第10話 くそったれ
木は思ったよりも簡単に引っこ抜けた。
ぶん回すとリーチがあるので敵を倒すのにちょうどよかった。
バカバカバカバカ!
ちょうどいいから怒りをぶつけた。
一匹ごとの経験値はたいしたことがない。私のレベルになると、もうほぼもらえないも同然。
いかんせん数が多い。
さすがに疲れて木を地面に置いて立ち止まる。HPは減らなくても疲労がたまってるのだと思う。一匹が私の足に噛みついた、痛みが走った。
あくまで、あっイテテ くらいだけど。
レベルが高いからほんの少ししか痛みを感じなかったけれど、ゲームは本来痛みなど感じない。一定以上ダメージをくらえばどうなるのか、冷静になるとどうすんだこれである。
虫に食い殺されるのは勘弁である。
「こっちだ!」
その声が挑発扱いとなるのだろう、攻撃を止めた私からヘイトが別の人物にむいた。
ユリウスは明らかに私よりレベル低そうなのに挑発してどうするのだ。
1匹が噛みつくとイテテwって私と違いユリウスの顔が引きつる。
ユリウスが痛い思いをしているのだ。
「何してるのよ。魔導師が挑発なんかしてどうするのよ」
「うるさい、このままじゃ君が死ぬだろ。援軍はどう考えても来ない」
ユリウスは真剣な顔でそう言う。
けど、私はつかれているだけでHPはたぶんほとんど減ってないと思う。
しかし、攻撃を受け始めたユリウスは違う。後衛の防御力と言うのは総じて低いものだ。
私は地面に木をぶっさして、腰に手をやると、もう片方の手でかかっておいでと挑発を行う。
「ほら、あんたたちの相手は私よ」
私が挑発を行うと、ユリウスに向かっていた敵はとりあえず私へと向きを変える。
「こちらだ!」
ユリウスが再度声を張り上げるが、ユリウスと私では挑発のレベルが違う。
ユリウスが呼んでも、高レベルの私の挑発のほうが優先される。
木を再び握って向かってくるアリを叩く。
「癒しの精霊よ。私の呼びかけに応じて彼女の傷を癒せ」
ユリウスはヘイトが完全にむいていた私に対して癒しの魔法を発動させる。
私の傷を治したことによって、ヘイトの値が挑発を行った私に回復魔法をかけたユリウスにむく。
普通オンラインゲームでは、いかに後衛は敵のヘイトを貯めずに回復できるか考えているのに、それを利用してユリウスは挑発ではとれなかったヘイトを私から奪う。
「何を考えているのよ、NPCの貴方は何かあればもう蘇ることができないのよ」
「そんなこと知っている。私は賢者だからな。だから、君は逃げろ……」
だから何だって言うのよ。
ユリウスのローブが破れ、血がにじむ。
まずいまずい。
「私は大丈夫だから、ユリウスのほうが逃げなさいよ。それにこんなの私一人では厳しくても他のプレイヤーが来ればすぐに」
「他のプレイヤーは来ない。だから逃げろ、君も死んだら女神のもとに戻され再びコンティニューできるとは限らないんだ」
「は?」
ユリウスはハッキリと他のプレイヤーは来ないと断言した。
ユリウスは自称、この世界でたった一人の賢者だと名乗っていた。なにか確証があるとでもいうの?
「あぉおおおおおおおおおん」
もう一度天に向かって吠える。敵の動きが止まったので、敵を避けてユリウスのもとへいき、ユリウスに噛みつくアントを倒すと、私はユリウスをお姫様抱きすると、街とは反対の方向に走った。
木々の間を全速力で走る。
私に抱えられたユリウスが、自分に回復魔法を使い傷がふさがる。だけれど、防具についた傷は治らない。
「どういうことなのよ」
「流石にあの大軍を君一人で捌くのは無理だと判断して、私はプレイヤーに助けを求めようとしたんだ。私は普段城の一室から出ないから、気がつかなかった。君はこの世界に来て他にプレイヤーをみたか?」
思い返してみると、NPCとばかり話している。いくら始まりの街とはいえプレイヤーが0ってことは絶対にないはず。
あまり会わないことはあったとしても、ここにきて数日一人も合わないというのはあまりにもおかしい。
「他のプレイヤーには会ったことがないわ……」
「私は君をこちらの世界に引っ張り混むために魔法陣を考え、世界の壁を越えて干渉した」
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