだが、我々でも彼を探し、来てくれるように頼むつもりだ」
「かしこまりました」
早速手紙を二通、王都へ送る抗議の手紙と、探し出して本人に渡すための謝罪と招待の手紙を書いた。王都への手紙を御用達の商人に届けてもらい、もう一通は捜索隊に持ってもらう。ばらけて捜索してもらうため、彼への手紙は複数用意する。
「再び彼がやってくると良いのだが」
最強にさせられた自称凡人は平穏を望む 石川将生 @Ishikawa_Shouki
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