4F:夢の終わり

 朝靄煙る栗東トレーニングセンター。Eダートコースの砂上を弾む栗毛の馬体。

 前走青葉賞より一週間。サタンマルッコは次走日本ダービーへ向けての調整を行っていた。

 マルッコの様子は一叩きして激変した。その変化は調教にこそ最も現れた。

 鞍上の横田が手綱を僅かに引く。意を汲んだマルッコが足の回転を心持ち落とす。微少な動作による意思の伝達。青葉賞以降こうした折り合いの訓練が続いていた。

 この光景を羽賀で調教されていた頃のマルッコを知る者が見れば驚くことだろう。何せ聞かん坊で有名なマルッコが鞍上と意思疎通を果たし、唯々諾々と操られているのだから。


 これまでマルッコの調教は強弱こそあれど只管に『馬なり』であった。横田の手綱にこそレースのペースを刻むなど"それなり"に応えていたが、基本的に馬の気分で走っていた事に変わりは無い。本格的に意に沿わぬとなればマルッコは横田の手綱を無視しただろう。

 それがどのような心境の変化があったのか。横田どころか厩務員のクニオの手綱にすら素直に従うではないか。


 馬上で手綱握る横田は納得を持ってその変化を受け入れていた。

 マルッコの背中が伝えるのだ。不甲斐ない走りをした己自身への怒りを。

 彼本来の走りを封じ、望まぬ走りをさせてしまった事に謝意を覚えずにはいられない。そうさせたのは自分だ。しかし必要なレースだった。その本意が伝わったからこそ、マルッコは変化したのだ。

 彼は己の自惚れを理解した。恐らくどのような位置、どのような展開からでも、自分ひとりの力で一着になる事が出来る。それも簡単に。

 しかしそうではなかった。高が進路を塞がれた程度で右往左往。本当に実力があるのならば残り400mからでも勝利できたはずだ。

 だから認めた。鞍上の存在を共同体として。

 それはつまり、勝利を渇望しての行動。


 調教を見守る小箕灘の手に力が入る。


(ついに、マルッコが本気になった)


 常識の通用しない怪馬が勝利を求めて競馬する。

 その時一体何が起こるのか。その変化を最前線で見守る立場にあることを感謝した。


「見せてくれ、マルッコよぉ」


 俺が信じたお前の才能を。

 レースは三週間後。それまでの期間、己を全てを捧げる決意を新たにした。




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「実際のとこ、どうするんすか?」


 調教を終えた午後のひととき。クニオ、横田、小箕灘の三人は事務所のテレビ画面を見つめていた。その中で、クニオは漠然とした疑問を投げかけた。


 すっかり古めかしい存在となった大型ブラウン管テレビには先月行われたGⅠ皐月賞が映し出されている。三人はそれぞれ繰り返し何度も視聴していたが、本番の指揮を執るため、こうして改めて見直していた。


 皐月賞は戦前から前年度の二歳覇者ストームライダー一強の雰囲気で染まっていた。彼の馬は先行抜け出しからレコードタイムを叩き出すという完璧な内容で朝日杯1600mを制し、続くステップレースの1800mを大差でクリアしていた。

 中間、追い切りの動きも余裕残しでありつつも抜群であり、枠順も内外を見ながらスタート出来る④枠⑦番。強いてネガティブな要素を挙げるとするなら、血統的背景が距離延長に対して否定的であることだが、現時点における絶対能力が抜きん出ている事から前走から200mの距離延長はさほど問題にならないという見方が大半であった。


 対抗として名の挙がったのはトライアルGⅡ弥生賞の勝ち馬ナイトアデイ。しかしこの馬は朝日杯においてストームライダーに完敗を喫している。

 同じく弥生賞二着馬コーネイアイアン。逃げ粘りのレースを見せたが、直線最後で足が鈍っており、前目の競馬を得意とするストームライダー相手では厳しいと見られていた。


 もしや、と思われていたのがマルッコ達小箕灘厩舎が馬房を間借りしている須田厩舎管理馬ダイランドウだった。

 2歳時は短距離路線において抜群のスタートセンスとスピードの絶対値で以って逃げまくり連戦連勝。朝日杯を目指して調整を行っていたところを鼻出血のため回避。

 明けて翌年は病状を鑑みて慎重に調整を重ねつつ、陣営は予想されていた短距離路線ではなくクラシックへの出走を表明。そしてトライアル弥生賞に出走したのだが――


《1000mの標識を通過。先頭はダイランドウですが、通過タイムは57.4。大丈夫なのか、それで2000m果たして持つのかダイランドウ》


 ダイランドウは加減の出来ない馬だった。これまでは抜群のスタートとスピードで駆け抜け、燃え尽きたところがたまたまゴールだった。トライアルの弥生賞では大暴走し、最後は歩きながらタイムオーバーで入線。本番の皐月賞でもそれは改まる事が無く、レース映像のように1000mをロケット花火のように駆け抜け、1400mを越えた辺りで燃え尽きた。


 しかし弥生賞で大惨敗したとはいえ、これだけのスピードを持つ逃げ馬を無視する事が果たして出来るだろうか。ダイランドウ暴走の結果、それを追う各馬の足も速まり、レース全体が空前のハイペースとなった。

 離れた二番手を走るナイトアデイの1000m通過が58.5秒。四番手につけたストームライダーですら58.7秒。例年ならば後差しが有利な時計であり、通過タイムが表示された瞬間ストームライダーの馬券を握っていた観客は悲鳴や怒号、冷や汗を流した事だろう。


 垂れるダイランドウを交わして先頭に立ったナイトアデイ共々早々に直線へ入るとあっさりこれを交わす。朝日杯で、共同通信杯で、かつて見せ付けてきた抜群の末足を発揮し差を広げ、ようやく伸びてきた後続を全く寄せ付けずレコードタイム1:57.6でゴール。

 馬場は決して軽くはなかった。物が違ったという事なのだろう。


 入線後高々と右手を上げる細原騎手の姿を眺めながら、横田が口を開く。


「やはり、前ですね」

「後ろは論外。横に並んでヨーイドンでも絶対敵わねぇな」


 横田の意見に小箕灘も同意する。あれだけのペースで走っておきながら上がりが34.5。馬場が高速化する傾向にある本番のダービーではより一層厳しい上がりで来るだろう。

 先日の青葉賞では足を溜めての競馬にも関わらず、マルッコの上がり3Fは34.7秒。単純に同じだけの足を使えるとしても、直線に入った時点で0.2秒分ストームライダーより前にいなければ勝利はない。

 マルッコは本質的に鋭い末足を持つ馬ではない。この事は小箕灘陣営にとって共通の見解となっていた。


「すげぇのと同世代になっちまったっすね……」


 魂消たしみじみとした声でクニオが呟いた。


「違いますよ」

「え?」

「あっちがマルッコと同世代に生まれてしまったんです」


 横田が不敵に笑った。


「負かしてやりましょうよ。皆ビックリしますよ」

「横田さん。馬鹿言っちゃいけねぇ。俺は羽賀からマルッコを連れてくる前からアイツがダービーを取るって信じてるんですよ。こんな相手くらい負かして当然ですわ」


 小箕灘も啖呵を切った。その声は震えていたが。


「それで、なんですけど――……」


 男三人の怪しい集いは暫く続いた。





 シャリシャリシャリ。眠たくなるような麗らかな日差しの午後三時。須田厩舎の馬房にはりんごの皮を剥く音が響いていた。

 先程から大好物が奏でる音を聞きつけたマルッコが馬房から首を出してはやくはやくーとそわそわしている。殊更ゆっくりやってやろうか、とクニオの脳裏に意地悪な考えが浮かんだが、マルッコの円らな瞳と目が合ってしまい、その考えを早々に放棄した。

 意外に思われるかもしれないが、サラブレッドは野菜や果物も食べる。と、いうより栄養のバランス如何では積極的に与える場合すらある。馬にニンジンという認識が広まっている割には野菜や果物と括ると何となく驚きがある。なんとも不思議だ。


 皮を剥かずに与えても問題ないが、マルッコは剥かないと怒る上に千切りにしないと食べにくい、と文句を言う面倒くさい奴なので、クニオはいつもオーダー通りにやってやっている。皮は剥き終わったので後は千切りだ。


「ひ~ん」

「はいはい待ってろよ。あ、馬房から出てきたらやらねーからな」

「ぶひ~ん」


 すっかり慣れたもので手早くりんごを千切りにし、まな板ごと飼葉いれへ持っていく。


「はいお待たせ」

「ふぃん」


 入れてやると、喜んでるのか怒ってるのかよく分からない唸りを上げて食べ始める。一心不乱。そんな様子だ。

 俺も食べるかな、とダンボール箱一杯に詰め込まれたりんごに手を伸ばす。青葉賞を二着に収めた後、マルッコの故郷中川牧場の主、中川貞晴オーナーから届けられた祝いの品だった。牧場に居たころは資金難であんまり食べさせてやれなかったのを気に病んでいたらしく、仰々しいダンボール二箱に詰め込まれたりんごを見たときは驚いた物だった。りんごはそれほど日持ちしないのでさっさと食べてしまわないといけない。


(たしかに、羽賀に居たころは小さい馬だったなぁ)


 自分用に皮を剥きながら、クニオは羽賀の厩舎に居たころを思い返していた。

 厩舎に着たばかりのマルッコは、雌馬と見紛う小柄な馬体の馬だった。というか小柄でもあったが、そもそも痩せていた。なんだこの馬はと思った記憶がある。

 少し世話をしてみてすぐに分かった。なんて可愛くて賢い馬なんだろうと。是非この馬の専属に、と立候補した事を後悔した時期もあったが、今となっては英断だっただろう。

 疑惑の盗み食い事件、騎手振り落とし事件、海水浴事件、馬房脱走事件、デビュー戦逸走事件、まぁ色々あったが、気付いてみればこんな凄い場所にまで来てしまった。


「お前がダービーに出るのかぁ。しかも羽賀ダービーとかじゃなくて、日本ダービー。

お前は変な奴だなぁマルッコ。俺は今でもお前がダービーに出るってのが信じられないぞ」


 厩務員手当てといって、担当馬がレースで買った時、賞金の数パーセントが給付される仕組みがある。最近は厩舎全体にプール金として集め、ボーナスとして分配する方式が採用される事が多いが、地方競馬に所属する厩舎などはJRAと比べて賞金が低いため、担当者制度を続けているところも多い。小箕灘厩舎もその口である。


 中央に参戦してからというもの、マルッコが勝つ度、目が点になるような額が銀行口座に振り込まれる。おかげで懐具合はだいぶよくなり、マルッコ様様と崇めたててやってもいい気分ではあったのだが、いざ当のマルッコを目の前にすると、これまでの事が全て夢だったのではないかという気分にさせられてしまう。

 ダービーに出るだけでこれなのだから、勝った日にはどうなってしまうのだろう。むしろ、目が覚めるような想いがして現実感が戻ってくるのだろうか。

 皮を剥く手はいつの間にか止まり、ぼうっと餌箱に首を突っ込んでいるマルッコを眺めていた。

 ふいにマルッコの顔が上がる。耳が後ろに絞られ目つきが鋭い。


(あ、怒ってる)


 何を怒っているのかと思いかけたが、己が手の内にあるモノに気付いた。


「ぐるるる」


 おれんだ勝手に食おうとしてんじゃねー! と言わんばかりの迫真の威嚇。


「わかったわかった」


 今日のおやつは二つになった。



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 朝日杯を1:33.0で圧勝した時、早熟を囁かれた。

 それまでの三勝がマイル以下でしかない事をあげつらい、距離の不安を囁かれた。

 迎えた共同通信杯1800m。これを7馬身ちぎって圧勝。距離の不安など無いと見せ付けた。

 そこでやっと世間が認めた。この馬は、強い。


 まだだ。

 管理調教師山中は思った。


 4戦4勝。単勝2.0倍で望んだ皐月賞。


 二倍でいいのか?


 圧勝だった。5馬身ちぎってレースレコード1:57.6の決着。


 世間は気付いた。

 違うんだ。

 ストームライダー。こいつは次元が違う。


 そうだ。山中は頷く。


 こいつが最強だ。こいつが取らずに誰が取る。


 ダービー馬の栄冠はすぐそこまでやってきていた。



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 遅生まれだった。その影響で馬体の完成が遅れ、2歳のシーズンを棒に振った。


「テツゾー知ってっか? 次のレースはすげー馬が居るんだぞ」


 小柄だった鹿毛の馬体はすっかり大きく、逞しく。

 騎手、細原文昭は知っていた。この馬こそが栄冠に相応しいと。


「おめーなら大丈夫。2400ならおめーの勝ちだ」


 スティールソード。馬主の孫に付けられたありふれた名を持つこの馬は、鈍く、鋭い眼光を湛えていた。

 毎日上った美浦の坂。目指す先にあるのは嵐か、それとも。



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 ダービーウィークが近づくにつれ、競馬界隈はどこもかしこも賑やかに、或いは騒がしくなっていく。取材の記者は出走各馬の動向を見逃さんと目を光らせ、トラックマンはそんな記者らに渡りをつけつつ、独自のコネクションで直接取材へ乗り込む。普段見かけない顔がトレーニングセンターに溢れる様に、業界人達はどこか浮ついたような、祭りの前の高揚感を思わせるモノに包まれていた。


 競馬業界において新年は一月一日だが、一年の終わりは日本ダービーである。


 ああ、今年もダービーがやってきたんだな。

 そんな浮ついた雰囲気の栗東トレーニングセンターを闊歩しながら横田は思った。

 競馬に携わっていてダービーを意識しない人間はいない。新人のころは外から眺めるだけで悔しい思いをしたものだが、関わったら関わったで緊張や重圧、増える取材の煩わしさなどと折り合うのに苦労したものだった。

 今でも、雰囲気に呑まれている自覚はあった。大切なのは普段通りでない自分を自覚することだ。そんな単純な気付きにも数十年かかってしまった。


「横田さん!」


 声に振り向けば、顔なじみの新聞記者だった。競馬を離れての付き合いこそないが、もうかれこれ十数年は顔を突き合わせていた。


「あ、どーも坂下さん」

「い、いま取材平気ですか?」


 坂下はわたわたと音声レコーダーと手帳を取り出しながら訊ねた。こういうバタバタしたそそっかしさを横田は気に入っていた。特に急いでも居なかった横田は了承の意を返し、道端の柵に寄りかかる。


「それにしても坂下さん、栗東に来るなんて珍しいですね」

「いやーどこも締め出しちゃって口が堅いのなんの。美浦じゃ声取れなかったもんで、編集長にドヤされてそのまま栗東までってな感じで」

「例年二週前追い切り位まではあんまり喋りませんもんね」

「その点横田さんは流石です! ぼくがいつ取材申し込んでも受けてくださる!」

「おだてたって何もでませんよ」


 調子のいい人だな、と横田の顔にも思わず笑みがこぼれる。


「それでなんですけど、横田さんは今年サタンマルッコ号でダービーに参戦する訳ですけども、サタンマルッコって、実際のところどうですか?」

「坂下さん。どうって質問もどうなんですか」

「あ、あはは……いやぁほら、あの馬ってちょっと訳分からないとこある馬じゃないですか。ぼくに限らず皆さんも、こう、実力的にーだとか、手応え的にーだとか、そういった部分を横田さんから教えていただきたいと思ってるんですよぉ」

「うーん、なるほどなぁ。確かに外から見ると馬のことがよく分からない、というのも分かります。分かるんですが、マルッコは割りと見たまんまの馬ですよ」

「見たまんま、というと?」

「可愛いってことですよ」

「横田さぁ~んお願いしますよぉ~それじゃ記事に出来ないですよぉ~!」

「冗談ですよ冗談。でもすごく可愛い馬ですよ。人懐っこくて、人間のことが大好きで。気性に難のある馬だと思われてるみたいですけど、全然そんなことありませんよ。坂下さんは栗東にはあんまり顔出さないんでしたよね? マルッコはこっちの人達の中じゃアイドルですよ。角馬場とか歩いてる時とか、移動中とかにも誰かから声をかけられてる位ですからね」

「へぇ~。人懐っこくて人気者、と。なんだか意外ですね。あ、でも写真で見ても思いましたけど、確かに可愛い顔してましたね」

「そーなんですよ! あの目が特にね、それと表情がなんとも人間臭くて面白いんです」

「人間くさい、と……よ、横田さぁん。そろそろレースに関係しそうな事、教えてくれませんかぁ?」

「んー、でも俺があんまり強そうな事吹くと負けるらしいからなぁ」


 これオフレコにして下さいね?


「俺は勝つ気ですよ。ダービー」


 それじゃ、と坂下を残して横田は去った。

 あまりの唐突さに坂下はぽかんとしてしまい反応が遅れた。声をかけそびれた背中がこれ以上は話さないと雄弁に語っており、物足りない取材結果がガックリと肩を落とさせた。


「さーかーしーたちゃん! でかした!」


 その坂下にどこからともなく現れた同業他社達が群がる。この時期の厩舎コメントは限られたパイとして分かち合う土壌が彼らの中にはある。要するに取材コメントのおこぼれを頂に参上したのだ。


「で、どうよ!」

「サ、サタンマルコは……」

「サタンマルッコは?」

「サタンマルッコは、可愛いんだそうです」


 一斉に溜息が零れる。


「それなら皆さん自分で取材すればいいじゃないですか!」

「それが出来たら苦労しねぇよ」

「どうしてですか。普通に声かけたらいいじゃないですか」

「あーお前最近栗東に来てなかったんだっけ。すげぇぞ最近の横田。殺気立っちゃって」

「殺気立つ?」

「寄らば斬るってな具合で一人で居るところなんて近づけねぇよ。試しに声掛けた奴がすげーあしらわれて、以来ずっとすげー顔してんだよ」

「お前よくコメント取れたな」

「まぁロクに取れてなかった訳だけどな。どうせサタンマルッコだろ? 空いた馬に乗っただけじゃ横田でもどうにもならねぇか。はー、他回るか」

「身勝手すぎる……」


 三々五々散っていく記者達をジト目で見送りながら、坂下は先程の一幕を反芻した。

 空いた馬に乗っただけ? 本当にそうだろうか。

 丁度近くをどこぞの厩務員が通りかかった。すかさず声をかける。


「あの、すみません。少しお話うかがわせて貰ってよろしいですか?」

「ん? なんや。ウチんとこの馬はダービーもオークスも安田でねぇぞ?」

「ああいえ、お伺いしたいのはサタンマルッコ号のことで」


 瞬間、男の表情が輝いた。


「おーマルッコかいな! なんでもききや。まずなー、あん馬はとにかく――」


 聞けといいつつ捲くし立てる男に苦笑しつつ相槌を打つ。

 本当にあの馬、栗東じゃ顔広いんだな、と感心しつつ間を縫って問いかけた。


「主戦の横田騎手なんですけど、いつ頃からサタンマルッコ号に乗っていたんですか?」


 これはある程度確信を持った質問だった。

 本来、美浦所属の横田が栗東の馬の主戦になるのはおかしい。物理的距離が遠いとレースの度に移動の煩わしさが付きまとうし、そもそも普段から人馬のコミュニケーションが取りにくくなるからだ。栗東の馬には栗東の騎手。美浦の馬には美浦の騎手。それは単純な効率の問題で生まれた常識だ。

 そこへ来てサタンマルッコ横田友則である。しかもどうやら口ぶりからすれば普段の栗東を知るほど通い詰めているらしいではないか。それはつまり――


「ん? 横田ジョッキーなら青葉の前にはもう乗ってたなぁ。皐月の一週前追い切りより前やから、4月の中ごろか?」

「なるほど。大変参考になりました」

「お、もうええんか?」


 繋がった。

 最後に告げたあの言葉。瞳の奥の鋭い光。

 なるほど。 馬のことは結局よくわからないままだ。だが、人のことならよく知っている。

 横田友則、気配アリ、だ。



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日本ダービー part5



656 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx60

それは無理に粗探しすぎ3歳の馬なんだから当然

持ってる時計がちがう

もう何をどうやったって負けるわけねーよ



658 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxw0

例年この時期突然現れる遅れてきた大物が全部小物な件



661 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxr0

そもそも5chの化物呼ばわりはだいたいポニー



662 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxj0

>>661

真に受けてんのお前だけだから



662 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxI0

謎の外国馬ヤッティヤルーデスの正体不明感すこすこのすこ



665 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxF0

やってやるです!

やぁぁぁぁってやるぜ!


どっちなのか



666 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxy0

トルコ語かなんかと日本語が起こした奇跡の馬名



670 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxd0

皐月賞1着ストームライダー

皐月賞2着ラストラプソディー

皐月賞3着ナイトアデイ

皐月賞4着ゲノム

皐月賞5着コーネイアイアン

プリシンバルS1着カタルシス

青葉賞1着スティールソード

青葉賞2着サタンマルッコ


NHKマイルカップから参戦無し

あとは賞金順が概ね予想通りに参戦?



672 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxA0

条件戦勝ちあがったばっかの馬が勝つGⅡ青葉賞とかいうレース



673 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxa0

いや青葉賞って元々そういうレースだろw



678 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx80

まぁ順調にいってる馬なら皐月使うしな



680 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxR0

???「今年も青葉は茂らない!!!!!!」

はー枯葉賞



682 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxt0

>>680

もう許してやれよ



688 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxh0

カタルシスとスティールソードでストームライダーに勝てるビジョンが浮かばない



689 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxV0

ラストラプソディーがぶちぬくから見とけよ



701 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxZ0

どうせ高速馬場専用機だろ

ダービー走ってぶっ壊れるいつものパターン



714 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxz0

ところが皐月の日はいうほど高速馬場でもなかったんだな

週末に雨だったし条件戦では直線で時計出てなかった

そんな中1:57.6とかマジモンだろ



718 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxr0

現実見れない低学歴アンチ

馬場ガー相手ガー中山適正ガー距離ガー



730 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxi0

煽ろうとは思わんけどまじで別路線組みに負ける要素ねーだろ

あるとしたらNHKマイルカップ組みからだけど今年のメンツ見る限り望み薄だしな



742 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxg0

毎年バケモンバケモンっつってニセモンばっかだったけど

今年のはマジで化物だな

嵐は足の丈夫なアグネスタキオンだろ



745 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx90

足の丈夫なタキオンとかもうそれ無敵だな



746 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxt0

レースっぷり的にどっちかというとフジキセキっぽいけどな



750 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxn0

先行抜け出し型だもんな

囲まれる心配ないから見てて安心するわ



766 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx20

鞍上も竹田だから詰まる心配もないしな

(ナイトアデイから目を逸らしつつ)



771 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxm0

ナイトアデイの前に謎の壁が出現しそう



775 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxJ0

2歳から皐月まではストームライダー一強で間違いない

皐月組はどっかで当たってるから勝負付け済んでるし

さてダービーはというと他に馬がいないからやっぱ楽勝か



790 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxP0

>>670

というかこれ良く見たらちゃっかりトモさん2getしてんのな

この馬もともと羽賀の馬だろ? よく持ってきたな



800 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxN0

サタンマルッコって艦厨が祭り上げてるやつだろ

逃げりゃまだレースが面白くなるからいいけど普通に控えやがったからな

出る意味ないレベル



803 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxr0

お前嫌艦厨にみせかけた艦厨だろ



811 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx10

サタンマルッコは可愛いわね



812 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxT0

フラーマさんは静かにしてて



819 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx/0

これ嵐のオッズ1倍台だろ



822 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxC0

1.5つきゃいいほう



828 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx40

ディープのときみたいに1.1とか普通にありえる

新聞があの時ほど騒いでないけど、ローテとか中間含めてここまで完璧すぎる

紛れがあるとすりゃ外枠発走だが正直この馬ならなんとかなるんじゃねえの



831 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxU0

嵐に大金突っ込むか穴狙いで遊ぶかっていうレース



834 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx30

1倍台の馬が飛べば連系がうまいもんな

ダイランドウ……うっ、頭が



845 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxc0

ダイランドウ……惜しい奴を亡くした



847 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxG0

死んでないから



850 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxx40

あの馬弥生で爆発四散したくせによく皐月出たよな

可能性があるとしたらあいつくらいだった



852 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxQ0

???「この中間は距離延長に考慮した調教を施した(キリッ」



856 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxl0

さすが須田っち言う事が違う(白目



857 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxH0

距離適正の無さをあれほど見事に体現した馬も珍しい

とはいえ今年のマイルカップなら勝ててただろうな



864 名無しさん@競馬板 20NN/05/10 ID:xxxxxxxd0

マイルでも長い説、あると思います





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 日も高くなりつつある美浦トレーニングセンター。

 ダービーを二週間後に控えた木曜日。通例通りならば追い切りを行うであろう各陣営の動向を見逃すまいとする報道陣達はCWトラックコースへ熱い視線を送っていた。

 皐月賞馬ストームライダーの公開調教である。

 ダービー大本命とされるこの馬の調教にはカメラのスコープを構えた雑誌記者やテレビカメラクルーが詰め掛けていた。

 視線が可視化されそうな熱気の中、件の皐月賞馬はむしろ悠然と直線に現れた。

 遠めに馬体を見ても隙の無さは窺えた。しかしいざ動いているところを見ると、あまりの迫力に息を飲まされる。


 ストームライダーは6F地点からスタートし、直線で前を走る1600万下の僚馬と併走を行うと予告されていた。仕上がりの程を確認するには納得の調教であるし、それは報道を通して馬券購入者が最も知りたい内容でもあろう。


 一瞬だった。


 10馬身程前を行く僚馬を、ストームライダーは鞍上竹田騎手の仕掛けに反応し、ダイナミックな走法で並ぶ間もなく抜き去った。

 ディープが、フリートが、名立たる三冠馬たちがそうであったように、大きなストライドと足の回転を兼ね備えた究極の走り。一冠のブランドを兼ね備えた今、その走りは余りに輝いて見えた。

 二冠じゃない。三冠だ。翌朝の煽りは決まった。


 ストームライダー、死角なし!




 調教を終え、取材陣に囲まれた管理調教師山中と主戦騎手竹田は投げかけられる質問に答えていた。


「山中調教師。今週の追い切り、スタンドからの手応えは如何でしたか?」

「そうですね、とても満足しています。皐月から短期放牧に出してすっかりリフレッシュ出来ているみたいで。でも気が抜けているわけでもなく、今日のでよりピリっとしてきたんじゃないですかね」

「竹田騎手。乗っていた感想はどうでしたか!」

「はい。いい感じでしたよ。変なところで力まず、僕の指示にも従ってくれましたし。動きはそうですね、要所で力を発揮していましたし、皐月から引き続いていい状態だと思いました」

「山中調教師。本番でのライバルと意識している馬を教えてください」

「選ばれた18頭ですから当然全馬意識しています。ですが敢えて挙げるとするなら、皐月賞とは別路線で来た馬を警戒しています。他は走ったことがあるメンバーですので」

「それはスティールソードやカタルシスといった馬でしょうか」

「それもそうですし、ヤッティヤルーデス等といった海外勢も意識しています。ですが私はこの馬の絶対能力に自信があります。この馬ならどんな枠順でも勝てると確信していますし、展開に泣かされるような事にもなり得ません。私はこの馬が最強だと信じています。竹田くんには秋に三本指を立ててもらいたいですね」

「おお、それは三冠宣言ということですか!?」

「そうとって頂いて構いません」

「竹田騎手、どう思いますか!」

「責任重大ですね。でも、僕とライダーなら出来ると思ってますよ」


 ストームライダー陣営への取材は終始強気の発言が飛び出し、そのままの勢いで締め括られた、と報じられる事となる。







「はぇ? 取材? ウチにですか?」


 小箕灘は間抜けな声を電話口にぶつけた。

 何しに来るんだ? いや、そりゃマルッコの取材に決まってるんだろうが。

 困惑も一入に耳をそばだてる。


『はい。ダービー前の厩舎にお邪魔してインタビューをさせていただきたくて』

「あぁ。動画サイトなんかでおたくが公開しているアレですか。うちの厩務員なんかあのシリーズ好きみたいで結構見てますよ」


 羽賀に居たころ、クニオがスマホを片手にGⅠ馬を前にした調教師のインタビュー動画を見せに来た事があったため記憶していた。普段見れない競走馬たちの姿が見れると評判で、人懐っこい馬の動画などは多くの再生数を記録しているのだという。普段から馬の世話している癖に、他所ん家の馬なんか眺めて何が楽しいんだかと小箕灘は思ったりもしたのだが。


『それはありがとうございます! それで、ダービー前でお忙しい事とは存じますが、インタビューの件、如何でしょうか?』


 小箕灘は少し考えた。

 取材。あのマルッコに。普段のマルッコを見られてレースに何か不利益があるだろうか。考えられるとしたら、見慣れない人間が厩舎に入り込む事でストレスを溜め込むだとかそういうリスクだが、果たしてマルッコがそんな事を気にするだろうか。むしろ不届き者だったとしてもリンゴ一つで懐柔されそうだ。


「私としては特に問題はないんですがね、一応間借りしている身分なので須田さんとこに聞いてみない事にはなんとも言えませんね。確認するんで、折り返しますわ」

『あ、はい! よろしくお願いいたします!』




「須田さん」

「ン?」


 事務所へ顔を出すと、厩舎の主、須田光圀(すだみつくに)は何故かお手玉をやっていた。顔を向けた所為でぼとぼと落ちた5つの手玉を拾いながら小箕灘に水を向ける。


「コミさんどうかした? なんかよう?」

「用事はあったけど、それどうしたの」

「これかい。これはねぇ、孫が家庭科の授業で作ったんだってよ」

「はぁ。お孫さんが」


 須田は破顔して手の平に溢れるそれを小箕灘に差し出す。

 手にとって見ると、別にどうということのない――強いて目を凝らせば縫い目が時々ぶれているが――代物だ。相変わらず変なことする人だなと思いつつ返却する。


「意外と覚えてるもんなンだなぁ。昔姉貴にみっちり仕込まれたもんだからよ、まだ出来るかなぁと思ってやってみりゃ、これがやれるもんだな。7ついけたぜ」

「へぇ。俺も昔は妹に付き合ってやったもんだが――いやそうじゃなくてね。須田さん。ミドリチャンネルからうちのマルッコにカメラ付きで取材が申し込まれてさ。お伺いを立てにきたんだけど、受けてもいいかな」

「取材? あーダービーか。いいよなぁコミさんとこはダービーでれて。うちのはダイスケがあんなザマだから全く縁がねぇよ」


 この言葉を吐いて嫌味に聞こえないのが須田の良いところだろう。須田の言うダイスケとは皐月賞で爆発四散した管理馬ダイランドウのことである。須田は短距離路線で進めたかったのだが、オーナー側がクラシック路線に意欲的であったため渋々皐月に使ったという経緯がある。その後手の平を返して短距離路線になどと言い出したので、今現在なんとか立て直そうと奮闘中だ。


「それで、どうだい」

「いいよいいよ。どんどん受けなよ。それで競馬が盛り上がるならいい事じゃない」


 須田は業界でもきっての開明派で、取材の申し込みを断らない事で有名だ。厩舎に他所の人間を入れることを嫌う調教師が多い中、レース直前のピリピリする時期であろうが、出走予定馬の馬房前でのテレビインタビューなども積極的に受けている。


「しがらきとか天栄の連中なんか殆ど報道シャットアウトじゃん。それじゃ馬券買うファンはつまんねーよ。特にコミさんとこのマルッコなんか可愛い馬じゃない。テレビに出たらきっと人気でるぜ?」

「まぁ、そういう下心がないでもないんだけどね。じゃあ恩に着るよ。取材オーケーで返事する」

「おう。あ、そうそう。恩に着るならさ、ダービーの後うちのダイスケと併せてくれよ。あの二頭、妙に仲がいいじゃん。なんかいい結果になりそうだしさ」

「おう分かった。じゃ、電話してくる」


 併せとは併走調教。ようは調教の手伝いの要請だった。

 ともあれこうして須田厩舎チーム小箕灘の馬房へテレビ取材がやってくる事となった。




 なになにーなにしてんだー? と興味津々で馬房から首を突き出すマルッコ。見慣れない女性の姿に首を傾げじーっと見つめている。やがてそこから視線を移してカメラを担いだ男性スタッフを見つめる。合点がいったのかそうでないのか、それを終えると傍らの小箕灘へ「ヒンッ」と小さく嘶いた。

 分かったような態度に何となく腹が立ち小箕灘はマルッコの頭を軽く引っぱたいた。叩かれた方はなにすんねんと視線で訴えたが、やがて興味を女性インタビュアーに移した。


 え、今のなに? と思いつつ、インタビュアー佐伯元子アナウンサーは取材の段取りを説明した。


「事前にご連絡いたしました通り、この馬のいいところについての質問と、ダービーについての抱負、この二つにつきましてお言葉を頂戴したいと思います」

「はい分かりました」

「それでは始めさせていただきます」


 佐伯はカメラマンに手を上げ、それを受けたカメラマンが撮影開始のカウントダウンを始める。




▼▼▼



「本日は須田厩舎、を間借りする形で中央挑戦中の羽賀競馬小箕灘厩舎所属サタンマルッコ号のインタビューにお邪魔しています。お話を伺うのはこの方。小箕灘スグル調教師です。

 小箕灘調教師、本日はお忙しい中取材をお受けいただきありがとうございます」

「いえ、こちらこそうちの馬を取材していただいてありがとうございます」

「さて、近年地方所属ないし地方出身からの日本ダービー参戦が途絶えていた中での出場おめでとうございます」

「ありがとうございます。多くの方の協力、並びに多くの幸運に恵まれ、晴れの舞台へ上がる栄誉を得ました」


――サタンマルッコが馬房の柵からしきりに首を伸ばしている。それを気にしながら答える小箕灘調教師。


「羽賀競馬に携わる方々からの激励やお祝いも多かったのではないですか?」

「そうですね。普段は結構、ライバルというか、同業他社みたいな感じでちょっとピリついてる部分があるんですが、今回マルッコのダービー出場に関しては沢山の方からお祝いのお言葉を頂きました。

 なにより、そうですね。どちらかというと栗東(こっち)の方々からのほうが、距離が近い分より直接的にお祝いされたかもしれませんね。この馬、栗東トレセンの皆様に可愛が

っていただいているので」

「ほう。可愛がって頂いている、というのは?」

「いやほんと、そのまんまですよ。この馬、愛嬌だけは一人前なもんで。なぁマルッコ」


――小箕灘調教師の声に反応して、サタンマルッコが嘶く。


「あっ、可愛い」

「こんな感じでね、名前呼ぶと返事するんですよ。だから皆様面白がっちゃって。馬場に出る時なんかいっつも声かけて頂いていますよ」

「人気者なんですね」

「ええ。ありがたいことです」

「そんなサタンマルッコ号ですが、小箕灘調教師から見て、この馬の競走馬として強いところを教えてください」

「はい。うーん、色々あるんですが、私は頭が良い事だと思ってます。つまり賢い」

「賢い。サタンマルッコ号がレースを走っている姿からはちょっと結びつき難い言葉が飛び出しました。それはどのような所から感じていらっしゃるのでしょうか」

「はい。まぁ見ていると賢いというより小賢しい部類の知恵者だとは思うんですがね。あぁほらマルッコ。噛まない」


――この日、レースのフリルがついた服を着ていた佐伯アナウンサーの裾を狙っていたサタンマルッコの頭を叩く小箕灘調教師。サタンマルッコは拗ねたのか馬房の奥へ引っ込んでしまう。


「えーと、こういう所ですね。羽賀に居たころから悪戯というか、結構悪さを働いていたもので」

「悪さ、というとどういった事なんでしょう」

「いやぁ~こいつには散々手を焼かされましたね。脱走とか盗み食いとか、調教サボったりだとか、色々です。この馬の小賢しいところはね、人間が本当に怒る事は絶対やらない

んですよ。人の顔色を窺うのが得意とでも言うんですかね、なんというかそういう不思議なズル賢さみたいなモノが明確に宿っていますよ。あ、スカート気をつけてくださいね。この馬ヒラヒラしたものを見かけると咥える癖ありますんで」

「あ、あはは。そういった部分がレースになると良く働くと」

「ええ。あ、いや全部が全部良く働いているわけじゃないんですがね。頭がいいもんだから騎手の命令に従わなかったりもするんですよ。

 そうですねぇ、皆さんに分かる形で現れている物を挙げるとしたら、この馬スタートが抜群に上手いでしょう。あれなんかが賢さの現われですね」

「ははー。なるほど。頭がいいから、ゲートが開くタイミングを理解している、と」

「そうですね。というよりこれは高橋騎手なんかが言ってたんですが、発走の声を聞くと走る体勢を取るんだそうですよ。スタートを上手く決めれば勝ちやすくなる、なんともズルい事考える馬だと思いませんか?」


――ゲートの発走は係員の合図後行われる。騎手はそれを聞いてある程度スタートを予測する。元々は発走機への衝突を防ぐための措置。


「あはは。そうなのかもしれません」

「今後の取り組みとしては、その賢さをレースへ向けてやることだと思っています」

「はい。ありがとうございました。続いてですが、ダービーへ向けての抱負をお願いいたしま――きゃあ!?」

「ん? あ! こらマルッコ! 下から出てくるなっていつも言ってるだろ! というかスカート離せ!」


――柵の下から寝そべったサタンマルッコが身体半分這い出て、佐伯アナのスカートをもぐもぐ咥えている。






「はい。ということでインタビューの途中でサタンマルッコ号が馬房から出てしまうというアクシデントに見舞われましたため、厩舎の外に出てまいりました」

「どうもうちのマルッコがすみません」

「ヒン」


――景色が変わって須田厩舎前。馬房からサタンマルッコが出てしまったため、屋外で並んでインタビューを続行することに。サタンマルッコはどこか得意気だ。


「ああいったことはよくあるんですか?」

「誰かが居るうちは滅多にやらないんですが、夜中とか扉を開けとくと間違いなく出ちゃいますね。普通の馬はああいう事しないんですけどね。手を焼かされています。はい」

「馬って横這いになって移動できるんですね」

「いや普通無理ですよ。無理というかそういうことしないですね。だから馬房の柵は通気性とかを考慮して下のほうは人が通れるくらいに開いてるんですよ。いっそのことベニヤかなんかで埋めてしまうか……いや、こいつ普通に柵とか乗り越えるしなぁ……」

「ご苦労なさっているみたいですね」

「まぁ、もうこんなの今さらですよ。こいつに日本ダービーなんて凄い所にまで連れて来て貰えたんです。今更細かい事言いませんよ。

 ダービーの抱負でしたね。ストームライダー他、世代の優駿が集まる場に出場出来る事を誉れに思います。勿論、出走する以上勝利を目指して頑張ります。可愛い馬ですんで、皆さん応援してやってください」

「ありがとうございました。以上、小箕灘厩舎サタンマルッコ号についてのインタビューでした」

「ヒヒン」

「お前は本当にもー」

「あはは」



▲▲▲




 そうして時間は過ぎていく。各陣営、それぞれの想いを乗せて。

 オークスが終わり、最終追い切りが終わり、ついにやってきた。

 この時が来た。


 ダービーウィークが、やってきた!


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夢の終わり-4



 現在のグレード制導入以前より競馬には八大競走と呼ばれる大きなレースが存在した。

その中でも競馬の本場イギリスにあやかり、三歳(旧四歳)のみに出場が許される三つの

レースを三冠レースと呼び、それは現代にまで続くGⅠ競走皐月賞、日本ダービー、菊花

賞となった。

 皐月は仕上がりの速い馬が勝つ。ダービーは運のいい馬が勝つ。菊は強い馬が勝つ。

 かつてより続く三冠レースに対する格言である。


 皐月賞には一定の理がある。三歳春という難しい時期に競走馬を心体共に仕上げきるの

は並大抵の事ではない。後の実力馬であっても皐月賞を取れなかった者は枚挙に暇が無い。

 菊花賞。これはやや時代にそぐわない内容となりつつある。

 そもそも昨今のレースプログラムにおいて3000mという距離はマイノリティになりつつ

ある長距離という区分であり、近代競馬においてこの距離に適正を持つ馬は年々減少して

いるといってもよい。そんな情勢の中、強いという括りには疑問を覚える。


 そしてダービー。

 ダービーにおける運のよさとは一体なんであるか?

 漠然とツキのような物を想像されるかもしれない。それはある意味で正しい。どれだけ

実力的に優れた馬と呼ばれようとも、一度どこかでケチがつくと不思議なほど全てが悪く

進む。だがそうではない。もっと物理的な要素として誰の目にも明らかな形で明示される。

 枠順である。


 枠順。レース前週の木曜午後二時に機械的な抽選で決定される発走ゲートの番号だ。

 現代ではコースの内側①から外側⑱までの番号が存在する。驚かれるかもしれないが、

原則として競馬は内枠が有利である。少し考えれば当然だ。最内枠と最外枠では20mほど

位置が異なり、それはオーバルコースが主流の日本競馬においてそのまま第一カーブへの

距離差となる。ありえない仮定だが、同じ馬が同じ速度で進んだ場合、必ず①の馬が先頭

を走る。

 では何故このような不利が公正を謳う中央競馬において放置されているかというと、競

馬が記録会ではなく競走であるからだ。賭博を前提とした競技に揺らぎは必須であり、そ

の要素がこの枠順だからだ。


 日本ダービーで使用される東京競馬場2400mコースは内枠が圧倒的に有利である。

 これはもう歴代の優勝馬が証明している。

 運だけではないだろう。しかし運の良さを持たない馬は勝てない。その通りだ。


 本当に強い馬が外枠に入らないから勝てないのか。

 いい枠を引くから強い馬なのか

 長く議論されがちな話題である。ただデータとして内枠の勝率は外枠と比べ圧倒的であ

るという事実だけ。


 いいではないか。

 いつか圧倒的な存在がそれらのジンクスをねじ伏せて勝てば。

 ジンクスなんて下らない。世の中に風穴が開いた気がするはずだ。


 いいではないか。

 実力一強とされる強い馬が有利な枠から圧倒すれば。

 やっぱりね、と勝ち馬に乗って、少し膨らんだ財布を抱えて月曜日の仕事へ向かえば。


 だから競馬は面白い。



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 またか。

 昼下がりの中川牧場。先程からチラチラと時計を見ては電話の近くをウロウロする。そ

んな夫の姿を中川ケイコは呆れた眼差しで見つめていた。


「ねえあなた。あなたがそうしていてもマルちゃんの枠順は変わらないわよ?」


 ケイコの言葉に牧場長件半農夫、最近は少し羽振りのいい男中川貞晴がキッと睨み付け

た。


「俺がこうしていれば、マルッコが内枠になるかもしれないだろ!」

「引くのは職員さんで、決めるのは機械なんでしょう? 第一あなたは出た結果を小箕灘

センセから教えてもらうだけじゃない。何の関係があるのよ」

「うるさい! あーもう喉が渇いた! 水飲んでくる!」


 平行線だ。

 まじないに頼るなら無意味に徘徊しないで祈祷でもしていればいいのに。

 口に出しかけたが、実際にやられると間違いなくうるさいのでケイコは茶請けの煎餅を

口に放り込んで静観を決め込んだ。


 電話が鳴る。間の悪い主人がドタバタ台所から駆け込んでくる。深呼吸をしてから受話

器を上げた。股の間からポタポタ水滴が垂れている。大方飲みかけの湯の身ごと水を零し

たのだろう。


「はい中川牧場――小箕灘センセですか!? あ、はい。それでマルッコは……8枠?

8枠16番? は、へ、は……はち、わく……あ、はい……はい……はい」


 ややあって貞晴は受話器を置いた。


「8枠16番ですって?」


 振り返った夫は茫然とした表情。


「ああ。ああ。ああ……お終いだぁ……せめて7枠ならまだ……あぁ……あああぁぁぁ―」

「んもう。別にどこだっていいじゃないですか。それに8枠って言っても16番なんでしょ

う? 外にまだ二つあるんだからいいじゃないですか。マルちゃんが大舞台に出る。それ

だけでも凄いことじゃない」

「おわりだぁ、俺の夢がぁ」

「羽賀で走れば御の字とか言ってたクセに、いっちょまえにダービー制覇を夢見てるんじ

ゃありませんよ。ほら、そんなことよりも。週末は東京に出るんですから準備してくださ

い。もう明日には飛行機に乗るんでしょう?」

「いや、俺はウチでまってる……」

「んもう! 関係者席で着る服を買ってくれるって約束だったじゃないですか! ついで

に二人で東京観光としゃれ込もうって! それから健治(むすこ)とだって久しぶりに会う

約束してるのよ! 飛行機代だって払ってるし! いつまでもグズグズ言ってないでさっ

さと用意しなさい!」


 この人、私が居なかったらどうなってたのかしら。魂の抜けた貞晴を揺さぶりながらケ

イコはそんな事を思った。



-----



 携帯端末を下ろした小箕灘は小さく溜息を吐いた。案の定、中川が気落ちしていたから

だ。やっぱりオーナーが持つあの貧乏神気質の所為で外枠になったのか? などと益体の

ない事を考える。


「8枠でしたねぇ。作戦、どうするんです?」


 5月24日木曜日午後二時ちょっとすぎ。いよいよ3日後に控える日本ダービーの枠順が発

表され、各陣営が一喜一憂しているちょうどその時。チーム小箕灘もまたその渦中にあっ

た。

 8枠16番。最悪とは言わないがもう少し内側が良かった。しかも


「ストームライダー2枠3番。ラストラプソディー1枠2番。スティールソード3枠6番。カタ

ルシス3枠5番。いやー有力どころが皆内に入りましたね。あとヤッティヤルーデス1枠1番

も個人的に熱いです」


 クニオの言うとおり、有力所が皆内枠というついてなさ。忖度民激怒待ったなしである。


「どうするったって、やることは一緒だろ。後は通じるかどうか、それだけだ」

「これストームライダーが先頭(ハナ)取ったらどうするんです? ありそうじゃありませ

ん? そういう展開」

「ない」

「どうして」

「ないことを祈る」

「……じゃあスティールソードがハナ?」

「ない」

「なんでです」

「ないことを祈る」

「んなアホな!」

「うるせえ! 今更馬の力信じないでどうすんだ!」


 重たくなってきた胃を抑えながら、小箕灘は苦りきった顔でそう言った。




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 5月26日土曜日夜。東京競馬場騎手調整ルームの一室にて、横田はベッドに横たわりな

がらぼんやりと天井を見つめていた。

 調整ルーム内でのレース前夜の過ごし方は騎手によって様々だ。横田も普段は軽食片手

に他の騎手と雑談したり、ビリヤード等各種遊戯に興じる事もある。

 ただやはり、世代限定戦……特にダービー前夜は調整ルームも雰囲気がいつもと異なる。

 浮き足だっている騎手、平静な振りをしてやはり浮き足立っている騎手、他人を動揺さ

せようとしにくる騎手、ピリピリ神経質になっている騎手。

 自分は神経質になっているな、と横田は苦笑する。今日だけは他人と空間を共有したく

なかった。食事を早々に切り上げ、それっきり部屋に閉じこもっている。


 一昔前と比べて、心理戦を仕掛けてくる騎手は減った、ように思う。騎手の気質が変わ

ったのか、世代の気性が穏やかになったのかは分からないが、それ自体は好ましい事だと

考えていた。

 新人時代、ベテラン騎手からのやっかみや圧力には辟易とさせられていたからだ。

 番外戦も含めて競馬だと言うのも理解するが、付き合わないのもまた競馬である事を理

解して欲しかった、というのが横田の正直な気持ちだった。

 枠順か。

 脳裏に浮かぶ無機質な番号8の16。枠などどこでも構わないと思っているが、やはりも

う1つか2つ内側の方が良かった――などと考えているのは弱気の現われだろうか。

 脳内で本番のあらゆる展開を想像する。逃げるストームライダー。逃げなかった本命各

馬。思わぬスローペース。もしくはハイペース。まさかの落馬。浮かんでは消えるそれら

は長くは続かない。これまでも散々繰り返してきたからだ。


 この馬で。サタンマルッコでダメだったら。


 ふと、そんな考えが脳裏を過ぎった。

 弱気は良くない。この馬の実力で負けることなどありえない、そう考えろ。


 誰かが言った。


「それほどの馬か?」


 そうだとも。あの馬の実力、才能を正しい形で評価できているのは、きっと己だけだ。


「14番人気の馬が?」


 世間の評価は必要ない。むしろあっと驚くだろう。それに馬券の人気は馬券の人気。実

力とは関係がない。


「ならばなぜ悩んでいる? いや迷っているな? この馬でよかったのかと」


 そんなことはない。運命だったんだ。この馬こそが。俺の。


「いいやそうだ。お前はストームライダーに乗りたかった。美浦のトレセンで一目見た瞬

間から、魂を奪われていた。違うか」


 ちがう。


「ちがわないさ。お前はただ勝ちたいだけだ。勝てれば乗る馬はなんだっていいんだよ」


 うるさい。俺はジョッキーだ。勝ちを求めて何が悪い。


「言葉が足りないぞ横田友則。ただのジョッキーじゃない。終わったジョッキーだ。もう

いい年だろ? 息子に代を譲れよ。老害となるより前に潔く身を引けって」


 俺は終わってなんかいない。


「今年に入って騎乗回数はどうだ。リーディングを離れて何年になる?

 その少ない騎乗でどれだけ勝った?

 その結果が今だろう。ついにダービーに乗る馬さえ困るようになって、あんな駄馬に跨

らざるを得なくなった。昔のお前ならいい馬の方から転がり込んできたはずだ。例えば、

ストームライダーみたいなな。

 分かるだろ? お前は落ち目だ。もう終わってるんだよ」


 おれはまだ終わらない。終わってたまるか。


「いいや、ちがうね。終わったっていいと考えている。ダービーさえ勝てば」


 ……ああそうだとも!

 ダービーだ! ダービーが欲しい!

 マグレでも、泥臭くても、汚くてもなんでもいい。ダービーが欲しい!

 皐月でも菊でもジャパンカップでも有馬でも天皇賞でも、凱旋門でもない!

 俺は! 俺は、俺は!

 俺はダービージョッキーになりたい!

 勝ちてぇ。勝ちてぇんだよ!

 どうして俺だけ勝てねぇんだ。2400mなんかどこだって同じだろ。なんでダービーだけ

勝てねぇんだ。アイツもコイツも、何度も勝ってんだから俺に譲れよ!

 勝ちてぇ。なんでだ、チクショウ。俺が何したっつーんだ。勝たせろよ。勝たせろよ!



 一度考えてしまうともう止まらなかった。堰を切ったように若い想いが次々と溢れて止

まらない。


 呻きながら乱雑に放られたバッグに這い蹲る。もどかしくファスナーを開き、目的の物

を取り出す。それはストップウォッチだった。

 押す。止める。

 それは競馬学校生時代から使用しているラップ計測用の練習道具だった。望みのラップ

を身体に刻み込むため、何度も何度も押しては止めてを繰り返した。いつしかその行為は

代償行為へと変化し、緊張した時や強い重圧を感じた時、冷静になるまで繰り返されるよ

うになった。

 押す。止める。押す、止める。

 何度も何度も何度も何度も――


 刻んだ時は万を越え、いつしか太陽は東より顔を覗かせていた。

 窓から差し込む薄い朝日が横田を正気にかえした。


 ああそうか。


 今日は日本ダービーだ。



 夜が明けた。


 日本ダービーが、やってきた!




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【朗報】サタンマルッコ、可愛い




1 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxG0

URL(***********)

なんやこのうまぁ……



7 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxc0

リアルベアナックル



8 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxx40

フリートもリアルベアナックル呼ばわりされてたな



12 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxa0

出れそうだなとは思ってたがほんとに下からでてきた馬は初めて見たwwww



17 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxH0

これはクソ可愛い

でも馬券は買わない



22 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxd0

女に人気しそう



23 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxw0

パドックで一目ぼれとかいって買いそう



25 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxv0

ゆうて100円やろ



26 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxx10

佐伯アナのスカートもぐもぐカットした無能をクビにしろ

というかそこかわれ



27 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxx20

女は競馬チャンネルとか見ないだろ



30 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxf0

全俺に人気



31 名無しさん@競馬板 20NN/05/25 ID:xxxxxxxK0

>>30

お前写真の奴だろw



33 名無しさん@競馬板 20NN/05/20 ID:xxxxxxxf0

>>31

な、なぜバレた……




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 ダービーに限らず、GⅠ開催の日は競馬場の空気が違う。

 それは人の多さから来るものであったり、普段見かけない出店のせいであったりと様々だが、形容するならば"祭りの雰囲気"そのものだろう。

 ここに、その空気にアテられてしまった男が一人。

 サタンマルッコ生産者兼オーナーという肩書きで関係者席の石像となっている中川貞晴その人である。

 大歓声が展覧席のガラスを叩いた。トラックでは第8Rの出走各馬がゴール板前を駆け抜けていた。遠めにも見て分かる着差の決着だった。


「あなた! ねえあなた! 見てこれ、当たったわ!」


 よそ行きの婦人服に意気も高々なケイコが的中した馬券を見せながら貞晴の肩をバシバシ叩く。貞晴はされるがまま身体を揺らし、あーとかうーとかゾンビのような呻きを返すばかりだ。

 久しぶりの外出をすっかり楽しむ気マンマンのケイコと正反対に、貞晴は朝方から緊張しきりだった。別にあなたが走る訳でもないのに、とケイコは呆れる事しきりだが貞晴に言わせればそういうモノではないらしい。


「ねえあなた。そろそろパドックに向かう時間よね」

「パドック……い、いい。俺は客席でいい」

「もー何をビクビクしているのよ。よその牧場の方と挨拶しなくちゃいけないでしょ?」


 日本では競馬は賭博としての側面を強調されがちだが、フランスやイギリスなどではレジャーないしは社交の場としての面も強く持つ。GⅠのオーバルパドックの真ん中でなにやら人が集まっているのを見かけると思うが、アレは日本で発露された社交の形だ。

 気の弱い貞晴としては、妙にきらきらしたやんごとなきご身分の方々と肩を並べるのは

遠慮したいところだった。


「なぁ、本当にいかなきゃだめか?」

「行くの。胸を張りなさいよ。マルちゃんは世代の頂点を決める18頭のうちの1頭なのよ。

子供の晴れ舞台にしょぼくれて隠れてる親がどこに居ますか。ほぉら!」

「あぁわかったよ行くよ。行くから離せよ」

「それにさっき当たった馬券も交換しなくちゃ」

「幾ら取ったんだよ」

「3連単47万円」


 貞晴が吹いたのは言うまでも無い。



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「調子はどうだよ」


 競馬場の地下馬房に顔を出した小箕灘は、クニオに訊ねた。


「センセイが一番知ってるでしょ」

「それもそうだな」


 しかしなんだな。こいつ、意外と正装が似合うじゃねえか。

 クニオの意外な面に驚きつつ、本日の主賓に目をやる。


「ヒン」


 よぉ。とでも言うかのようにマルッコは小箕灘に嘶いた。

 この期に及んでジタバタしないと決めていたが、やっぱり心配なものは心配なので足元を診る。

 迷惑そうにするマルッコを宥めすかしながら、蹄鉄や足の具合を確認する。


「センセイも落ち着きませんか?」

「お前は随分余裕じゃねえかよクニオ」

「だって俺、引いて歩くだけだし」

「お前結構大物だな……一応二人引きで周回する予定だが、オーナーはたぶんまともに歩けねぇから俺とお前で引くことになりそうだ」

「あはは。まぁあのオーナー、すぐ緊張しますもんね」

「そう言ってやるなよ。俺だって人のこと言えねぇんだから」


 膝が震えちまって。見せると、クニオはマルッコに目をやり、遠くを見つめた。


「そういや中央のデビュー戦の時も二人引きでしたね」

「ああ。阪神でやったやつか。あんときゃ酷い目に遭ったな。しかし懐かしいな。まだ二ヶ月しか経ってないってのに」

「あの頃、今日の日をこんな風に迎えるなんて思っても見なかったですよ」

「俺は、ちょっとは思ってたぞ」

「ほんとにぃー?」

「お前だって知ってるだろ。オーナーに啖呵切った話」

「それは聞いてますけど、今日こうやって、いよいよパドックに出るぞーみたいな場面、想像できてました?」

「……まぁ、出来てなかったな」

「何か俺も、イマイチ今が現実って感じしなくて。もしかしたら俺達は羽賀の馬房にいて、皆で昼寝かなんかしちゃってて。皆で同じ夢を見てるんじゃないかって」

「マルッコがダービー出走か。ずいぶん都合のいい夢だな」


 二人は顔を見合わせて笑った。



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「さて。いよいよ日本ダービー出走各馬のパドック周回が始まったようです。パドック解説はお馴染み、竹中さんでお送りいたします」

「よろしくお願いします」

「それでは順番に見ていきましょう。

 ①番ヤッティヤルーデス。508kg、国内での前走がないため馬体重の増減は記録されておりません。現在のところ7番人気となっています」

「んー……ちょっと元気が無いようにも見えますが、馬体のハリ、トモの造りなんかはいいものを感じます。外国の馬ということでね。環境が大きく変わった中でもこの落ち着きですから、実力を十分発揮出来る状態にあるんじゃないでしょうか。返し馬あたりで闘志に火が付けば、えぇ。この絶好枠ですからチャンスあるんじゃないでしょうかね」

「②番ラストラプソディー。474kg、マイナス4kgです。現在のところ2番人気です」

「いやぁ見違えました。皐月の時は余裕残しだった訳ですが、トモのハリ、それに気合の入った周回してますよ。馬体も絞れてガッチリしてきましたね。十分実力を発揮できる状態にありますよ」

「③番ストームライダー。498kg、プラス2kg。1.4倍の圧倒的一番人気に支持されています」

「相変わらず凄い身体付きしてる馬ですねぇ。惚れ惚れします。前走皐月賞であれだけ激しいレースをしてからのプラス2キロが実に頼もしく感じます。山中厩舎渾身の仕上げといったところでしょうかね」

「④番オーダナテンプク――……」



「⑯番サタンマルッコ。470kg、プラス6kg。現在14番人気です」

「この馬は栗毛の割にはパドック映えしない馬なんですがね、これがどうして今日はよく見えますよ。今日は集中して周回してますね。なんでしょうかねぇ、この馬が当たり前のことをしているだけで物凄い驚きがあります。発汗も見られずイレ込み等は問題なさそうですねぇ。非常に。非常にいい状態なんじゃないでしょうか?」

「続いて⑰番シルバーシックル――……」




「さて、パドックでは騎乗号令がかかり各馬へジョッキーが駆け寄っているところですが、竹中さん。ここでいつものようにパドックの総評をお願いします」

「はい。ではまず③番ストームライダー。皐月賞を勝った時はちょっとチャカチャカしてたんですが、今日はどっしり構えて落ち着いていますよ。馬体に関しては文句の付け所がありません。人気に応え得る、完全な仕上がりと言って良いでしょう。

 次に⑥番スティールソード。青葉賞の時ほどではないのですが、あれはあの時が良すぎたと言ってよいもので、今日が決して悪いという訳じゃありませんよ。状態は良好、好走が期待できるんじゃないかと思います。

 それから②番ラストラプソディー。馬っぷりに磨きがかかってますねぇ。雄大な馬体をぎゅっと凝縮したような鋭利さを感じます。展開次第では逆転もあるんじゃないでしょうか。

 さてそして私の本命。あえて今日本命とか対抗だとかそういう言葉を使ってこなかったのですが、それはこの馬のためだったんですねぇ」

「竹中さん、嬉しそうですね」

「はい。私の本命、⑯番のサタンマルッコです。パドックでも何とも怪しい雰囲気を醸し出してますよ。この馬は色々と変なところがある馬なんですけれどもね、今日はどういう訳だかやけに集中しているじゃありませんか。元から能力は十分だと思っていたんですが、これはひょっとすると、とんでもない物が見られるかもしれませんよ」

「竹中さんはスタジオでもサタンマルッコの頭からの馬券で予想していましたね。自信の本命といったところで結果はいかに」

「ふふふふー」




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「それでは日本ダービー、本馬場入場です。実況は馬場園アナウンサーです」


《晴天に恵まれました東京競馬場。芝、ダート共に良の発表。

 まさに晴れの日を迎えるのに絶好の日和でありましょう。

 世代を一強と言わしめた皐月賞馬の二冠への挑戦。

 これを阻む者が現れるのか、それとも並み居る強敵を倒して二冠を手にするのか。


 第NN回日本ダービー。それでは出走各馬の本馬場入場です。


 今年も、世代の頂点を決めるレースがやってまいりました。

 20NN年生まれ8032頭の頂点を争う、世代の優駿18頭をご紹介いたします。




 名前は偶々。フランスから来た秘密兵器。

 ルーデスさん家の一番馬。誰もやらなきゃ俺がやる。

 1枠①番ヤッティヤルーデス、海馬英俊!




 奏でる音色は歓喜に染まるか。

 父ラングランソナタのラストクロップが捧げる狂詩曲。

 1枠②番ラストラプソディー、川澄翼! 




 歓声に包まれてこの馬がやってきた。

 二歳チャンピオンは三歳になっても強かった。

 最早実力を疑う者は無いでしょう。

 ただ一頭だけが持つ三冠馬への挑戦権。

 竹山牧場英知の結晶。血に刻み込まれた優駿の軌跡。

 さあ嵐を引き連れて!

 2枠③番ストームライダー、竹中豊!




 決して楽な旅路ではなかったでしょう。

 想いを繋ぎ、たどり着いたる優駿の門。

 成れば全てがひっくり返る。

 2枠④番オーダナテンプク、田島歩!



 打たれても打たれても耐えぬき繋いだこのレース。

 重賞は取った。残るは栄冠唯一つ。

 直線勝負の末脚一気。炸裂するなら今日ここぞ。

 3枠⑤番カタルシス、後藤正輝!




 切り裂き駆けた府中24。

 父より継いだ鋼の魂。

 嵐を切り裂く剣となるか。

 3枠⑥番スティールソード、細原文昭!




 ドイツが生んだ名優の仔。

 世代を制してその名を示さん。

 4枠⑦番イイヨファイエル、下田撤兵!




 ハナ差で掴んだ皐月賞出場。クビ差で繋いだ日本ダービー。

 進化を続けた強者の細胞が今日は勝ち取る優駿の栄冠。

 4枠⑧番ゲノム、池園勇美!




 歩んだ道のりは誰よりも長く。

 急がば回れ。行けば分かるさ。

 5枠⑨番グルグルマワル、熊田敏也!




 苦戦の続く世代戦。

 名前に夜を冠せども。明けない夜など存在しない。

 行くは夜の向こう側。

 5枠⑩番ナイトアデイ、福岡祐一!



 世界を制したステッキが特別な一日に魔法をかける。

 6枠⑪番ホーリディ、アンドリュー・クワセント!




 2歳札幌で見事に魅せた豪脚一閃。

 強く短く大地を踏みしめ、

 6枠⑫番アスノスタッカート、澤沼修治!




 結束が生んだ約束された夢舞台。

 鋼の絆に国境は無い。

 7枠⑬番コーネイアイアン、イデラート・ホックマン!




 重賞二勝の北の韋駄天。

 海と山と黄金を携えて。

 7枠⑭番マリンシンフォニー、山平金次!



 説明不要のいぶし銀。人馬一体、

 7枠⑮番メイジン藤田!



 正体不明の栗毛の怪馬。

 羽賀から来た丸(アイツ)。

 8枠⑯番サタンマルッコ、横田友則!



 鞍上海老名は年男。

 銀の鎌を振りかざし、取るはダービー唯一つ。

 8枠⑰番シルバーシックル、海老名外志男!




 苦節二十年、初めて掴んだ夢舞台。

 8枠⑱番ヘルメスアイコン、久留米栄吉!




 以上、出走18頭のご紹介でした》



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《さぁ、ファンファーレを終えて、いよいよ各馬がスタートゲートに収まっていこうという所。正面スタンド前では出番を今か今かと待ち構えている人馬が輪乗りをしています。


 皐月賞馬ストームライダー、鞍上竹田豊の心境は如何なものか。

 或いは逆襲を狙うラストラプソディー、川澄翼はどうか。

 生涯一度の晴舞台。導く騎手達の心境は如何に。


 まず奇数番号の馬が収まって行きます。

 ①番ヤッティヤルーデスが収まり、③番ストームライダーも無事収まりました。

 順調に各馬が枠入りを……っと、⑬番コーネイアイアンがちょっとゲート入りを嫌がりましたが、鞍上ホックマン騎手に促されて従いました。

 続いて偶数番号の馬が収まってまいります。順調に枠入りが進んでまいります。

 さぁ。さぁ。会場のボルテージが高まってまいりました。

 最後に⑱番ヘルメスアイコンが収まりました! 係員が離れます。


 第NN回……日本ダービー……スタートしましたッ!




 スタート絶好⑯番のサタンマルッコ! 他出遅れもなく揃ったスタートとなりました!

 1コーナーへの先頭争い、好スタートの⑯番サタンマルッコがぐんぐん加速して先頭(ハナ)を奪う形。外のほうからすいすい進んで内へ寄せてまいりました。

 内の方では②番ラストラプソディー③番ストームライダー辺りが前に出ている。

 ⑧番のゲノム、⑩番のナイトアデイは後ろに下げた格好で1コーナーへ各馬進んでまいります。


 先頭は、今日はハナを切った⑯番のサタンマルッコ。3馬身ほど切れて②番ラストラプソディー、いや⑥番のスティールソードが外から上がっていきました。その後ろ。その後ろに皐月賞馬ストームライダーが追走しているぞ!

 内の方に④番オーダナテンプク、⑦番イイヨファイエルなどがいて、さらに⑪番ホーリディ、⑧番ゲノム、⑤番カタルシスなどが追走しているようだ。


 おっと。

 おぉっと。

 場内がどよめいている。先頭のサタンマルッコが後続を大きく引き離し始めた。

 2コーナーを抜けて間もなく1000mを通過……58秒と少し。58秒と少し! これは速い!

これはダービーにしてはちょっと速いぞ!

 大丈夫なのか横田。果たしてこの馬はそれでいいのか。どうなんだ横田友則。この馬はそれでいいのか。


 馬列が向こう正面を進みます。

 先頭の⑯番サタンマルッコが二番手集団を12、3馬身離している。二番手集団先頭は⑥番スティールソード。切れて二馬身内ラチ沿いに②番ラストラプソディー。その外③番ストームライダー。後ろに④番オーダナテンプク、⑦番イイヨファイエル、⑨番グルグルマワルなどが居て、⑧番ゲノム、⑤番カタルシスが内ラチ沿い、⑰番シルバーシックル、⑮番メイジンはややかかり気味か外目を上がっていっていますが、この辺り馬群が一団となって固まっています。

 その後ろに切れて1馬身①番ヤッティヤルーデス、⑫番アスノスタッカート、その後ろ

に⑱番ヘルメスアイコン、⑭番マリンシンフォニー、⑬番コーネイアイアン、最後方⑩番ナイトアデイといった体勢となっています。ナイトアデイ福岡騎手は腹を括ったか後方待機の大胆な騎乗をとりました。


 ざわざわと。場内が静かにざわめき出しております。


 先頭の⑯番サタンマルッコが向こう正面の坂に差し掛かかります。後方とはリードを10馬身ほど空けているぞ。


 二番手集団も間もなく坂に――おっとここで最後方⑩番ナイトアデイがすーっと押し上げてきた。にわかに色めき立つ各馬。

 3コーナーに差し掛かる。ペースが一気に上がってきました。

 二番手先頭は変わらず⑥番スティールソード。内の②番ラストラプソディーはもう外目に持ち出して抜き去ろうという構え。③番ストームライダーはその後ろで内に入れたようだ。

 さぁ4コーナーの中間、後方集団が一気に加速して先頭を走る⑯番サタンマルッコとの差を詰めてきている! ⑦番イイヨファイエル、⑧番ゲノムは外に出した。⑯番ナイトアデイが①番ヤッティヤルーデス等を伴って一気に追い込んでくる!


 直線を向いた!

 サタンマルッコがまだ先頭リード2馬身!

 スティールソードとラストラプソディーが追い上げてくる!

 後ろの方は伸びが苦しい!


 残り400を切った! キタキタキタ! 後ろから内目を突いてストームライダーが物凄い勢いで襲い掛かる!


 あっという間! 並ばない! あっという間にスティールソードとラストラプソディーを抜き去り、サタンマルッコを、


 サタンマルッコに、


 サタンマルッコが、まだ粘る! まだ粘っている!?


 サタンマルッコがまだ頑張っている! 懸命に粘る!


 ストームライダー鞭が入る! あと200! 後続との差は開いている!

 竹田の右鞭が唸る! ストームライダー追っている!

 しかし! 差が詰まらない! サタンマルッコまだ粘る!


 いや、これはサタンマルッコ、伸びている! 1馬身、2馬身、差が開く!


 なんだこれは! どういうことだ!?


 ストームライダーは伸びが悪い!


 サタンマルッコだ。


 サタンマルッコだ!


 サタンマルッコだッ!


 横田の執念ッ!


 サタンマルッコ、一着でゴールインッ!》



------



 直線を回ってから絶対に出さないと決めていた声が出た。

 400を切った辺りで絶叫していた。

 200を切ったあたりではもう自分が何を言っているのか分からなくなっていた。

 そしてゴール板を駆け抜けた瞬間。


 わーとかおーとか、そういう文字に出来るような音ではない叫びを上げながら、同じく意味不明な音を爆発させているオーナー、クニオ、夫人と抱き合った。


 ああ。


 ああ。


 ああ!


 マルッコが勝った!



------



《……――二着にストームライダー! 三着入線はどうやら⑥番スティールソード!

 無敗の皐月賞馬ストームライダー敗れるッ! 波乱の結末を迎えた日本ダービー!


 勝ったのはゼッケン番号⑯番サタンマルッコだ!

 嵐を引き連れて、府中2400mを鮮やかに逃げ切りましたッ!

 侮ってはいけなかった、この男、横田友則の逃げを侮ってはいけなかった!


 おっと場内のどよめきが大きくなりました。

 あぁなんということだ。なんということでしょう!

 電光掲示板には戦慄のRの表示!


 第NN回日本ダービーはレコード決着! 2分23秒0のレコード!

 恐らく世代戦では塗り換わることは無いだろうと思われていた、ドゥラメンテの

2分23秒2を0.2秒縮めました!


 恐るべき怪馬! どうしてこうなったのかまるで分からない!

 横田は知っていたのか、知っていての騎乗だったのか、馬の能力を信じての騎乗だったのか。

 今、2コーナーからサタンマルッコに乗り、横田騎手が……あぁ。横田騎手泣いています。声援に何度も何度も頭を下げながら、口元が描くありがとうございますの言葉。

 相棒の背に揺られ、今、ゆっくりとスタンドへ戻って来ます。

 何度も涙を拭いながら、横田騎手が帰ってきました。


 うん? サタンマルッコが足を止めました。横田騎手も目を丸くしている。

 おやおやおや。なんでしょうね、もうこの馬には驚かされっぱなしです。

 サタンマルッコ、ゴール板の前で高々と嘶きました。歓声にも負けない美声を披露して……あぁ。


『ヒィィィィン!』『オォイッ!』『ヒィィィィィンッ!』『オォォォイッ!』


 はは、あははは。本当におかしな馬です。コールアンドレスポンスとでも言うんでしょうか。スタンドのお客さんと掛け合っております。どうだと言わんばかりの勝ち鬨。

 颯爽と駆け出して、今、地下馬道へ戻っていきました。


 どこからどこまでも破天荒な馬です。全く訳のわからない競走馬です。

 しかし一つ私達の胸に刻み込まれました。


 彼こそが、今年のダービー馬なのです》



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「放送席、日本ダービーを制しましたサタンマルッコ号鞍上、横田騎手にインタビューいたします。横田さん、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ふふっ、目が、赤いですね」

「いやぁ、お恥ずかしい。しんみり帰ってこようと思ったんだけどね、マルッコが騒がしくするもんだから、涙も引っ込んじゃったよ。ほんと変な馬ですよ」

「最後ゴール板前で嘶いていましたね。あれは横田さんの指示ではなく……?」

「いやほんと、勝手にやり出しましたよ。いきなり鳴き出すからビックリですよ。普段から色々変なことする馬なんだけど、これは飛び切りですね。でもお客さんと息ピッタリで良かったです」

「そうだったんですね。では横田さん。ダービージョッキーになって、どんな気分ですか」

「…………言葉では言い表せないですね。僕もマルッコに合わせて、感情に任せて一緒に叫んでおけばよかったかな。形にするなら、たぶんそんな感じ。あ、でも一つ。

 親父、勝ったぞ。俺、ダービージョッキーになったんだ。凄いだろ。

 ダービーじょ……ダービージョッキーに、なたん、だ。俺が、やった……すいません、ちょっともう無理……」

「父の代から続いた因縁を晴らしましたね。改めて、おめでとうございます」

「ありがとう、ございます…………! ご関係者の皆様並びに応援してくだしゃったファンのみにゃしゃま、本当に、ありがどうございまじだッ!」



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