第12話 行くな!

「あそこは始まりの街で、高レベルNPCはいないでしょ」

「私がいたじゃないか。この世界唯一の賢者だ」

「他には?」

 その問いにいつも饒舌に話をするユリウスが押し黙る。

「いないのね。というか、いたらきっと戦闘に出てきたはず。違う?」

「君が戻らなければいけない理由にはならない。行くな、行かないでくれ!」



「ごめん」



 私はユリウスの手を振り払った。

 私にはじめ死を望んでいたはずのユリウスの顔が絶望した。

 彼は知っているのだ。

 私のパラメーター的に、私が走り出せば、自分では追いつくことができないことを。

「待ってくれ」


 私のことを心の底から考えて出た言葉を私はいつ振りに聞いただろう。

 後ろ髪をひかれないといえばうそになるけれど、このままでは街は落ちてしまう。

 風を切り、先ほどよりも早い速度で私は走り出した。






 街の門は閉ざされているが、ほかに戦いに出ている者はいなかった。

 あふれかえる数えきれないほどのキラーアント。

 これだけの数がいるから脅威なのであって、1匹1匹は大したことはなく。

 通常であれば、何匹か敵を連れ帰ってきても街の門番が処理してくれる。

 数さえ減らせば行ける。



 さすがに無謀だと思う。

 女神の元に戻ってコンティニューはもうないかもしれない。

 ここは私が一番長くいた街で愛着がある。

 そして、ギルトに登録している者はランクに応じて責任が発生する。

 私はここから逃げ出せば、それなりのペナルティーが当然あるけど、私がもどったのはそれだけが理由ではない。



 ランクに応じて責任が発生する。

 ユリウスは言うことはなかったけれど、この世界で唯一の賢者という称号を持っているなら、ユリウスが逃げた際課せられるペナルティーは私の比ではないことだろう。


 あとは吠えて、ヘイトをためて。

 向かってくるのを減らすだけ。


 繰り返される単調作業。

 殴って殴って殴って、HPがじわじわと減る。

 痛みをほぼ感じることがなかったのに、体のあちこちが怪我に応じて痛み出す。

 数えきれないほどの積み上げられる死体に足を取られつつもさらに蹴散らす。

 痛みは今までにない集中を私に持続させ今までで一番いいプレイだと自分でも思えた。

 永遠にかかるかと思われた時間は私のHPの著しい現象により、いよいよ終わりを迎えようとしていた。



『警告 過度なダメージを受けたことにより、装備品が破損します』

 警告音とともにメッセージが流れた。

 頼みの綱の武器である剣がとうとう折れた。

 ゲームでは使えなくなっていたが、折れてはいるが、剣は私の手の中にあった。

 振り回すと威力は下がるが、攻撃できないことはないようで。

 今までのゲームでのプレイとのずれに、あぁ、ゲームシステムが微妙に違うと実感してしまう。


 死んだらどうなるのだろう。

 コンティニューができないかもしれないとユリウスはいっていた、私は元の世界に帰るんだろうか。

 それとも消えてしまうんだろうか? パラメーターのおかげで全身がずきずきと痛み、ひどい倦怠感のある中でそんなことをぼんやりと冷静に考えた。



 もし向こうの世界に帰ったら、思い切って仕事やめよう。

 気が付いたら、逃げるって選択肢が消えてた。

 消えちゃったら、私って最後に何を思うんだろう。



 その時だった、固く閉ざされた街の門が空き、中から兵士がでてきた。

 そう、ある程度敵の数が減り、残りは兵士だけで処理できる数になったのだ。


 安堵とともに体の力が抜ける、地面に横たわる私の手足にここぞとばかりにキラーアントがかみつく。

 痛みにもう声を上げる気力すらないことに気が付いた。




 さすがにこの死に方は嫌だな。

 そう思っても体はもう動かなかった。

 その時火球が飛んできて私の上にのぼるキラーアントが吹き飛ばされた。


 ぼんやりとした視界に、もう見れないと思っていた金髪ときれいな顔が目に入って。

 最後がアリのドアップじゃなくてよかったってことを思って私は自分のHPが0になったのを確認してブラックアウトした。



 



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