第12話 凡人、強制的に黙らせる。
僕は、努めていつものようにしながら、忠告した。
「そこどいてくれませんか? 冒険者になるつもりはありませんし、仮になったとしてもご期待に添えられる自信はありませんよ?」
「いいや、お前は強い。お前ならすぐにランクが上がるだろう。そうすればいろんな街で受けられる恩恵が増えるぞ」
質問していないのに勝手に話してくれる。曰く通行料が減額される。ランクが高くなれば無料となる。武具や回復薬などの値段が安くなる。等々……。
「ですから、僕は冒険者にはなりません。旅をするつもりはなく、何処かの店で働こうと思っていたので」
「何故、その強さを生かそうとしない? お前の強さがあれば多くの人の命が救われるんだぞ」
率直に言っても聞く耳を持ってくれない。早く宿をとらないといけないのに……。
「人命救助になんて興味ありませんし、そもそも冒険者という野蛮な職に就くとか考えられません」
イラついてそう言うと、周囲の冒険者から殺気が飛び始めた。
「人命救助なんてものは目に付いたらやりますよ。でもそれはあくまでついでです。それを目的にして殺しに行くとかありえない」
俺が魔物を斃すのは自分の命が危険に晒されたからだ。自ら危機に飛び込むのは阿呆がやることだと思う。
大切な誰かが危険だとか、自分が死ぬような目に遭うかもしれないというときは抵抗するが、見知らぬ誰かのために嫌いな戦いをするのは嫌だ。
「……お前には少々教育が必要なようだな」
周囲の冒険者が己の得物に手をかける。
「……やっぱり冒険者は野蛮だ。組織のトップが思い通りにならなければ力づくで脅しに来るとか、蛮族というか獣がする行動そのものだ」
「……やれ」
男の合図で冒険者たちが襲い掛かってくる。奴はこれで僕が負けると思っているらしいけど、正直相手はかなりの実力不足だ。装備も碌な強化とか保護とかされている様子はないからあっさりと壊れそうだ。
「ほら、事実を言っただけで襲い掛かるとか、子供のような短絡的思考だな」
僕はその場に立ったまま魔力を周囲に放射した。
「! なっ!」
近くまで来ていた剣士の動きが止まり、直後吹き飛んだ。あとに続いていた他の冒険者も後ろに飛ばされるか、立っていられなくなって地面に這いつくばるかのどっちかだ。
全員が動けなくなったのを確認して魔力の放射を止める。周囲は散々たる状態だ。最初に吹き飛んだ剣士は壁にひびが入るほどの勢いでぶつかったらしく、意識を手放している。他の吹き飛んだ奴らも壁や床に叩きつけられて悶絶している。這いつくばっていた奴らは疲労困憊になっていた。
「貴様、何をした?」
男も片膝ついて荒く息を吐きながら尋ねてくる。
「ハッ。敵対する奴らに正直に答える阿呆がいるわけないでしょ」
もうこいつらに丁寧な言葉遣いは不要だろう。人の話を聞かないし、強要してくるし、脅しかけてくるし。
「じゃあな。もう二度とここには来ないよ」
「ま、待て……」
男が膝に手をついて立ち上がりながら制止の言葉を言ってくる。
「何? これ以上何かするならここのギルド潰そうか?」
「なっ……!」
「自分の害になる集団と戦うときは根本的な殲滅を行うんでしょ? 魔物の巣とか。だったら僕もこれ以上僕の生活の邪魔にならないように
冒険者がやることをそのままこのギルドにやると示唆する。
「僕にとってはね、野生の獣も魔物も自己中心的な人間も同じだよ。害がなければ放っておくし、脅威を感じれば排除する。何か僕、間違ったこと言ってる?」
「人間が、人間を襲うなど……」
「いや、冒険者だって盗賊殺してるんでしょ? 同じ人間だよ? 脅威だから殺してるんだよね?」
「いや、盗賊は犯罪者で――」
「へぇ。こんな脅迫と集団暴行は犯罪じゃないんだ。この街だけなのか、この国全体がこうなのか知らないけど、法が弱すぎるんじゃない? ましてや国の息がかかってる組織がやるなんて、変でしょ」
「ぐっ……」
向こうの反論を速攻で潰す。フェル達との日常的な会話の中で学んだことの一つだ。相手の心を徹底的に折りたいときに有効だとフェニが言ってた。
「簡単なことだよ? そっちが僕のことをすっかりさっぱり忘れてちょっかいをかけてこなければいいんだよ? そっちが何もしてこなければ僕も何もしないし。ただ――」
僕は男を指し、僅かな殺気と共に言う。
「次にちょっかいをかけてきたら冒険者ギルドという存在を物理的、社会的に潰すから」
その場にいる人は誰一人動かない。呼吸音も聞こえない。
僕はそんな中、冒険者ギルドを後にした。
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