第3話 私は嫁………婿?をゲットした

 結婚はしたかった。

 私は多くの人間の結婚をこれまで見送ってきたのだ。

 仕事と恋愛の両立というのは難しい。恋人とは、残業を変わって深夜に帰ってきたから今から会おうなど言うことはなかなかできないのだ。


 だからって、今なんでこんなことに……。いや確かに彼には求婚していたとは思う。酒が入ってるときも、ストレスがたまったときも毎回軽い感じで、結婚してよ~ってのは散々いいました。


「ユリウスさん」

「ほっといてくれ」

「ユリウスさん」

「ほっといてくれ」

「…………」

「ほっといてくれ」

「せっかく夫婦になったんだから」

 ほっといてくれしか言わなくなったユリウスがこちらを向き私の襟首を掴んだ。



「ちょっとまった、落ち着こう。ほら。ねっ、一応女性だから。無言で襟首つかんで持ち上げていいもんじゃないよ。ゲーム内じゃなかったらやばいってこれ」

 私の足が地面を離れて浮きそう。

 口では軽口を叩いているけど、結構苦しい。


 グッと苦しさからうめき声を上げると。

 ユリウスの手は離れて私はその場で座り込んで盛大に咳きこんだ。

「すまない。今は動揺してしまっている。しばらく失礼する」

 そういい残して、ユリウスは部屋を後にしてしまったのだ。



 いやいやいや、残された私はどうすればいいのよコレ。

 恐る恐る部屋から出てみる、画面越しで見たことがある景色が広がっていた。

 VRみたいなものだと思えばいいのよ。うん。そうよ。

 そう思って歩いてみる。




 どうなるものかと思ったけれど、結構楽しいかもこれはこれで。

 屋台で買った物を実際に口に運べば味がするし。なんか新しい楽しい。

 ビールもうまーい。


 私自身レベルも結構あるし、クエストもかなりこなしてるからお金もあるし。とりあえず当分は何とかなりそう。

 最悪初心者向けの何回でも繰り返せる、夕飯の材料の買いだしのさえしてればモンスターを倒すことなく、生きてくのに最低限必要なパンと牛乳と僅かばかりのお金もらえるし。

 当分それで生計を立てよう。というか、ゲームの中に私が入り込むこと自体が本当は夢だったのよ。なら存分に楽しんでやろうと私はマップを思いっきり移動していた。


 右上にマップが表示されてないのが不便だけど、大体の道はわかるし。とりあえず当分は此処を拠点にしよう。万が一戦う必要が出たとしても始まりの街だから敵も弱いからね。

 となると、宿に泊るよりかは家を借りたほうがお得かもしれない。

 実際のプレイは初めてでも、それなりにやりこんだ私は家を借りるくらいの金はあるのだ。



 そんなこんなで家探しをしておりました。

 実際に住むわけだから、どんなところかちゃんと見ておかないといけないわと何件目かに足を運んでいた時でした。


「おい」

 外装はいまいちかな……でも大事なのは部屋の間取りと状態だからなぁ。

「おい」

 とりあえず、ベッドだけでもあれば、食べ物は外で調達すればいいから早速すめるわね。

「おい」

 さっきからうるさいなぁ。何度も呼んでも返事されないあたり嫌われてるんじゃないのかな~。

「おい!!!!」

 先ほどよりも大きな声で、思わず誰だ非常識な奴はと振り返った。


 そこにはユリウスが大きな声で怒鳴ったせいか肩で息をしていました。

「一度でちゃんと返事をしたらどうだ」

 ん? もしかしてずっと私のことを呼んでたの?

 ユリウスは見るからに不機嫌そうにプリプリとしている。

「あぁ、私のことを呼んでいたんですか。ふーん、それで? 何か御用ですか?」

「何か御用? じゃないだろう。君が部屋にいないから私はこうして散々探し回ったんだ」

 先に部屋を後にしたのはユリウスのほうだと言うのに何なんだろう。



「あなたがどこに行ったかわからなかったので、とりあえず生活拠点を整えねばと今家を借りようかと見て回っていたところです」

「家!? なんだ、その君の無駄な行動力は。第一私はしばらく失礼すると言っただろ? だから、落ち着いたらちゃんと部屋に戻るつもりだったんだ。なのに君ときたらいなくなっているし。城内の者に聞いたら、普通に『城から出ていかれました』と言われるし」

 そう言われれば、『しばらく失礼』とか言っていた気もするけれど。

 戻ってくる気があるかどうかなんてわからなかったのだからしょうがないじゃんと思っていたら全部口から出てた。



「それは、そうで。私が……確かに、ほんの少しばかり言葉が足りなかったかもしれない」

 意外と反省をしている。

「それで何の用です?」

「何の用って……」

「いや、だから何の用ですか? 言わないとわからないですよ」

「君はそうそうに私と別居するつもりなのか?」

 は?




「あれほど毎晩毎晩私にパンツの色や結婚しようと言ってきていたくせに。いざ結婚して私が手に入ったらそれで用済みと別居するつもりなのかと聞いている」

 私のことゴキブリどころじゃないほど嫌ってたじゃん、完全に殺すつもりで来てたじゃん。

 ほんの少しの間に何があったレベルで頭がついていかない。


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