第10話 凡人、出発する。
翌日……というか宴会が終わった日の昼過ぎ、僕と村の人達は村の入り口に来ていた。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「……おう」
「レイなら大丈夫だ! この村一番の天才だしな! ガンツさんにも勝ったんだ、街に出ても通用するさ!」
一人一人と言葉を交わす。
「それで、エリは本当にいいの?」
「いいの!」
エリは、この村に残ることに決まった。理由を尋ねると、
「一緒にいたいけど体力的に旅についていけそうにないし、頻繁に帰ってきてくれるなら大丈夫かなって。だったらいつでも迎えられるようにしておいたほうが良いし」
と、笑顔で言っていた。内心ではどう思っているかは分からないが、本人は納得しているようなので良しとする。
「じゃあ、行ってきます!」
「「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」」
僕は、皆に手を振りながら、村を出発した。
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村を出てしばらく、僕は早速フェルに念話をした。
『聞こえるか?』
『おぉ! レイか! 待っておったぞ』
元気そうで何よりだ。
『お主は村に帰ったのではないのか? 村の中で念話をしても大丈夫なのか?』
『さっき村に帰ったんだが、強くなったからなのか、もっと広い世界を見てこいと言われてな? さっき出発して、旅をしているところだ』
『そうかそうか。やはりお主は村で終わるような男ではないということじゃろう』
『ちょっと! なんでフェルばかりと念話してるのよ!』
フェルと話していると突然フェニから念話が来た。
『だって現状報告するだけだし』
『だからって、一言ぐらい声をかけなさいよ!』
『いや、一度会話を始めたらなかなか止まらないでしょ? そしたらなんだかんだ時間が経って、いつまで経っても街に入れなさそうだし』
『そ、その時は一言言ってくれればいいじゃない!』
言ってもごねられて聞き分けてくれない気がするのは何故だろう?
『それに、十日に一回はそっちに行くからそこまで言わなくても……』
『良いじゃない……。だって、寂しいもの』
『そうじゃな。五年間はお主といたせいか、それまでは当たり前じゃった生活が寂しく感じるのじゃ』
フェルからも寂しそうな意思が感じられた。
『……わかったよ。今度から気を付けるよ』
今日はずっと皆と話しながら行こう。
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今日はここまでだな。
今いるのは森を抜けてすぐの場所にある川の近くにいる。すでに陽が落ちていて、これ以上進むのは止めておこう。
持ってきた簡易寝具を広げ、その近くで火を起こす。小さい鉄鍋に保存食を放り込んで炒めたものを夕食として済ませる。
明日は早く出たいからもう寝よう。母さんが持たせてくれた寝袋を取り出す。
『今日はもう寝るよ。おやすみ』
『えっ。早くない? こっちはまだご飯食べているところなのに』
念話で報告したらフェニから驚きの念話が来た。
『一応野営は初めてだからね。明日は早めに出発したいし』
『そう……。明日もずっと話をしてくれるかしら?』
『街に着くまでなら良いよ。街中は流石に皆と話しながら周囲に気を配るのは難しいし』
『……そこは妥協するしかないわね。わかったわ。街中以外ではずっと念話を繋げていること。いいわね?』
『あぁ。それなら大丈夫だ』
フェニの確認に思わず苦笑いしながら了承する。なんというか、フェニはフェル達の中で一番甘えたがりだ。本人は大人の女性として振舞っているつもりらしいが、言動のちょっとしたところに幼さというか、子供っぽさが出ていて、それを本人は気づいていない。
明日も賑やかになるんだろうなぁと思いつつ、念話を切り、念の為に結界を展開して寝ることにした。
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