第9話 キラーアント

 私は宛てもなくユリウスの家を飛び出した。

 せっかく作ったのに、噴き出すだなんてひどい。それだけではなく、ユリウスはいつも通り私に怒ってきたのだ。

 何が歩み寄りだ、表面だけじゃないかと悪態をつきながら風を切り走る。



 結婚したようなのに現実と同じで私の恋愛はちっともうまくいかない。

 街の外に私は走る。


 ギチギチ……。


 ギチギチギチ……。



「うるさい!? 感傷くらい浸らせろ」

 草むらから飛び出してきたアント系の魔物を私は殴った。

 私が殴ると、アントは木っ端みじんになりアイテムが散らばる。


 ギチギチ……。

 ギチギチギチギチギチギチ……。


 10や20ではない、何匹いるのか目視で確認できないほど大量の敵が現れた。




 今日はついてない、これはまれーーーーーーーーに起こる大量発生した魔物が街を襲うイベントだ。

 普通はこの街に滞在してるような冒険者が囲まれたら終わるようなものだけれど、私はここに本来いる冒険者ではない。だから、1匹1匹はなんてことない。


 両手を合わせて気合いを入れる。

「あぉおおおおおおおおおん」

 私の気合い入れのための咆哮がこだまする。

 ゲームとは違い、私が実際に声を出すと思ってだしたために、咆哮のイメージが実家で飼っていた犬になったため、いささか咆哮というか犬の遠吠えのようだけど、咆えたことで敵に囲まれているけれど、逃げ出さず此処で踏ん張る覚悟のようなものが私の中で決まる。




 カンストした私の咆哮は効果範囲が広い。

 聞いたものは、怯え身体の動作を一瞬躊躇する。

「遊んでやるわよ、雑魚モンスターめ」

 手初めに最初の敵をタガーで切り裂いた。



 しかし、数が多くリーチの短いタガーでは苦戦する。殻が硬いようで、20匹ほど休憩をとらず刺していると、武器の耐久性が著しく低下と表示された。


 咆哮をぶちかましてしまったため、敵のすべてのヘイトがこの場にたった一人いる私に向いている。




◆◇◆◇



 街では異変が起きていた。

 ビリビリと咆哮の声がこだました。

 どこから聞こえてきたのかわからない、それでも3秒も身体の動きが硬直し止まった。

 かなりレベルの高いモンスターが攻めてきたか、大量のモンスターとやり合うべく、足止めするために誰かが大きな声で咆えたのかどちらかだ。


 街の人たちはすぐに窓を木で塞いでいく。



 兵士はすぐに城の前に集まり、5~6人ほどのパーティーを作り街の外の様子を偵察する準備を手早くしていた。



 たった一人、ユリウスは森へと走っていた。

 外にいた私以外のすべての人が2~5秒の間咆哮のせいで怯え固まる。それほどの広範囲に響き渡る高レベル者が出しただろう咆哮が後衛の私に全く効かなかったのだ。


 となると、私にだけ効果をもたらさない相手となるとユリウスには一人しか心当たりがなかったのだ。

「家を飛び出したと思ったら、一体何を考えているんだ家の妻は!!」




 門から外に出ようとすると、門番に止められた。

「アント系の大量の魔物が来ています。こちらの門から外へは出られません」

「馬鹿な、立てこもったところでいずれ門が壊されるのが落ちだぞ」

「外で交戦中の方が足止めしております。かなりの高レベル者だと思われますが、誰かを守りながら戦うのは数的に不可能です。人を出さないことが今回の最善です」


 交戦中だと……。

 門は開ける気配はない。私は急いで門の上に上るべく階段を駆け上がり、街の外を見渡せる見張り塔に上った。


「あたりを照らせ、ライト」

 魔法を唱えて、こちら側一帯を明るく照らす。

 ここからでも見える、街からたった30mほどしか離れてないところで、黒い群れがうごめく。


「サーチアップ」

 より拡大してみるために魔法を2重展開する。


 アント系の魔物の大群がいて、その中心で時折挑発してすべての敵を引きつけ、その辺の木をおそらく引き抜いてぶん回す恐ろしい女が一人いた。

 



 妻だ……。


 


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