第7話 凡人、帰郷する

 神獣たちに見送られながら出発した。出発祝いに色々とくれた。僕は村の方向に歩いていく。


 なんとなく自分が五年前に落ちた場所に向かった。地面に染み込んでいた僕の血も目立たなくなっている。


「まずはここを登らないと……」


 そこは問題ない。レビィから教わった魔法理論で飛行魔法についても触れた。魔力を馬鹿みたいに使うから使う人はいないらしい。


 僕はフェニの飛行の様子を見て思いついた。彼女は飛行魔法なしで飛んでいる。翼があるからだと思っていたが、本人の話だと翼で上向きの力を生み出すらしい。言葉じゃわからなかったから実際に試した。


 神獣形態になったフェニに暴風程度の風を風魔法で当てる。フェニは翼を広げた状態で立っていたが、やがて宙に浮き始めた。風だけで上向きの力を生み出せることが分かった。


 それからはフェニの翼を細かく調べて、防御魔法の防御壁を変質させて翼に見立てた。防御魔法は質量がないから扱いやすい。


 何度も試行錯誤を繰り返したお陰でオリジナルの飛行方法を手に入れた。


 背中に展開し、羽ばたく。それだけじゃ足りないから後方に風魔法を噴射する。かなりの勢いで上昇する。

 翼は腕に展開してもよかったがそうすると空中戦の時攻撃手段が足技だけになるからやめた。難しいが、新しくつけた方が戦いやすかった。



 崖の上に到着する。ここで狼と戦い、敗れた。今なら勝てるだろうが、僕は戦うのは嫌いだ。戦うぐらいなら逃げることを選ぶ。僕の生活に悪影響を及ぼすならその限りではないけど。


 歩いていく。途中に猪を見つけ、仕留めた。『異空間収納』に入れた。お土産がわりになるといいな。



◇◇◇◇◇



 道に迷ったらしい。いくら進んでも森から抜け出せない。何度も狼に襲われてしまった。倒せたからよかったけど。


 綺麗な花を見つけた。確かエリが好きだった花だ。持っていこう。あ、木の実もある。僕は手当たり次第にお土産になりそうなものを取っていった。



 こんなことをしているから道に迷ったんだと思う。道草を食い過ぎた。早く帰ろう。



◇◇◇◇◇



 今思ったけど、今の僕を見ても気づいてくれるかな? 身体は五年前よりも背が伸びたし鍛えられてるし傷だらけだし。顔には大きな傷があって顔半分を覆う眼帯をしている。右眼も光を失っているし。少なくともみんなが知っている僕じゃないと思う。

 ……なるようになるしかない。怒られるなら甘んじて受け入れよう。



◇◇◇◇◇



 結局僕は探知魔法を使った。魔力察知を応用して生み出した魔法だ。地形が手に取るようにわかる。

 ……西に開けた場所がある。人の気配もあるし、村だ。かなり離れていた。まっすぐ帰るようにしよう。





 父さん元気かなぁ。何度も僕を鍛えようとしてくれてたけど全部断ってた。でも今回で鍛えておけばよかったって思ったんだよなぁ。謝らないと。


 母さんは……元気だと思う。何かと活発だったし、主婦のまとめ役みたいな人だったし。久しぶりに母さんの手料理が食べたい。


 エリには、かなり心配させているだろう。謝らないと。僕が狩りに行くのを反対していたから。


 普通の生活に戻れるかなぁ……。僕も強くなったし、今までと状況が違うし。





 そんなことを考えているうちに森を抜けた。その先に木製の柵があった。変わってないなぁ……。


 近くに人はいない。時間的に畑か森の中にいるんだろう。僕は村に向かって歩いて行った。




 村に入ったけど、見た感じ五年前と変わっていない。少しボロボロに見えるだけかな? とりあえず家に向かおう。大通りを通る。遠くに見える畑で何人かが農作業をしている。こっちには気づいていない。


 僕は一応外套を着ている。そのままでもよかったんだけど、なんとなく着たかった。気まずさと気恥ずかしさがあるのかもしれない。



 家が見えてきた。補修したらしく、綺麗になっていた。それでも外見はほとんど変わっていない。



 丁度家から洗濯物を持った女性が出てきた。少し老けているけど母さんだ。元気そうでよかった。


 母さんはこっちに気づく。洗濯籠を置いてこっちに向かって歩いてくる。


「いらっしゃい。こんな辺鄙な村に何か御用でしょうか? ここには何もないですけど」

「あ、あぁ。ここに用があったんだ」


 やっぱり母さんだ。話し方も変わっていない。


「ここに?」

「うん。えっと……久しぶり」


 僕は外套のフードを取る。眼帯を付けた顔を母さんに見せる。


「え……?」


 僕の顔を見て母さんが呆けた。なかなか見られない顔だ。思わず笑ってしまった。


「なんていうか……僕だよ。……母さん」

「レ……レイ……?」


 母さんが泣き始めてしまった。そのまま胸に飛び込んできた。もう僕の方が背が高い。母さんの背中と頭に手をまわして撫でた。


「そうだよ。ただいま母さん。遅くなってごめん」

「レイ! レイ~! うわああぁぁぁ!」


 一層ひどく泣き始めた母さんにされるがままの状態になった。心配させてしまったし、仕方がない。ただ、ほかの人にはあまり見られたくないな。


 やばい。母さんの泣き声で村の人たちが集まってきている。このままだと変な目で見られかねない。


「母さん、家に入っていいかな? そんなに泣いていたら皆やってきて色々と誤解を受けそうだから」

「そ、そうね……改めて、お帰り、レイ」


 離れて、そう言った。なつかしさが込み上げてくる。

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