第11話 凡人、到着する。

 朝早くに起きて、身支度と朝食を済ませた後、念話を繋げて出発する。


 皆との話は専ら、それぞれから教わったことに関することだった。道中にこんな魔法があったら便利だろうなぁということや、教わった調合のアレンジを提案してみたり、逆に向こうから問題を出されて頭を悩ましたりなど和気藹々と話をしながら歩みを進めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そんな感じで歩くこと五日。ようやく最初の街に到着した。


「ようこそ。マルイナへ」


 門番さんの歓迎を受け、通行料を払って中に入る。


 街は賑わっていて、村とは違うと改めて実感した。


「とりあえず、売れるモノを売ろう」


 どうしたらいいかわからなかったため、門番に聞くと、採取したり狩ったりして得たものはギルドで売れるとのことだった。場所を教えてもらい、早速向かう。


 ギルドは街の中央近くにあった。武器を持ち、鎧を着こんだ冒険者が多くいた。


 僕はまっすぐ進んだところにある受付の列に並んだ。前に並んでいる冒険者がチラチラとこっちを見ている。


「次の方どうぞ」


 僕の番になり、受付に向かう。


「ようこそ冒険者ギルドマルイナ支部へ。本日はどのような要件でしょうか?」

「素材を売りたいのですが」

「かしこまりました。ではこちらにお載せください」


 受付嬢が取り出した籠の中にできるだけたくさん素材を載せていった。初めはにこやかな笑みを浮かべていた彼女だったが、僕が素材を積むにつれて驚いた表情に変わっていった。


「これでお願いします」


 僕の持っていた量の数%しか、籠に入れられなかった。あまり多くても換金に時間がかかるらしい。とりあえず数日分の食費と宿代が手に入れば良いし、その程度にしておいた。


「あ、あの……これは一体……?」

「え? オオトカゲの皮と鱗、それから狼の毛皮ですけど?」

「しょ、少々お待ちください」


 受付嬢はそれだけ言うと、カウンターの奥に行ってしまった。


 首を傾げながら待っていると、大柄の男がやってきた。


「これはどこで手に入れた?」

「え? 地元の近くの森の奥でしたけど」


 男の質問にそう答えた。出した素材の半分ぐらいはフェルから譲り受けたものだから、手に入れたという意味では間違いではない。何処で狩ったかは知らない。


「そうか……。お前、冒険者にならないか?」

「いえ、なる予定はありません」

「その実力でか?」


 冒険者になることを拒否したらその男は睨んできた。


「この、お前がオオトカゲと呼んだこれはな、土竜だ。竜種では最弱だが、それでも大抵の冒険者では太刀打ちできないやつだ」


 オオトカゲの素材を指さしながらそう言った。


「そういわれましても、僕は戦うのは嫌いなんです」


 強くなったが、戦いは嫌だ。血の匂いとか慣れそうにないし慣れたくない。


「これから宿をとるので失礼します」


 お金を受け取って外に出ようとしたけど肩を掴まれてしまった。


「うちとしてはお前のような実力者は逃がしたくねぇんだ」

「ギルドって国家経営でしたよね? こんな横暴なんですか、この国は?」


 ギルドが国家経営なのは田舎の僕らの村でも知られているぐらい有名だ。こんな無理矢理なやり方を容認している国は早く出た方がいいかもしれない。


「もし、国ぐるみでこんなことをしているなら僕はさっさとこの国を出ることにします」


 男の手を振りほどいて出口に向かうが、冒険者たちに囲まれてしまった。


「言ったろ。お前のような実力者を逃がすつもりはない」


 面倒だけどやるしかないらしい。

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