第6話 凡人、神獣に別れを告げる
五年経った。そろそろ村に戻ろうと思う。赦し自体は三年目でもらえていたが、主に神霊のライアが行ってほしくなさそうだったからもう二年ほど世話になった。
彼女たちとはだいぶ仲良くなった。敬語なしで話すし、からかったり、からかわれたりすることもある。
「行ってしまうのか。寂しくなるのぅ」
「そうだな。ここでの生活は楽しかったが、村に帰らないといけないしな」
「だが、レイは死んだ者として扱われているのではないか?」
「大半はそうだろうが、一部がそうだとは限らないしな」
主に僕の身内だ。特にエリの様子が気になる。
「いろいろ教えてくれてありがとう。この森に帰ってくることは当分ないだろうけど、ここは間違いなく僕の第二の故郷だ。決して忘れない」
「絶対、会いに来なさいよ。死んだら許さないから」
「わかったよ、フェニ。必ずまた会いに来る」
「百年二百年は生きなさいよ?」
「いや、人間はそこまで長くは生きられないから」
今の僕はわからないが、そこまで長生きなのはフェルから教えてもらったエルフぐらいだろう。獣人でも長寿はいるらしいけど、外見はエルフの方が成長がゆっくりらしい。
「……もう、人間のご飯がない……?」
相変わらずご飯にしか興味がないらしい。神竜のレビィらしい。
「作り置きがあるから当分は大丈夫だぞ?」
「……そうじゃない。ご飯もだけど、レイがいなくなるから寂しい」
懐かれていたらしい。なんか餌付けした感じに思えてくる。そこまで言われたらすぐに会えるようにしておきたい。
「じゃあ、すぐにここに戻れるような魔法を作ろうか」
教えてもらった魔法理論と魔力操作技術を使えば行けそうな気がする。これまでもいくつか作ったし。
「本当にできるの!? 早く、早く作ってっ!」
ライアに急かされて魔法を構築する。空間魔法はあるが移動系のものはない。せいぜい『異空間収納』と『空間切断』ぐらいだ。どちらも高等で使えるものはほとんどいないらしい。魔力を大量に使うらしく、人間程度の魔力量じゃ発動すらできないらしい。魔力が膨大なエルフでも数秒しか持たないらしい。そこで僕は魔力効率のいい方法を模索したりして、彼女たちにも教えた。
今回の移動魔法は『異空間収納』をヒントに構築する。ほかにも関連があるそうな魔法を引用する。
できるだけ時間がかからない方がいいな。世界にある二点を結ぶ最短距離をゼロにすれば瞬間で移動できるかもしれない。
◇◇◇◇◇
結果、完成に十日かかった。お陰で魔力消費を抑えつつ長距離を移動できるようになった。勿論彼女たちに教えた。
作ったのは二つ。
一つ目は『異空間収納』を基に作った『ゲート』。これは行ったことがあるところ限定だが、空間を超える門を生み出す。場所を明確に想像しないとだが、安定した移動ができる。これは発動さえしていれば誰でもくぐれる。一応取捨選択も可能。
二つ目は完全にオリジナルの『テレポート』。これは比較的短距離用だ。『ゲート』は一度門を開いて、それから入るというように二段階踏まないといけないが、これは発動した瞬間に移動出来る。戦闘に使えるようにした。『ゲート』と同じように遠くを想像して移動できるが、その分魔力消費が激しい。だが、視界に収めた場所ならそれほど魔力を消費することもなく移動できる。対象は基本的に自分だけだ。触れているものは一緒に移動できるが、これも取捨選択が出来る。万が一に備えての改良だ。
「ほら、これがあればいつでも帰ってこられるし、会いに行けるだろう? だから悲しむ必要はないよ」
「絶対に会いに行くからねっ!」
「一応、僕は人間がいるところに向かうからあまり使ってほしくないんだけど……」
談笑していると、フェルが不意に真剣な顔をする。
「どうした?」
「いや、私らはレイから貰い過ぎだと思ってな。新たな魔法に人間の料理、娯楽も与えてくれたじゃろ? 何か報いたいのじゃが」
「修業のお礼でやっているんだ。必要ないよ」
納得してくれない。
「なら、私たちと〝契約〟すればいいんじゃない? そうすれば念話で話も出来るし、レイに何かあったときにすぐに知ることができるわよ」
「良い案じゃな。そうしよう」
「……賛成」
「面白そ~」
「いいっすね」
「お願いします」
「魅力的なのである」
異論はないらしい。僕は皆と契約を交わした。念話出来ること自体は嬉しい。僕も少し寂しく感じていたから。
「それじゃあ、そろそろ行くよ。言っておくけど、何か用があるなら念話してね? いきなり『ゲート』や『テレポート』で来られても困るから」
「了解じゃ」
「わかった~」
「了解っす」
「わかったわ」
「……うん」
「了解よ」
「承諾したのである」
寂しいが仕方ない。
「じゃ、行ってくる」
「「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」」
僕は神獣の住まう森を出発した。五年ぶりの村だ。皆覚えてくれているだろうか?
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